渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



本郷館とシェアハウス

 昨今、シェアハウスや住み開きといったものが増えてきてきて、良いことだと思っていました。
先日ふとしたことで、学生時代に根津のお年寄りが自宅の2階の4部屋を下宿として貸してい
る所に住んでいた話をしました。そしてその後、本郷館という木造3階建で70室もある下宿
に住んだこともあります。友達も3〜4人住んでいて楽しかったし、思い出してみると、1階に
はお年寄りと大家家族が住み、大学の先生も家族で住んでいました。その家族は、3階の2室に
書斎や子供の部屋があり、2階の1室が茶の間でした。フト、その高齢者の下宿は"住み開き"
だし、大きな下宿はシェアハウスやコレクティブハウスと同じだと気が付きました。

”なんだ、昔からあったのではないか!”と気付きました。

しかし、本郷館は昨年取り壊されてしまいました。下宿屋というものもあまり聞かなくなって、
今思い返すと本郷館は、玄関は間口も広く下駄箱がズラッと並び、正面には大階段が構えていて、
そこを上がると5mはあろうかという長いステンレスの共用流しが中庭に面してあったのです。
そこを含め中庭を囲む共用廊下は吹きさらしで、そこに面して6〜8帖の部屋が鍵もないスり
ガラスの引き戸を介して並んで中庭を囲んでいました。その廊下には、冬は風が吹き込み寒い
し、雪が降ると吹き込んでうっすら積もっていました。そこに面して各部屋の鍵の無いガラス
引き戸が並んでいたのです。しかし、中庭を囲んだ共用廊下は青空もきれいに見え、材料も作
りも空間も立派で豊かだったので、貧しさやいじましさは微塵も感じられず、むしろその潔さ
に風格があった。もしかすると、今のシェアハウスに足りないものがそこにあったのかもしれ
ないと気づきました。多くの住人の共用であることからくるスケールの大きさ・数の多さが豊
かさや迫力を生むことが必要だと改めて思います。
今回僕の後に住人となった元スタッフの佐藤隆行くんの写真を承諾を得て載せます。
 
2012/5/25



本郷館内部
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