渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



新旧の対話

地方の市街地の古いお寺が老朽化したので、新たに建て替えようというコンペがあり、
"街の潤いになる新しいデザインをもとめる"という内容だったので、ちょっと違うの
ではないかと思い反則のような案を応募しました。新たに建てるとか、地価が上昇し
て高層化するなら新たにデザインし直すのも考えようがあるでしょうが、そうではな
く単に本堂を建て替えるだけなのです。私は新たに建直したコンクリートのお寺で良
い建物だと思ったことが無いのです。新たに造るならコンクリートで昔の形をまねる
ことだけは止めた方が良いと思います。
古くからのお寺は、現在においてはむしろその時を積み重ねた様式やお堂の明暗や木
組みの見える大きな空間が新鮮だと思います。問題はそれよりも、寺の庭が街の中の
貴重なオープンスペースであるのに生かされていないことだと思います。どこも砂利
敷でぽつぽつ埴栽があるだけで、寂しくないよう間がもてば良いくらいにしか考えら
れていないのがほとんどではないでしょうか。
そこでコンペでは、前庭を整備して新しい環境と古いお堂が対話するような関係が良
いのではないかと思いました。すこし離して対峙させて、お互いの魅力がさらに引き
立つ関係を創るべきだと思いました。
ヨーロッパでは古い建物を改装する場合、古いものの魅力はそのままにして、加える
新しく造るものを古びさせて加えるのでなく、新しいものを並べて対話させるのがう
まい例がよくあります。アンティークの家具は古いめかしい空間しか似合わないわけ
ではありません。むしろ、シンプルな現代の空間に置くことで新旧の対話が生まれま
す。するとその時間を積み重ねた深みがさらに浮き彫りになるように思うのです。
そうして、提案したのは、新旧といった価値観を超えた水の環境の中にお堂を浮かべ
るというものでした。水面は、お堂を映し、軒裏に光を反射させます。池を渡ってお
堂にいたるアプローチも心構えが変わり、水の音が街の騒音を消してくれて、池を渡
る風も心地よいと思います。

2006/10/14

コンペ案

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