映画館がやってきた! 映画鑑賞記

ディープ・インパクト

■DATA (1998/米,原題:"Deep Impact")
STAFF
監 督 :ミミ・レダー 脚本:マイケル・トルキン/ブルース・ジョエル・ルービン
製作総指揮:S.スピルバーグ他 音楽 :J.ホーナー
CAST
タナー :ロバート・デュバル, ジェニー(TVキャスター):ティア・レオーニ, リオ(彗星の第一発見者) :イライジャ・ウッド, ロビン :バネッサ・レッドグレーブ, ジェイスン :マキシミリアン・シェル, ベック(大統領):モーガン・フリーマン

Story

原題:"Deep Impact"は、「キツイ衝突」
 ある日地球への衝突コースの彗星が発見され、宇宙船で爆破に向かうが失敗。
 衝突の被害は、人類滅亡の危機があるとされる。
 アメリカでは抽選で選ばれた若者だけがシェルターに避難する権利を得て、 避難する者、残る者の間で、若い恋人、親子、etc.の、それぞれの愛のドラマが展開する。

感想

[2002.5.26] 鑑賞(DVDレンタル) ★☆
 あ、イライジャ・ウッドだ。彗星を最初に発見する高校生役で。
 なかなか利発そうではないですか。身長もちょっと小柄なくらい(当たり前) だけれど、ホビットのメイクをしたほうがもっとカッコいいかな。

 ハリウッド映画は何故かネタがかぶる。
 何年か前には「噴火映画」が二つ公開されたが『ディープ・インパクト』には 『アルマゲドン』。どちらも地球に巨大隕石が落下して人類滅亡の危機、という 状況下の物語だが、世紀末、ノストラダムスの大予言をイメージしたら、 こんな作品が作られるのも無理からぬところ。
 一説には「極端な秘密主義」のために、ある程度製作が進むまで、ネタがかぶっていても お互いに知る術が無いのだともいうが…。
 しかし、この二作品は同じテーマを扱っていても、目の付け所はずいぶん違う。
 『アルマゲドン』の目指すところはアクションと浪花節だ。
 ある日突然、大接近した小惑星を爆破するために掘削のプロであり、宇宙の度素人の 不死身の男、ブルースウィリスがNASAに呼び出され、若者を連れて宇宙に飛び出し、 地獄のような小惑星の表面で爆弾を埋めるが、リモコンが壊れて一人残って自爆する。 自己犠牲に涙の一方で若者とウィリスの娘の恋愛の成就。という話。
 見所は、爆破チームのチームワーク、アクション、自己犠牲。だね。
 『ディープ・インパクト』の見せ場は、もう絶対助からないと知った地球上 の人々の行動。
 彗星は二年前に発見されるが、パニックを恐れて発表は伏せられ、その間に政府は 「彗星爆破計画」と「米国100万人に限定したノアの箱舟計画」と「核ミサイルによる迎撃作戦」 の三つの計画を遂行する。
 およそ火星軌道上での「彗星爆破計画」は失敗。地球上では抽選に当たった100万人が シェルターに避難するが、50歳以上で最初から対象外の人や、抽選に漏れた人、抽選に 当たったのに漏れた人との愛のために残る人etc.のドラマが展開する。
 落下のカウントダウンの中で人は何をするのか、落下の瞬間人々は何を見て死んで いくのか。あるいは生き残るのか。
 さらに、「彗星爆破計画」のメンバーによる計画外の最後の捨て身の攻撃の浪花節つき。

 科学考証は「どっちもどっち」という感じの低脳ぶりだが、『ディープ・インパクト』 が発見から衝突までのプロセスを技術的にも政治的にも「もっともらしく見せよう」 としているのに対して、『アルマゲドン』は、ヒーローを ぶち上げるためには無理が通ると思っているフシがある(笑)
 ドラマ的には「ほとんど不死身のブルースウィリス」にまともに感情移入できる人がいる と思えない(そのために美人だけれど平凡なヒロインを用意した?)のに比べて、 『ディープ・インパクト』は、「選ばれなかった普通の人々」 を描いて、高校生の恋愛とか、長年別れわかれに暮らしてきた親子の愛の復活とか、 小さな子供を持つ親の情とか、身近に想像できる感情を描いている。
 ただし、だから高尚か?…というと、所詮は素人でも思いつくようなお涙エピソードを 並べただけで、目新しい展開はどこにも無いとも言える。
 「彗星発見、秘密にする政府、ロケットの派遣、爆破失敗、シェルターの抽選」、 という主要な要素は、ちょっと天文学に興味のある人なら誰でも一度は考えたことのある ストーリーで、しかも、天文学的に当然そうなる。そして「残った人々の生き方、死に方」 の描写も、離婚した夫婦、新婚さん、母子、自立した子と親という代表的な人物を それぞれハッピーエンドにしただけだから個性が無い。
 地球滅亡という非常事態の中で、人間はもっと色々なドラマを繰り広げないか。 シェルターに潜り込もうと策謀する人々や、やけくそになって 快楽に走る人、金に物を言わす人、富がもはや助けにならないと絶望する人、 宗教に逃避する人、UFOを待つ人々、集団自殺、あるいは殺人、デモ、暴動etc. ありとあらゆる追い詰められた人間のパターンを描くことが可能だろうに、この映画は 「戒厳令」の一言で皆おとなしく死を待っている。
 こんなときに、警察活動で人は行儀良く死を待つだろうか。警官や軍人だって人の子、 シェルターに向かうバスの中で警官による殺人や身分証の偽造事件がおきても不思議は ないし、シェルター警備軍に漏れた軍人が部隊単位で同時多発的に「軍事クーデター」を 起こしてすでにシェルターに避難済みの人間を皆殺しにして乗っ取ってもおかしくない。
 抽選コンピュータへのハッキングや、オペレータへの賄賂もあるだろう。
 だいたい、公平に抽選されたと誰がわかる、あなたなら納得するか?
 政治家、芸術家、宗教家、あらゆる特権的にシェルターに入れる人々に対する内部告発 が起き、権威は引き摺り下ろされるだろう。
 大津波に備えて、標高の低い国々から、内陸の高地を持った国に対する戦争も考えられる。
 「人類滅亡」宣告された人たちが巻き起こす騒乱は、恐らく限りが無い。なのに、 この映画には個人的な愛を成就させたいと願う人しか出てこない。
 所詮は「スピルバーグ/ミミ・レダー」の甘いおとぎ話かと思う。

 結局、人間ドラマを描こうとして通り一遍の描写に終始した『ディープ・インパクト』 より、ばかばかしいけれどアクションで突き抜けた『アルマゲドン』 の方が、映画としては成功だったということで如何かな?

●科学考証
こんなページを見つけた
アルマゲドンとの比較ページ
 この人は考証はアルマゲドンに軍配を上げているが、残念なことに映画館で一度見ただけ なので、勘違いが見受けられる。ともあれ、順に確認しよう。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!