渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



ローコスト

久しぶりに鎌倉近代美術館に行って、材料の善し悪しと建築としての質について考え
させられました。終戦まもなくの時期に建てられたものですから近寄って見ると使わ
れている材料は石綿スレート板と細い鉄骨と大谷石です。要するに、よくある倉庫や
駅舎と変わりませんが、日本建築の持つバラック感、気負わない軽さ、風通しの良い
気持よさ、を感じました。アプローチや途中の動線は半屋外のテラスや階段となり内
省的な中庭(ここがちょっと雑然とした感じなのが惜しいか)を望み、最後には池の
波紋を映す深い床下空間で気持を落ち着けることができます。設計した坂倉準三は造
形的な特徴はあまりありませんが、与えられた条件の中で可能なことを、様々な要素
の3次元的配置だけで解決している気がします。つまり小さな建物の中の配置と動線
だけで、水と光と半屋外の気持良さを効果的に成立させています。そこでは限られた
コストを何に使うかも、なにが大切なのかを良く考えなければならず、意図が鮮明に
なります。いわばラフな材料を使うことが、チープシックな潔い気持良さを感じさせ
てくれます。低層部の大谷石の質感がチープな中にもメリハリを生み出し、材質もな
んでも良くすれば良いというものではないことを教えてくれます。
坂倉準三のその合理的な意志は、住宅も県庁舎も美術館も遊園地も同じ目線で造るす
がすがしさにも通じている気がします。
ローコストで、工業的な素材や安い材料をむき出しに使うということは、倉庫やロフ
ト、ペントハウスに住みつくような、本来違う用途のところに住むラフさ、感覚が開
かれるような潔さと面白さが伴います。そしてそれは、素材そのままを使う点で、バ
ラガンやカーンや待庵にも通じる感覚でもあります。
予算が限られる時、小さくまとめて良い材料を使い質を高めるか、ラフな作りで大き
な空間を作るか、判断の分かれ道で、価値観が問われます。

2010/2/21




鎌倉近代美術館
 44 

copyright WATANABE YASUSHI architect & associates