渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



アプローチ

ものは見せ方で、良くも悪くも見えるものです。それは展示場などで顕著に表れます。
先日、横浜の”海のエジプト展”に行ったのですが、見せ方が悪くてせっかくの5m
の石像3体がとてももったいなく感じました。そこでは5mの石像が見えるスペースに
足を踏み入れると、大きな空間の遠くにそれが見えてしまい、そこに辿り着くまでの
展示には気が散ってしまい、ようやく辿り着いても驚きも感動もありません。
広い空間で大きいものを見せても大きく感じないし、大きなものを遠くから見せても
同様です。効果があるのは、大きなものは、それほど広くない空間で見せること。そ
して、小さいものの後に大きいものを見せたり、近い距離でいきなり大きなものを見
せて、驚ろきを与えるべきだと思ったのです。
そこでその場で、僕ならどうするかを思わず考えてしまいました。暗く狭い所で小さ
なコインなどを見た後で壁を回り込むと・・天井の高いが広くはない場所でスポット
を当てられた石像の斜め側面が徐々に間近かに現れて大きさに驚く・・それから正面
に回りながら近づき質感を感じて海の底にあった姿を想像する・・後ろ髪を引かれな
がら遠ざかり、全貌を見渡し人との大きさの違いを実感する・・というのはどうかと
想像しました。その後、様々な展示の合間にいろいろな角度から見え隠れするのも面
白いでしょうし、至るまでの途中では、壁の向こうに足元だけとか頭だけとかが垣間
見えるのも面白そうです。
また、見せ方もですが、人の流れも作らなければなりません。大勢が来場する場合、
混雑して並んでもなかなか進まない問題もあります。遠くから見えてそこに向かうよ
うでは、ようやく近くに来た人が動かないので、なおさら止まってしまいます。だら
だら並びながらもずっと見えているわけで、近くに来た時にはすっかり驚きも無くな
ってしまうのです。次の行動を促されることで、人の並びもスムーズに流れます。側
面から正面へ、そして全体を見たいと思わせることで流れも自然に生まれます。
村野藤吾の谷村美術館では、壁で囲われた小さなブースに彫刻が展示されていて、1
つを見終わって振り向くと次の彫刻が目に入り誘われるように次のブースへと流れる
構成とその空間が見事です。また、アプローチといえば中尊寺金堂が思い出されます。
階段の先の金堂を斜め下から近づくのも素晴らしいのですが、うっそうとした樹木で
全体が見えないので誘われるのだと思います。
なんだか展示の構成をしたくなってきました、どなたかやらせてくれないでしょうか。

2009/10/22


中尊寺

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