棋聖戦第2局 83桂の幻影
再び光の柱へ
2003.06.21 分析 マシュダ一家 (当日実況)


本日の囲碁将棋ジャーナル 棋聖戦第2局 投稿者:マシュダ一家  投稿日: 6月21日(土)22時38分09秒

本日の囲碁将棋ジャーナルにおける棋聖戦第2局の深浦解説は我々の実況の正確さを確認させてくれるがやや物足りないので補足する。

この将棋は先手と後手の位相がひとつ丸ごとずれている。棋王戦における白マスと黒マスの位相空間V3効果を想起した者は続けて読んで楽しめるかもしれない。 丸山の78銀という工夫は左美濃への指向だが、遡ると序盤に46歩と突く手が問題なのであった。これは対ゴキゲンで早々に角交換した場合の先手の宿命である。すでに昨年述べてきたように羽生もこの46歩が不満であった為に75歩というグランサタンを断行している。丸山は77銀型が桂馬に狙われることを嫌って78銀から左美濃にしたと深浦は述べるが、その為に56歩が今度はマイナスとなっていることに気がついていない。46歩のデメリットを補填したらその隣りの56歩が弱点となったというのがこの将棋の骨格なのである。我々が実況で述べた後手の4筋での腰掛け銀の優位性があるために丸山は56銀とはできない。そこで78銀という左美濃の陣形に活路を求めたことになる。我々がここで問題にしたいのは丸山の86歩なのであった。深浦には説明できないであろう。我々が実況で述べた通りだからである。康光が84歩と突くことを促すようなこの手は千日手への道なのであった。 換りに深浦解説では先手から地下鉄飛車があるなどと信じられない手順を述べていた。ひとつずれた双方の玉の位置を直視していないばかりか先後の手数も計算できないようである。実況で我々が述べたように後手から地下鉄飛車は成立するが先手からは無理である。 丸山は局後に87銀からの銀冠ができなかったのがまずかったと述べたらしいが、これは康光が42金-52金という常識外の手順で強引にそうさせなかったのである。羽生ならばこの52金はグランサタンに即時認定であったが康光の場合には崇高さを目指す為にそうとは言い切れない。それが神々しいものである可能性があるからである。それは自らを鞭打つ自虐行為ではない。深浦解説によれば康光は42金-52金で作戦負けにしたかと述べたらしいがなぜそうなのかを説明していない。それは我々が実況で述べたように後手は本当は先手と同じ玉形に組み替えて千日手を目指すことがイメージ戦略として最善だったからである。この52金を見て感情が昂ぶらない棋士は丸山以外にいないであろう。普段の丸山ならばあのような挑発は淡路のホットケーキなのであった。しかしその誘惑に丸山は神々しい何かを見たはずである。実況における丸山への我々の断罪はホットケーキ合戦の意地の張り合いなどではなく明解な論理的根拠による。46歩の宿命的な先手の弱点と後手が早々に22飛周りとした為に可能となった44銀によって先手が56歩としたことが関与するのである。ここで想起するのは藤井システムにおける美濃の弱点が56歩であるということ。このトリトヌス空間が藤井システムの弱点であることは既に何度も述べてきたが、藤井はその為に56歩とは滅多なことでは突かない。序盤のこの歩突きが角筋を通してしまう為に双頭手が発生し、美濃は逆転負けが多い。ゴキゲン角換りにおいても今回の丸山のように左美濃を目指すと56歩が弱点となってしまうのであった。52金の深浦説明は後手は32角に対して2筋を放棄し、81飛回りから85歩で厳しいというものである。深浦はマシュダ一家実況の表層を繰り返しているだけに過ぎない。そこで丸山は45歩としてしまったのであるが「この辺りから戦いになった」という深浦は何という言うタコであろう。45歩は丸山の敗因1である。因みに今日当日の控え室実況なるものを初めて読んでみたら呆れた。17:44には丸山優勢と考え、18:08には谷川まで先手が優勢から逆転された将棋と言っている。どこに先手優勢の局面があったのであろうか?ここまで世間を愚弄するのではプロ棋士の解説など害悪である。対局者がすべて棋譜で語っていることを素直に読めばよいのであって野次馬のジョークなどどうでもよい。物見遊山でタイトル戦観戦に来る谷川など間違いなく羽生に王位を奪取されるであろう。慶太などA級はあきらめて貰うしかない。 丸山の35歩は我々が実況で呆れ果てた手であった。どうせ入玉を目指すならここで33角が常識なのである。深浦は康光が33角に対しては32桂を用意していたことに驚いたという。我々はそんな手に驚く深浦に呆れる。33角に対する32桂など我々が実況で公表している。谷川はこのような自陣桂を指しているから昨年羽生から王位を奪取できたのであった。53手めの33角で先手がよいだろうと丸山が思うはずがない。以下のようになって先手は下から攻められても上部脱出となり最後は点数で後手が勝つ。

53手め35歩に換る33角変化
先手:丸山
後手:佐藤
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽5四歩 ▲2五歩 ▽5二飛 ▲2二角成 ▽同 銀 ▲7八銀 ▽3三銀 ▲4八銀 ▽6二玉 ▲4六歩 ▽2二飛 ▲4七銀 ▽7二玉 ▲6八玉 ▽6二銀 ▲7九玉 ▽7四歩 ▲5八金右 ▽6四歩 ▲6六歩 ▽6三銀 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6七金 ▽6二金 ▲8八玉 ▽4四銀 ▲5六歩 ▽3三桂 ▲9六歩 ▽9四歩 ▲8六歩 ▽8四歩 ▲1六歩 ▽1四歩 ▲7七桂 ▽2一飛 ▲3七桂 ▽4二金 ▲2九飛 ▽5二金左 ▲4五歩 ▽同 桂 ▲同 桂 ▽同 銀 ▲3七桂 ▽4四歩 ▲2四歩 ▽同 歩 ▲3三角 ▽3二桂 ▲5五歩 ▽4三金 ▲4五桂 ▽同 歩 ▲2四角成 ▽同 飛 ▲同 飛 ▽同 桂 ▲4一飛 ▽5二銀 ▲9一飛成

我々もこの程度の変化はすべて数種類をすぐにシミュレートして確認後に実況している。深浦、嘘はつくな。持将棋が見えたところであの康光の54手め83桂がでたのであった。恐らく我々の実況でもここまで狂喜した例はほとんどない。何度みても素晴らしい。この手は36手めの84歩の時点から後手の理想形。昨年の王将戦の奇跡を目の当たりにしていなければ我々もこの手を最初から期待していなかった。これは最高度の寄せ手順を披露することになるからである。しかし36手めの84歩の時点ではその期待感は募っても先手の2筋突破に対して81飛-85歩が最善の対抗になることもわかっていた。そこで丸山が81飛-85歩を察し2筋突破を諦めてからいつ83桂が出るのかと期待に胸を弾ませていたのであった。そしてライブでそれを目の当たりにしたときの興奮。昨年の感動が二重になって逆流する思いであった。何度も言うがこの手を死ぬほど見たかった。丸山は54手め83桂を見て負けを悟ったであろう。この手は根が深い。深浦が83桂を「心理的」と述べた裏の意味は怨念にまで至る。我々は86歩-84歩の交換が為された時点でこの将棋は千日手以外に先手は負けるとハッキリ実況で述べている。86歩-84歩の交換は普通の手では有り得ない。我々がなぜ86歩から実況を開始しなぜこの交換が後手有利と述べたかわかるであろうか?それは86歩-84歩の交換が内臓をえぐり出す交差点だからである。 丸山は次に敗因2の85歩を55手めに指して勝負をはっきり諦めている。紛れを求めるならばここでこそ33角であった。今度は我々が最初に指摘した32桂が無いために次の角成が最もいやらしい。深浦はなぜ55手めの33角変化を述べられないのであろう?ここでは44角成変化と24角成変化が有るために面倒臭いからである。そして44角成変化には47地点にと金を作らせない変化があったからである。形として32角変化からの打開の方が美しいと考えていた者は甘い。だからこそあの怨念が渦巻くのであった。この思いは対局者の思惑を超えてしまっているのであろうか?彼らはこの渦潮をガラス越しでしか見ることを許されていないのであろうか?深浦はそこまで我々が見抜いたと察してわざわざ54手め83桂を「心理的」と言っている。 丸山は勝負を投げて59手めに33角打を断行したが、ここでこそ32桂なら我々が実況で述べたように後手は楽勝であった。先ほどの点数勝ち変化ではなく今度は先手は詰まされるだけとなる。丸山相手なら遠慮はいらない。その寄せ手順が確実でも醜いので康光はあの54手め83桂の顔を引き立たせる84桂を選択したのである。これこそピュアな感動であった。康光の寄せは的確であり美しい。的確で有ることはわずかの緩手も許されないために間違うこともある。しかし美しさを最優先させた態度にこそ我々は心底胸を打たれたのであった。

我々が実況で予告した通り飛車は最後に4筋の光の柱へ移り角換りの原理を立証した。即ち特異点発生後の必然変化。この根はもっと深い。そこからどのような感動を棋士は感じるのであろう?