かつしか郷土史探訪 (8)


奈良時代のトラとサクラ

大嶋郷戸籍の複製(当館所蔵)

 奈良時代の東京に住んでいた人たちの戸籍が、奈良東大寺正倉院に保管されています。この戸籍は、「下総国葛飾郡大嶋郷戸籍」といい、現存する数少ない奈良時代の文書の中でも、古代の日本の家族制度や家族構成を知るうえで、貴重な資料です。

 この戸籍によると、大嶋郷は甲和(こうわ)・仲村(なかむら)・嶋俣(しままた)の三里から構成されています。各里の位置は、甲和は江戸川区小岩、嶋俣は柴又と考えられています。また、仲村里の場所は近年まで不明でしたが、最近の発掘調査から鬼塚遺跡、本郷遺跡の所在する奥戸・立石地域ではないかと考えられています。

 大嶋郷戸籍の大きな特徴は、記載されている人の多くが、姓を『孔王部(あなほべ)』と名乗っていることです。この孔王部姓の人たちは、天皇や皇族に奉仕するために組織された人たちだといわれています。組織された時期については、5世紀の安康(あんこう)天皇のころというのが通説でしたが、最近の研究では6世紀から7世紀前半に当たる敏達朝(びたつちょう)から推古朝(すいこちょう)と考えられています。

 大嶋郷戸簿には、当時の大嶋郷に、甲和里454人、仲村里367人、嶋俣里370人の、合計1千191人が暮らしていたことが記録されています。この中に、『孔王部刀良(とら)』『孔王部佐久良売(さくらめ)』という人物がおり、『刀良』は下は10歳から上は36歳までの7人、『佐久良売』は29、32歳の2人が見受けられます。この人たちは兄妹ではありませんが、今から1千年以上も前に、トラさんとサクラさんがこの地で暮らしていたのです。

 (郷土と天文の博物館)

 

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(かつしか郷土史探訪は『広報かつしか』毎月25日号に掲載されます〉


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