渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



日常の豊かさ

最近気づいたのだが、街路樹があるのに夏前に刈り込んでしまっているので歩道に日陰が無い
ことが多い。木陰のための街路樹なのではないのか?と自治体に聞いてみた。すると台風で倒
れることがあるので夏前に刈り込むとのこと。本末転倒で都心の温暖化を促進させてしまって
いる。気にしてみていると本当に街路樹が寂しい所が多く、緑化を促進させるならまずこれか
ら考えた方が良いと思う。クレームを恐れるあまりに日常の豊かさを減じてしまっている。
クレームをつける方にも問題があるのだが、お役所仕事によく感じることであり、ハウスメーカ
ーの作る住宅にも同様のことを感じる。
小さな問題が起きる事を恐れるあまり大切なことを失ってしまっているということは以前にも
書いた。3.11の震災によって防災の面でも似たようなことが言われている。災害を全く無くす
のには防波堤を高く、建物は壁を厚く多くするよりも、減災といった大きな災害だけは避けて、
日常の豊かさを失わないように折り合いをつけることが必要だろうと思う。
省エネが注目されている。断熱材を25cm入れると夏も冬も小さな熱源機があれば家中快適で、
ドイツや北欧では標準になっている。しかしそれをそのまま鵜呑みにして良いのかは疑問だ。
そのことだけを考えたなら断熱を25cm入れた開口の小さな建売かハウスメーカーのような
形になりそうだ。もちろん計算をして開口を大きくしていくことはできるだろう。しかし空間
の質はあまり変わらないように思える。住宅には変化とメリハリが必要だと思っている。大き
くは閉じた場所/開いた場所、明るい場所/暗い場所、狭い場所/広い場所、、等々。そこか
ら考えたならば閉じた場所は断熱性能を確実にして、時と場合によって開いた場所に繋がるよ
うできないかと考えていた。そうしたら北欧の最近の集合住宅にガラス張りのサンルームのよ
うな場所があるのをよく見かけることに気づいた。北欧では日照時間が短いので日を浴びる場
所が時に食卓やソファーを出して日光浴の場所ともなり、住む人の暮らしが伺える場所ともな
っている。日本では湿度の問題もあるので断熱を厚くするだけでは豊かさは生まれない。
問題が起きる事を全く無くすのではなく、大きな問題にならないように調節することを考えて
いかなければならないのではないだろうか。  
2012/10/15


沖縄伊是名島の海辺の木陰
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