渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



もの・ばしょが建築に成る瞬間

音や話し言葉が、あるとき、”音楽に成る”瞬間がとても好きです。それは例えば、
オペラでセリフが言葉を区切ってだんだんリズムを伴い、音程を伴いメロディを感
じさせるその瞬間であったり、スティーブ=ライヒやローリー=アンダーソンのただ
の日常の音が音楽を感じさせる瞬間であったりです。絵画でも、サイ=トゥオンブリ
の落書きのようなものが絵画を感じさせる瞬間や、リチャード=ロングが 石を並べ、
た後の瞬間を感じさせる作品でも同様です。それはなにかが生まれた瞬間に立ち会
ったような驚きがあります。そして、音楽とはなんなのか、絵画とはなんなのか、
それらの始源の状態、根本的な在り様、を気付かせてくれるように思うのです。
似たようなことが建築にもあります。地方の街を歩いていて、ただの倉のようなの
にプロポーションの美しさにハッとさせられたり、チベットの集落を訪れ、ただの
土の塊のようなものが柱の並びに秩序を感じさせ、そこにトップライトからの光が
落ちてくる様を見たり、岩山の窪みに壁と床を作っただけなのにその対比が鮮やか
だったり、またはただの住居なのにちょっとした凹みがとても魅力的だったり。そ
のようなただのものや場所が建築に成る瞬間のようなことがあると思っています。
ルイス=カーンが 歴史書の0巻を想うことが好きだということともなにか関係があ
りそうに思います。
篠原一男の“谷川さんの家”で、斜面に屋根を架けただけでただ一つの空間が生ま
れ、スタジオ・ぺルの“アフリカ的民家の増改築”で、段々畑に列柱とツヤのある
テラスを作ることで場が生まれ、建築になった瞬間のようなものを感じます。その
ような、なにげないことなのだけれども決定的なことで、“建築に成る“瞬間を感
じさせるものを作りたいと思っています。

2006/4/6

アフリカ的民家の増改築/studio per

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