Workshop for Flying Dancers
彷徨える日本舞踊者のための囃子講座
娘道成寺の巻 その1 <次第>
大鼓一調で<次第(しだい)>をやるのは能でも「道成寺」だけです。花子が花道の七三から鐘を睨みながら本舞台に戻ってくるクダリ。その昔、男を隠した鐘を逆恨みしてガンをタレてるんですね。鐘もいい迷惑です。
二丁柝(にちょうぎ)が入って<音楽(おんがく:こういう名前のお囃子があるのです)>で幕が開いて「止め柝(とめぎ:幕が開いたことを知らせる拍子柝。一つだけ打つ」が鳴ると、紅白の段幕がスルスルと上がっていき、その中で大鼓が小さく「チョン」と音を出して「イヨォーー…」と長い掛け声を出すと長唄にかかります。(1)
花のほかには松ばかり
花のほかには松ばかり
暮れ染めて鐘や
ここまでは唄に乗っかって動いてください。大鼓はあしらってるだけです。これで本舞台から花道にかかります。遅れないように。
響くらむ (2)
花道の七三で止まって、上にのびるような振になりますね。唄いっぱいで前に三歩ほど駆け込んで(というのでしょうか)沈み込みます。そこが大鼓の大きな「チョン」が当たるところ(3)です。
「チョン! イヨォッ、ホォーー…」と掛け声を延ばして待っていますから、「中啓(ちゅうけい:扇のことです)」を鐘に向かって指します。これに次の「チョン」が当たります(4)。
向き直って本舞台に向かう第一歩に「チョン」(5)。このあと二歩目(6)、三歩目くらいまでは大鼓の方が振に当ててきますので、「中啓」の第一発目から四発目、つまりあなたの足の三歩目までは「イッチィ、ニィィ、サン、シ」とリズムになるように、また、少しずつ早くなるように心がけてください。
このあと、四歩目あたりからは大鼓とあなたの歩調はずれていきますが、これはこういうものですので気にせず加速してください。あなたが本舞台に戻って「中啓」を持ち直すところまで、大鼓は一定のリズムでテンポを速めながら打ち続けていきます。
大鼓は本舞台中央で<鐘見(かねみ)>の形になって「中啓」を持ち替えるところへ「チョン! 」と一発大きく当てたいので、中央で止まってからはあまり急がない方がいいです。
止まったところが先の花道からの連打が終わるタイミング、持ち直すところへ「チョン! 」と一発(7)大きく打って、短く「ホォッ! チョン」。そしてそこへ笛が「ヒィ! 」とやはり短くヒシいできて、すかさず小鼓が「ヨォ! タ」と受けてきます。
このときに<乱拍子>に入る形になっていれば理想的ですが、多少振の方が遅れるのが普通です。このあとの小鼓の掛け声はそうとう長く引っ張れますから大丈夫。
二発目の「ホォッ! チョン」は「中啓」を持ち替えたあと、前に向き直ったところに当てる」という説もありますが、私はよくわかりません。実際は当たったのを見たことがないからです。だからあまり気にしなくてもよいでしょう。なにかご存知でしたら教えてください。
(1)止まる(2)横を向いて持ち替える(3)前を向いて<乱拍子>の形になる。この三つのポイントが「イチ、ニイィ、サァァン」と少し遅くなりつつひと流れになっていれば、音とのかねあいは完璧になるでしょう。これで<乱拍子>に入ります。