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釣れた鮒を捨てる男
  (寿福庵真鏡編。春亭・柳川重信画。文政6年(1823)〜弘化4年(1847)刊 『主従心得草』。[江戸]和泉屋庄次郎板)*挿絵は後編(2編)下巻
江戸深川木場の材木の上で釣りをする。向こうで釣りをしていた者が魚の代わりにお金の入った財布を釣った。それを見た男は、「こっちも金を釣ってやろう」と思って竿をさしたとたん、鮒が食いついたため、怒って鮒を材木に叩きつけてしまった。
*この挿絵の前後で、作者は次のように諭している。
 向こうの男がたまたま金を釣ったのは、「陰徳大善根」、つまり普段から良い行いを重ねてきた人だからである。それなのに、金が釣れた場面だけを見て、「自分も金を釣ろう」と考え、ミミズで金を釣ろうとするのは、よほど虫の良い不届き者である。金で人を釣り、女を釣ったという話は沢山あるが、ミミズで金を釣るという話は世界のどこにもない、日本一のアホの鏡、畜生に劣る大たわけである。そんな魚釣りはすぐにやめて、早速帰って心を入れ替え、家業に精を出すべきである。そうすればミミズで金が釣れなくても、大きな福徳を得ることができるだろう。これを単なる譬え話と思ってはならない。世界中の人間がこれと同じ事をしているのだ。無理な事を考えて富貴になりたがる者は全てこれと同じことである。