渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



引き算のデザイン

どんなものでも、よけいなものが無くなると大切なことがはっきり見えてきます。
インテリアでは、普通、窓や建具があれば窓枠.建具枠、床と壁の取り合うところに
は巾木、壁と天井が取り合うところには廻り縁があり 、部屋にはいろいろなものが
置かれます。 それらを無くしたり目立たなくして引き算していくと、例えば、壁に
空いた開口と置かれたイスだけの空間になります。 そうするとそこは、人が景色を
眺める場だということを浮き彫りにします。 そして全体の印象は、視界に入る要素
の少ない空間 =うるさく無い空間になります。 さらにその壁天井が白一色であると、
とても静かな空間になります。 また、建築の仕掛けで周囲の視界や騒音まで引き算
することもできます。 ニューヨークのパーレイパークのように水の音でみごとにま
わりの喧噪をかき消し、心地よくも静かな空間を実現することもでききるのです。
また、面積の限られた建物にいろいろな部屋を作ってしまうと 小さな部屋ばかりの
集まりになってしまいます。 分かりやすく言うと、魅力のある大きな建物を参考に
して狭い場所に計画する場合、 そのまま縮小してしまうと魅力は無くなってしまう
でしょう。 そこでは用途を兼用するなどして、空間の数を引き算していかなければ
魅力ある建物にはなかなかならないと思います。さらにそうして引き算することで、
何に重置きをおく建物なのかがはっきり見えてくるのです。
例えば、 2世帯住宅を設計するような場合要望は多義に渡っていて 、全てそのまま
盛り込んでいるとばらばらな印象の住宅になってしまいます。 そんなときは、肝心
なことがうまく納まるような 全体をまとめるシンプルな骨格を見つけなければなら
ないと思います。 それでなくても、建築では構造や法規、設備といったものが複雑
に絡んでくるので、なかなかシンプルにはならないはずです。 そこでは、うまく働
く引き算の方法が見つけられれば、それは成功だろうと思います。
しかし実際は、引き算の方法自体を見つけるのはとても難しいのです。あることが
あたりまえになっていることは、“これは無くてもいいんじゃない?”と気が付く
ことさえも“無いものを想像しろ”ということのように難しいと感じています。

2006/6/27

PaleyPark/NewYork

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