渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



人生わずか2万日であります

グラフィックデザイナーの粟津潔の言葉です。まさかと思ったのですが、計算してみ
ると365日×10年=3650日、で20年だと7300日、60年で21900日、そして80年
だと29200日です。確かに2万台ではあります。2万と聞くと2万円を想像してしまう
からでしょうか、たったそれだけと思わず考えてしまいます。でも北極から南極まで
2万kmであったりもしますし、以前”20世紀折尺”をミュージアムショップで買っ
たのですがそれは1年が1mmで10年が1cm、1世紀が10cmで20世紀が2mの
物差に刻んであるのです。1mmとはいえ目に見える寸法が1年だとすると、2000
年とはいっても2mにしかならないその不思議な感覚は言葉にできませんでした。な
んとなく改めて一つ一つのことやものを大切にしたいと思いました。
大切なことといえば、大切につくられたものに触れると、自分が大切な存在だと感じ
られるように思います。形には、こうしたいという意志を感じるものや、時間を掛け
て大切に造られたものと、しかたなくこうなってしまったものや、なんとなくこんな
ものでしょという声が聞こえてくるようなものとがあります。建築に関して言うと、
世の中のマンションを外から見ていると、どれも似ていて横並びで、なにか供給する
側の、“あなたにはこんなもんでしょ、こんなもんでいいでしょ”というメッセージ
が聞こえてくる気がするのです。多くの建売住宅も同様です。それが姉歯事件の根本
のように思います。
それとは反対に、良く考えられて大切に造られた建物を訪れると、“あなたは唯一無
二の存在で尊重されています”というメッセージを感じます。それはとても大きな違
いです。うそやごまかしのないものに触れると、心が満たされる気がします。
また悲しいことですが、設計者の“こうしたい”だけで、使う人の“こうしたい”が
見えてこないものもたまにあります。そこでは住む人が部外者のようによそよそしく
感じられます。オーディオの話なのですがオ−ディオマニアに言わせると音響的には
空間に人は本当はいない方がいいのだそうです。それと同様に部屋も美しさだけを求
めると、人は居ない方が、物は無い方が良くなってしまうのです。

2008/12/24


monreale壁画

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