渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



見ること/Point of view

ある場所を訪れても、様々なことが見ようとしなければ見えてこないものです。後か
ら”あそこの床は何で出来てたっけ?”とか”階段や手すりはどういう形だっけ?”
と思い出そうとしても分からず、見たようでも見えていないことに気付かされます。
反対に、仕事で階段や手すりをデザインしなければならないことが1度でもあると、
そういう所ばかりが見えてきて、何度も見ているはずなのに、改めてこんなデザイン
だったのか!と驚いたりします。いつも見ているようでも、見ようとしないと見えな
いし、見る視点によって見えたり見えなかったりするのです。
また一方で、一歩身を引いて見ると、全体の意図や関係が見えてくるということもあ
ります。全体を単純に捉える、シンプルに把握する、キモ(本質)を見ようとすると
見えてくるのです。
そのようなことを考えながら、近所を散歩をしたり公園や美術館や京都の庭などを歩
いていて、何を心地よく感じるのかを見ようとしています。そして訪れて楽しかった
り良いなと思う場所には共通点があることに気が付きました。
ランドスケープの素晴らしい魅力のその1つは見隠れではないかと思います。あるも
のが遠くから見え、歩いて行く道が曲り丘や緑で一旦見えなくなり、さらに進むと近
くにまた別の角度から見えてくる意外さも楽しいですし、木立越しに見えたり見えな
かったり、上だけ見えたり下だけ見えたりその近景との関係も面白いものです。
また1つに、視点の位置の変化もダイナミックさを感じさせてくれます。緩やかなス
ロープを登ったり降りたりすることで、色々なものを上から見下ろしたり下から見上
げたり、曲り道でその先が段々姿を表わしたり、丘を登りきって視界が一気に開けた
りすることです。それは見ることに歩き回るという行為や時間の要素が加わって初め
て成り立つものです。
その他にも、池に映り込んだ姿が見えたり、木立からこぼれる光の粒や影の暗さ、歩
く音や触感、風や葉の音や匂い、暑さ涼しさなどといった五感も加わります。
それらの楽しさはそのまま建築にも言えることでもあります。


2009/5/21


高輪美術館/ランドスケープ 若林奮

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