渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



音楽が成立すること

Keith jarrettの”The Koln Concert”を久しぶりに聞き直しました。以前はリリカル
でちょっと甘い印象だったのですが、26分全て即興演奏だというその集中力に驚嘆し
ました。そのアドリブは心地良い音の連続で、その幾つもの部分だけで多くの曲が創
れてしまいそうです。しかしそのアコーステックなピアノによるソロ演奏の3〜4年前
まではMiles Davisのバンドでエレクトリックオルガンなどをギンギンに弾きまくって
いたので、不思議な人だと思うと同時に、その断絶が気になっていました。ですが、
今回聞いていて、どんなに長い時間でも音楽を成り立たせる方法をMilesに学んだの
が大きく影響し自信になっていると感じました。統一感は想定しなくても、リズムや
メロディーをけっこう自由に切り張りし展開してもいけるのだとそこで学んだのでは
ないでしょうか。Milesバンドのメンバーのその後を見ると学んだものがそれぞれ違っ
ているのも面白く、Milesの影響は様々な形で受け継がれているのが分かります。
Jazz自体がそもそも短いテーマと展開の順番しか決まっていなくても10分ほどの演奏
が成立します。さらに1969年ころからのMilesの音楽の作り方が自由奔放(いいかげ
ん?)でした。ほとんどリズムしかリハーサルせずに2時間ほどの演奏をし、同じ日の
昼の部と夜の部で2枚組のレコードを2部作ってその年のJAZZ賞を総なめにしました。
当時高校生でしたが、”AGHARTA”をJAZZ喫茶で初めて聞いた時に背筋がゾッーと
した感覚を今でも覚えています。その前の1969〜70年の激変とその内容も、特に19
70年には2枚組を4部も出し、その内容の充実さも信じられない神業です。さらに驚く
のはそのメンバーが長年一緒にやってきた気心知れたベテランなどではなく、無名の
新人ばかりを寄せ集めた即席に近いのです。それも特に良く話し合うでもなく、細か
い指示を出すでもなく、ちょっと仕種でいいとか悪いとか表わすだけで、よく成立し
たものだと思います。確かに、1969年まではハービーハンコックやウェインショ−
タ−などの長年やってきたメンバーで完成度も高く、特に僕はウェインショ−タ−の
アドリブの発想の素晴らしさには舌を巻いてしまいます。しかしその後は、当時はま
だ無名の若者ばかりを集めての演奏で、細かいところではぎこちない部分も耳につき
ます。それでも、それを超えて圧倒的な世界が作られるのですから、何かキモになる
タイミングや構成や何かを押さえるのがうまいとしか言い様がありません。全体の統
一された構成を求めるよりも音楽が生まれる過程の喜びを楽しんでいるような、完成
度よりも奇跡的な瞬間を求めている感じです。その音楽の作りかたやグループの人の
掌握のし方など、羨ましい限りで参考にしたいものです。

2009/11/12


ワイト島rockfestivalでのmiles band、1970年
左から、手前keith jarrett. miles davis.奥 jackdejohnette. dave holland. airto moreira. chick corea


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