渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates
建築と表現
カメラマンの海城誠一さんにベルリンのユダヤミュージアムの写真を見せてもらいま
した。建築雑誌の写真では造形だけが強調されていましたが、ミュージアムとはいっ
ても民族の迫害の歴史を表わすものです。その内容は重く深いということが海城誠一
さんの写真から伝わってきました。そして、建築にもここまで深く表現ができるのだ
と教えてくれます。
博物館や記念館というと、遺品や写真が展示されています。しかし、ただそれでは、
前に書いたようにベタなだけです。ベタな表現はうっとおしいものです。でもそこで
の、感触や体感、そこの状況の関係までも考えてデザインすると、訪れた人にとても
多くのものを素直に与えられるのだということが分かります。
関係まで考えて表わされたものは静かに深いところまで届くように思います。
ここでも、写真の方が雄弁に語ってくれるので、海城さんの好意により多く載せます。
2010/6/7
jewish museum1 最も衝撃的だったのはこの写真。吹き抜けの明るい通路に、顔の形に打ち
抜いた鉄板が無数に敷き詰められています。訪れた人はそれを踏んで進まなければなりません。
どんな感触で、どんな気持がするのでしょう。
jewish museum2 とても天井の高い行き止まりに、細いパイプかタラップが下りています。
ガス室か地下の牢獄を思わず連想してゾッとしてしまいます。
jewish museum3 細く途切れ途切れで鋭角に交わる窓。下の地面にはそれが散らばったような破片。
何かの痕跡が見て取れると想像がかきたてられます。
jewish museum4 鋭角にジグザグした平面の建物は、先の見えない不安や、あちこちに痛々
しい関係を生みます。暗く高い天井に僅かな光があり、それがよけいに鋭い天井を強調しています。
僅かな希望の光なのか、その僅かさに絶望するのか。
jewish museum5 無数に傾いて間隔狭く立つ柱の上に緑。明るい緑から深く下がった隙間を歩くと、
周りが傾いているため不安定で、深みに落ちてしまったような感覚。
jewish museum6 遺品もショーケースに入れるのでなく、自分と同じ大きさの人型の中に表わ
されています。自分とその人の関係に思わず連想させられます。
photo by 海城誠一
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