渡辺康建築研究所
WATANABE YASUSHI architect & associates



集まって住むこと

何人かの建築家と学生に向けた集合住宅の設計の仕方を示す本を造ろうという話があ
りました。その時たまたまヴェネツィアの本を読んでいて、運河沿いの細い通路や通
りからトンネルを抜けた小さな中庭に屋外階段があったりして、ふとこれも集合住宅
と同じだということに気が付きました。考えてみればパリもモロッコも山間の集落も
隣家と壁はくっつき共用部分と専有部分が入り交じり、大きな集合住宅と考えられま
す。そもそも、街や都市や集落に人が生活する場が密集しているという意味では、い
わゆるマンションでもタウンハウスでも長屋も戸建て住宅の並ぶ住宅地でも考えなけ
ればならないことはほぼ同じはずです。それが、経済性と土地の面積から、隣戸との
距離が多少異なり、所有形態が違うだけなのだ、とも言えます。建物というハードを
造るのが目的ではなく、そこをどのように使うかというソフトを造るという視点に立
てば、同じことであるはずなのです。
ですから現状で、戸建て住宅が独立性・プライバシーがあり、それぞれの生活の豊か
さや個性があるように思えるとすれば、本来集合住宅にもそれは作れるはずです。ま
た、集合住宅のように住宅が集まることによるメリットがあるならば戸建て住宅の集
まった住宅地にも応用できるはずです。
現在は集合住宅にも様々な形が生まれつつあります。数人で住戸をシェアするシェア
ードハウス、集合住宅でも住人がアレンジできるコーポラてィブハウス、多少のスペ
ース・設備を共有するコハウジング、仕事場と住戸が入り交じった公団、かつての下
宿や寮、長屋も改良すれば魅力ある部分もあります。そう考えると、いわゆるマンシ
ョンのようにどれも似たような建物にならないはずだと思います。
なにも荒野に1人で住むのではなく、街に住もうとしている人には所有の問題をクリ
アできれば、もっと色々な関係の仕方、共用の形があるように思うのです。Aの必要
がBの特徴・利点になるような、もっとお互いのメリットと魅力が生まれる関係が作れ
ると良いと思っています。

2006/12/14


ヴェネツィアの鳥瞰

 10 

copyright WATANABE YASUSHI architect & associates