渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



訪れて楽しいもの

これまでいろいろ見てきましたが、建物には訪れてつまらないものと、訪れて歩き
回って楽しいものがあると思いました。それは、雑誌の写真でいくら美しくても、
写真で見た以上に魅力や情報が得られない建物では、実際に行ってみると退屈なも
のです。そして、そういう建物に限って歩き回れるようになっていないことが多く、
中を歩いていると行き止まってしまい、来た道を引き返すことになるようです。そ
れは幾つかのシーン(だいたいは外観)しかデザインしていないのではないかと思え、
写真映りは良いのですが実際行くとつまらないのです。
一方で、訪れて歩き回ると写真では分からなかった発見が次々に現われ、体験自体
を豊かに感じられるものがあります。それはスケールの大小や4つの方向と天井と床
が同時に感じられ、かつ、移動しながら明暗や臭いや音までも発見があるような建
物は何度も行ってみたくなります。多分その違いは 建物をオブジェ(モノ)としてし
か考えられていないものと、空間を作ろうとしているものの違いのように思います。
後者は何もない空間をデザインしているので写真にしにくく、だいたいの場合その良
さは写真では分からないのが難しいところです。しかし訪れてみると、とてもさり気
ないのですが次々と新鮮な驚きや体験ができ、巡る楽しさがあるのです。
その典型的だったのは ルイス=バラガンの建物で、特に自邸でした。改修増築を繰
返した自邸は、プランを見るとただの直方体の部屋の組み合わせなのですが、暗い
あとに明るく、狭いあとに広く、天井が高いあとに低く、空間の変化が上がったり
下がったり曲りながらつぎつぎと現われ、そこに居る間の時間がとても豊かな体験
でした。他には回廊のあるロマネスクの修道院、京都のいくつかの小さな建物(高
桐院、町家、河井寛次郎記念館など)が挙げられるでしょうか。最近のものでは、
デビット=チッパーフィールドのものなどにそのようなものを感じました。私もそ
のようなものを作ろうと試行錯誤中です。

2006/2/14


クロイスターズ/NewYork

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