渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



関係のデザイン

先日、咲き誇る桜を見ていて気付いたのですが、幹が太くて黒いことが白く淡い桃色
の花が咲く桜を魅力的に見せているのだと思いました。黒い背景にコントラストをと
もなって白さが強調されるからです。そしてさらには、咲き誇る無数の桜で周りを囲
まれると恍惚感のようなものもあります。そう考えると花の魅力は、周囲との関係に
よっていて、見せ方で良くも悪くも見えることが分かります。
植物の見せ方は、一輪挿しのようにコントラストが生まれる暗い背景の中で見せるか、
壁に空いた開口から絵のように見せるか、周りを囲んで包み込まれるような空間とし
て見せるのか、折り重なる木々の奥行感を見せるか、といったやり方が魅力的なので
はないかと思います。
建築でも同様のことが言えます。背景や周りとの関係や、切り取ることによる額縁と
の関係、同一素材で包まれることの心地良さ、奥行を感じさせる場と場の関係です。
中でも包み込まれる感覚の気持良さは、中庭やアトリウム、ホール、洞くつなど、カ
ーンがルームと言うことにつながります。和室も回り縁を付けずに壁や天井を畳みに
近い柔らかい材質で作ると包み囲われている感覚になり、とても落ち着く気がします。

建築を考えることは、ものの形を作るというより、関係を作ることなのだと改めて思
います。1つの形を考えることはオブジェを考えることですが、そのオブジェと周り
との関係や、これとあれとの間の関係を考えることは空間を考えることになります。
壁や床や天井・家具などものとものの間に生まれる関係であり、ものと周りの眺めや
環境との関係であり、人と人とのの関係であり、光による明暗の関係であり、内と外
の関係であり、繋がったり垣間見える場と場の関係を考えるということです。

反対に言うと、建築のデザインとは、様々な関係をデザインして、その関係が空間の
質になり、光や奥行の感覚を伴った魅力を作るのだと言えないでしょうか。

2010/5/15


目黒区役所(旧千代田生命/設計:村野籐吾)
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