Workshop for Flying Dancers
彷徨える日本舞踊者のための囃子講座
娘道成寺の巻
その2<乱拍子>
「乱拍子(らんびょうし)」も本行(ほんぎょう:歌舞伎の囃子からみたお能の囃子ことです)の「道成寺」からきており、道成寺の山門の階段を蛇が一段いちだん登る様を表現しているといわれています。ここでは日本舞踊で普通にやるスタイルでお話することにします。
小鼓は先の「ヨォ! チ (1)」と打ったあとに間を空けずに「ホォーー」と長い掛け声をしたあと、その掛け声の中で前に出した右足のつま先が上がるのに当てて「ポン」と一つ打つ(2)ことになっています。「ホォーー、ポン! 」ということですね。
これは小鼓の奏者はあなたの真後ろにいますから、目で見て当てることはできません。そこで小鼓の掛け声を聞いていただくことになります。
「ホォーー」という掛け声の「ホ」の部分は地声(普通に喋る時の声ですね)、「ォーー」の部分は裏声です。この裏声の中でおそらく右足を前にすり出すことになるでしょう。そして声が切れるのを待つのです。
「、」のところでこの裏声が切れたら小鼓の奏者は楽器の打面に添えていた右手をひざ頭まで下に降ろしたのち、その手を振り上げて「ポン! 」と音を出します。この「ポン」と右足の上げるタイミングを合わせるためには、先の掛け声の切れ目を見つけてください。逆に「ポン」という音を聴こうと思ってはいけません。確実に遅れます。
1、裏声が切れる 2、手を降ろす 3、打つ。これが「イチ、ニ、サン! 」と、非常に短い時間の間にではありますが、ひと流れで行われます。もう「ワンツースリ! 」って感じですけど、この手を降ろすところに小さなブレスをイメージしてくださるとわかりやすいかもしれません。このブレスがイメージできれば目をつぶっていても(実際それに近い状態ですけど)タイミングは合います。
このあとあなたは上げた右足のつま先を右左(あれ?左右だったかな?)と振って降ろしますね。これに小鼓は「チ、チ、 ポン (3,4,5)」と当てたいのですが、これもあなたのつま先は小鼓の奏者からは見えません。
そこでさっきのようにあなたがつま先を上げたところに「ポン」と打つ前に加えて、「チ」と打つ前にも軽く短く、そして最後の「ポン」の前に少し深くブレスする小鼓奏者をイメージしてみてください。ああ、文章で書くとややこしい…
要するに「ホォーー、(スッ)ポン、(ス)チ、(ス)チ、(スゥ) ポン」ということですね。この「スッ」とか「ス」などのニュアンスの違いはお囃子を習っている方でしたら理解できると思うのですが、踊りのお稽古で使われている音を聴いてそのイメージをしてみてください。
さて、これであなたの右足のつま先は無事に着地しました。次の「ホォーー」で右足を元に戻し「ポン(6)」を待ちます。
次の「ヘェェー、イヤァー! 、タ! (7)」で、あなたは身体を沈み込めるようにして右肩を回しておいて、足を踏みます。ここでは「ヘェェー」の部分と「イヤァー! 、タ! 」を分けて考えてください。
つまり「ヘェェー」で「身体を沈み込める」、「右肩を回す」を済ませておいて、「イヤァー! 」の間はタメておき、「、」で解放して「タ! 」で足を踏む、ということを申し上げたいのです。こうやると、カッコイイです。解放したら、足を踏む振がその後の「チテントンツン、鐘に恨みは〜」または「急の舞」の動きにつながっていくように工夫すると、ここで流れが切れてしまってその先が別物のようにならずに進むことができます。
「ヘェェー」という掛け声はとても珍しい掛け声なんです。私、「乱拍子」でしか使ったことがないです。他にはないのかもしれません。ここでは「ヘェェー」と書きましたが、実際は「エェェエェー(文字の大きさの違いに注意!)」と聴こえると思います。
これで多くの場合は長唄の「鐘に恨みは〜」のクダリになります。オプションで「急の舞」になることもありますが、それはまた日を改めてお話しましょう。