渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



快適な状況

人が快適に感じるのは、明るい草原を暗い林の樹間から眺めている状況だと聞いたこ
とがあります。それは動物の防衛本能からも納得がいく話です。そしてすぐに、林の
なかの別荘や京都の高桐院や蓮華寺を訪れてため息がでた時のことを思い出してしま
います。さらには、バリ島の建物のように大きな屋根の下に水平に開けた開放的な空
間を思い出しますし、京都の瓢亭のように狭くて天井も低い空間の心地良さや、野球
場のダッグアウトのように床が下がって視線が地面に近いものの快適さにも思い至り
ます。
暗い幹や軒裏に切り取られた明るい情景はコントラストの効果でさらに明るさを増し
て見えます。京都の町家の本当に小さな坪庭でもそこが輝いて見える様に目を見張り
ました。
しかし考えてみると、高桐院の書院の庭も蓮華寺の北の庭も開けた庭ではないのです。
高桐院の書院は8m程先の竹林とのあいだに不思議な間があります。そこには苔庭に
ひょろっとした木が数本あるだけで、普通に考えれば、とても間の悪い感じなのです。
蓮華寺の北の庭も8m程先には松がしがみつくように生えた崖です。空も見えないそ
こには、ただ室内とは対比されたポカンとした明るい大きな空間を感じます。その開
けた庭とも屋外ともいえないのに、あの落ち着いた気持ちさはとても不思議です。狭
くて限られた空間も魅力的に作る方法を学びたいと思い、最近よく京都に行きます。

2006/8/8

高桐院

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