渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



頭クラクラ

ミュージシャンの細野晴臣が “ 音楽で良いものには、腰がズンズン、胸ワクワク、
頭クラクラがある。 腰がズンズンとはリズムに対応し、 胸ワクワクはメロディで、
頭クラクラはコンセプトだ、腰がズンズンと胸ワクワクはたくさんあるが、頭クラク
ラさせてくれるものはめったになく、それに出会うとシャッポを脱いでしまう”と著
書に書いていました。
建築でもコンセプトが必要とはいうものの、それがどういうものかはなかなか言葉に
できないのですが、頭クラクラに似たことだと考えるととても理解しやすいと思いま
す。それは、状況を見極める視点であったり、ものごとを決めていく基準であったり、
まとめる上での骨格であったり、形造る上での意図でもあります。
しかし一方で思うのは、分りやすいコンセプトが良いことなのかという疑問です。人
にものごとを伝えるには、分かりやすいストーリーにしてしまった方が伝わり易すく
強くアピールできるということはあります。しかしそこからこぼれ落ちてしまうもの
も多いのです。そのことに自覚的でありたいと思います。
蓮実 重彦の“齟齬の誘惑”という本では、自分自身が分りやすいようにものごとを解
釈して納得してしまい、本質を見ないですませてしまう危険性を表わしていました。
柄谷行人や蓮見重彦の文章を読むと言葉にしにくいことを伝えようと様々な言い方や
回りくどい言い方で何度もくりかえします。大切なことは必ずしも分かりやすいこと
ではなく、言葉にしずらいこともむしろ多いのだと思います。単に分りやすいことが
良いのではないが、分りやすい伝え方は考えなければならないということなのだと思
います。

2007/8/2

590Atrium/NewYork

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