追っかけ日記

last modified at 2001.06.24

書下ろし

[09.13] [09.14] [09.15] [09.16] [09.17] [09.18] [09.19] [11.12] [11.13] [11.14] [PROGRAMME]
せっかくMünchner Phil.がゲネプロを一般公開して居るのに、過去2回Wandのゲネプロを聴き損ねて居る。
1999.06のは、仕事の調整に失敗した。 1999.09のは公演自体がキャンセルだった。
楽譜が読めないから、尚更、Probeは興味がある。 声量的にも語学力的にも、指揮者の指示を理解するのは、僕には無理だけれど、それでも、どういう時にオケを止めるのか、どういう風にバランスを調整して行くのかを見学して居れば、それなりに面白いはず。 完成品だけを聴いて居ると聞き逃してしまう指揮者の意図を感じる貴重な機会なのだ・・・が。

2000.09.13 (Mi)
前夜遅くに常宿に到着。 睡眠十分。 何時もながら、時差ボケは無い。
10:00過ぎにTageskasseで予約して居た券を受け取り、初めて聴くゲネプロをワクワクしながら待って居ると、やや遅れてWand登場。 颯爽とはまでいかないが、介添えの手を振り切って指揮台に登って居た。

指揮台に登ると、いきなり、譜面台のスコアをパタンと閉じた。
本当はそんなに音はしなかったかもしれないが、「何を今更、初日前日にスコアを見なきゃならんのかね?」という仕草は、象徴的だった。 おもむろに振り始め、Pauseもそこそこに、一気に振り終え、去って行った。 Wandのブル8を聴いたという点では勿論満足出来たのだが、WandのProbeを聴いた気がしなかったのは残念至極。

夜、再びGasteigへ。 他に面白そうなのが無かったので、取り敢えず、リットン。 実は、殆ど記憶にない(^^;) ショスタコを聴きながらSanderlingだったら大分印象が違うんだろうなぁと思いつつ聴いて居たことと、Block N (* 最上段の方 *)の周囲は殆ど人が居らずすっかりくつろいで聴いて居たこと・・・後、何かあったかな。
まぁ、Wandに挟まれた演奏で、無茶苦茶腹が立ったので記憶に残って居るという訳では無かったんだから、それなりに凡庸な演奏だったのだろう。

2000.09.14 (Do)
この日はアルメニアに行くつもりだった。 2000.07の八代秋雄の交響曲(広上/日フィル/Suntory Hall)の休憩時間、喫煙所でお会いした井上喜惟さんから「秋にアルメニアで八代を振りますよ。 聴きに来ませんか?」と誘われて居たのだ。
これがもしWandの数日前か後だったら、無条件でアルメニアに飛んで居たと思う。 だが、井上さんは未だ若い。 一方のWandは、今聴かないともう二度と聴けないかもしれぬ。 そう思うと、4日通しでWandを聴く方を選択してしまった。 翌日合流したアルメニア経由組の、井上さんの八代がとても良かったと言う話を聞いて、羨ましく思ったのも事実だが、後悔はして居ない。

2000.09.15 (Fr)
演奏は、前回聴いたHamburgの印象に近かった。

以前のWandの音は、頑固爺の強引さが、余りにも直接的に表現されて居て、聴き疲れを覚えて居た。 それが、前回聴いたHamburgの演奏辺りから、音の濃淡が出て来て、一層面白くなって来た。 また、以前より、恣意的にテンポを揺らす様になって来た。
個人的には、今の最晩年(* と言って良いよねぇ *)の演奏が一番良い。 そして、聴いたことがある3つのオケ(NDR/BPO/MPO)の中で、このMünchenが一番、今のWandに合って居ると思って居る。

この日は、身振りに鋭さが欠け、やや疲れが見えたか(* 僕はblock Jだったので見えなかったけど、2楽章で棒を休めて居たりして居たらしい *)とは思ったものの、楽屋に行った連中に依ると、終演後も大袈裟な身振りで絶好調だったらしい。

2000.09.16 (Sa)
今回、最終日が至高の演奏になるはずだった。 3楽章の後半に至るまでは。

丁度、高音弦と中音弦と低音弦とがうねる様に絡み合う、ブル8の中でも特に僕の一番好きな箇所の辺りで、異変が起きた。 指揮棒を持った右手が譜面台に何度かぶつかり、体重を支え切れる筈も無い譜面台が大きく揺れて・・・あれれっ?と思って居たら、Wandの膝がガクガク震えだした。

倒れる!と思った瞬間、コンマスとvc.の1プルト裏が飛び出して、Wandの身体を支える。 会場全体が凍り付いた中、コンマスがWandの身体を支えつつ、弓を持って居た方の手を高く振り上げて、必死の形相で、オケを煽り、演奏を続ける様に促す。
崩壊寸前のオケも、Wandが、ようやく、椅子に腰掛け、演奏に復帰したことで、落ち着きを取り戻したのだが。

それにしても、異様な4楽章だった。 聴き手である僕自身が興奮して居るからと言うのもあるが、それだけでもなさそうだった。 Wandの一挙動も見逃すまいとする楽団員達の集中が凄かった。
Wandは、4楽章も椅子に座ったままだった。 座り慣れて居ないからか、晩年のチェリの椅子の様には安定して居ないからか、居心地悪そうに何度も座り直して居た。 それでも、4楽章は、押さえたり煽ったりと的確に指示は出して居たので、意識を失う様な異変では無く、単に足腰が言うことを聞かなくなっただけだったのだろう。それでも目の当りにすればショッキングな出来事だった。

05月のHamburgでは、楽章間に指揮台の椅子に腰掛けたりして居たのに、今回は最終日の2楽章まで、一切椅子に座らずに居た。 多分、体力に自信があったのだろう。 逆に、それだからこそ、一番ショックを受けたのは、Wand本人だったはず。 呆けたりした訳でも無く、体調が悪いと意識して居て無理した訳でも無く、逆に座らずとも全曲振り切れると自信を持って居たのに、自らの身体に裏切られたのだから・・・終演後、Ovationを受けるWandの表情は、心此処に在らずだった。

2000.09.17 (So)
Wandと、後述のRattleの間の1日をどう潰そうか・・・まぁ、MünchenとBerlinの中間だからDresden辺りかな。 強いて言えば、Marktを覗いたら、あの可愛いおねーちゃんに逢えるかな程度の安易さで、Dresdenにやって来た。
# ちなみに、Marktはやって居たものの、香草屋が見付からん(>_<)

初めて入るKulturpalastは、日本の田舎で見掛ける「文化会館」の趣き。 「講演会から演劇、演奏会まで何にでも使えますよ」と言うのは、実は、何を演っても物足りない。
まぁ、正直な所、昨夜のショックが未だ残って居て、演奏会どころの心境では無かった。

2000.09.18 (Mo)
年初にFestwochen事務局から前年度前売り購入者対象の先行予約の案内が届いた時、Rattleは売切れるかもしれないと思ったので、予め買って居た。 Janacekは好きな作曲家だったし、周囲の評判を聞くに、一度は聴いても良い指揮者かと思って居たので。
タラス・ブーリバは、もう少し物語り的な音でも良い様に思った。 Rattleの音は歯切れが良過ぎて、曲に合って居ない様に思えた。 これが、超現代曲だったら、逆に、音像が浮き出て面白かったのだろうが。

2000.09.19 (Di)
グラゴール・ミサの印象も、タラス・ブーリバと同様だった。 オケの能力を生かしつつ、明晰な音を聴かせてくれるのは良いのだが、やや音が細切れに聴こえるのが残念だった。
旨く説明出来ないのだが、BoulezやGielenの様な現代音楽作曲家の冷酷な明晰さとは違い、それなりに聴衆に語り掛けて居る様には感じるのだが、一方で、響きのそっけなさに違和感を感じて居た。 「何となく好みの演奏では無かった、只、他の観客が熱狂して居るのが理解出来ない程では無い」と言う、「何となく」を無理に表現するとそんな感じになる・・・結局、意味不明な表現だな(^_^;)
Philharmonieでは無い、例えば、Concertgebouwの様な、Rattleに欠けて居る(と僕が感じて居る)ものを補ってくれるHallで聴いたら、また別な感想だったかもしれない。

=====

2000.11.12 (So)
春から噂になって居たWand来日には複雑な想いがあった。 高齢の巨匠を極東の地に呼び付けるのは日本人の傲慢としか思えなかったし、特に、München最終日の姿を目の当たりにしたばかりだったし。
だからこそ、来日反対派最右翼の許光俊さんの姿を会場で見掛けて、心強かった。 Wand(の音楽)を敬して居るから、来日に反対したのだろうし、Wand(の音楽)を愛して居るから、来たからには聴かねばならぬ。 一見、言行不一致なのだけれど、実は、こっちの方が、矛盾して居ないのだ・・・と自己弁護(^_^;)
この件、許さんと話した訳では無いので、彼がどう考えて居たのかは判らないが。

2000.11.13 (Mo)
NDRってこんなに上手かったっけ?と言うのが第一印象。 特に、管楽器。 これまでNDRの管楽器については余り良かった記憶が無かっただけに、良い意味で意外だった。
また、この日はParket Rechtsのかなり前寄りだったこともあって、低音弦のゴリゴリした感触が心地好かった。
# "耳で聞く音"と言うよりも、"皮膚で感じる音"と言う意味で、敢えて「感触」と言いたい
最初に聴いたBPOの時にも強烈に感じたが、多分、Wandもこの「低音のゴリゴリ感」が好きなのだ。

2000.11.14 (Di)
前回Wandが、この未完成2品Programmを取り上げた際、MünchenBerlinでは聴いたが、Hamburgでは聴いて居なかった。 なものだから、当時、NDRとの演奏を聴いた知人達が口を揃えて、Schubertを「デモーニッシュ」と絶賛して居たのが良く判らなかった。 MünchenのSchubertは巨象のダンスの様な軽やかさだったし、BerlinのSchubertは重厚長大な演奏だったし。
やっと今回、NDRの「デモーニッシュ」が判った。 Wandのそれは、期待して居た、クナの様な、おどろおどろしい、何者かが忍び寄って来る様な「デモーニッシュ」では無かった。 何時もの様に、正々堂々(?)正面からSchubertに対峙して居た威厳のある演奏だった・・・そういう意味では何時ものWandだったのだが・・・それで居て、やはり「デモーニッシュ」だったと言われると、そういう言い方も出来るよねと納得した。


PROGRAMME
2000.09.13 11:00 : Philharmonie, Gasteig Artes Centre, München
Bruckner, A : Symphony No.8 in C minor (Öffentliche Generalprobe)
Wand, G / Münchner Phil.
2000.09.13 20:00 : Philharmonie, Gasteig Artes Centre, München
Dvorak, A : Cello Concerto in B minor, op.104
Shostakovich, D : Symphony No.10 in E minor, op.93
Litton, A / vc. : Harrell, L; Dallas SO
2000.09.14 20:00 : Philharmonie, Gasteig Artes Centre, München
2000.09.15 20:00 : Philharmonie, Gasteig Artes Centre, München
2000.09.16 20:00 : Philharmonie, Gasteig Artes Centre, München
Bruckner, A : Symphony No.8 in C minor
Wand, G / Münchner Phil.
2000.09.17 19:30 : Festsaal, Kulturpalast, Dresden
Vivaldi, A : Kyrie g-Moll RV 587
Vivaldi, A : Beatus vir C-Dur RV 597
Vivaldi, A : Stabat Mater f-Moll RV 621
Vivaldi, A : Dixit Dominus D-Dur RV 594
Clemencic, R / sop. : Fiedler, U; sop. : Kirchner, E; countertenor : Landauer, B; tenor : Dürmüller, J; bass : Mannov, J; Dresdner Phil.
2000.09.18 20:00 : Philharmonie, Berlin
2000.09.19 20:00 : Philharmonie, Berlin
Janacek, L : Taras Bulba
Janacek, L : Glagolitische Messe
Rattle, Sir S / sop. : Szmytka, E; mezzo-sop. : Simpson, M; tenor : Clark, G; bass : Ryssov, M; organ : Trotter, T; Berlin Phil.

2000.11.12 19:00 : Takemitsu Memorial Hall, Tokyo Opera City, Tokyo
2000.11.13 19:00 : Takemitsu Memorial Hall, Tokyo Opera City, Tokyo
2000.11.14 19:00 : Takemitsu Memorial Hall, Tokyo Opera City, Tokyo
Schubert, F : Symphony No.8 in B minor, D 759, "Unfinished"
Bruckner, A : Symphony No.9 in D minor
Wand, G / NDR Sinfonieorchester

[Return to TOP] [Back to "Okkake Nikki INDEX"] [Return to HOME]