渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



何を何故、どのように

美術大学での授業の仕方についての記事を雑誌で読んでとても面白いことが書いてあ
りました。要約すると、だいたい美術大学に入学する学生は小さいころから絵を描く
のが好きで、美大の予備校では“これをデッサンしなさい”と言われ、喜んで描いて
技術を磨いてきています。そうしてさて、いざ美術大学に入学すると、何を描いても
いいよといわれるのです。すると絵を描くのが好きなことなだけが美術を志す動機だ
と、何故、何を、どう描くかでグラグラ揺れてしまうというのです。
それはすなわち自分が何ものなのかが問われるからだと思います。建築学科でも同じ
で、設計課題でお題は与えられるものの、美術と同様にデザインには数学や物理のよ
うに正解はありません。10人いれば10通りの答えがあるのです。でも、その中では
あれよりこれが良いということもはっきりあります。そこでは最適な”解答”を導き
出すのではなく、それこそ各自が自分で”問い”をまず見い出さなければならないの
です。そしてその上でそれを自覚して形にしていく作業だからです。そこでは、ある
美術大学では学生に最初に自分史を作品にまとめさせているとあり、とても納得のい
く気がしました。自分がどういう人間で、何を良しとして、何に魅力を感じるのかを
把握していることは、何をどう作り描くのかの強い動機になり、ぶれないだろう。ぶ
れが少なければ、最初は失敗しても繰返す内に精度を上げていくことはできるのです。
さらには、世の中に問うていくわけですから、自分の良いと思うことと社会との関係
も考えなければなりません。そこにも幾つもハードルがあるのですが、動機が筋が通
っていればぶれないのです。
しかし、自分がどういう人間で、何を良しとして、何に魅力を感じるのかを把握する
ことは、実は難しいことでもあります。自分はこんな人間だと決めつけてしまうこと
は簡単だけど、それは単なる思い込みであったり、限界を決めてしまうことでもあり
ます。そこではもっと自分の価値を置くことをを掘り下げて言葉にしていくことを、
ことあるごとに問い直していかなければならないと思っています。

2007/12/3

slop house

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