2002.4.14NHK衛星放送 囲碁将棋ジャーナル
2002.4.11&12名人戦第一局 森内VS丸山
羽生解説をめぐり


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への字に締めた口。カメラに視線を合わせないように、メガネ越しの両目がせわしなく動く羽生。
最近丸山名人が森内挑戦者に大きく勝ち越していることに関して
羽生「二日制の対決は両者初めてですので、データはあまり関係ないと思います」
相変わらず今治市を造船とタオルの町として紹介する経済定跡。いずれも傾城。
奨励会員岩根忍一級の振り駒。対角線上に見つめる森内。脇で振り駒を見ない丸山。丸山の脇息の下に飛び散ると金。と金4枚で森内先手。すぐに指される76歩。
羽生「森内さんが先手なので横歩取りが自然」
4手目までの進行。
羽生「丸山さんはこの戦法で名人になったほどですから得意中の得意」
横歩取りで取った歩が床に落ちる。羽生、歩を自分で拾いながら「すいません」
矢内「ここまでは?」
羽生「もちろん最初から決めてきたはずです」
矢内「33角は?」
羽生「角交換や33桂もありますが非常に少ないですね」
矢内「ここで22銀が新しい指し方の第一歩ですね」
羽生「そうですね」
矢内「ここで87歩は?」
羽生「最近はここに歩を打たない指し方が多いんですが、森内さんはオーソドックスですね。ここでは時間を使ってませんので最初から決めてきたはずです」
矢内「そこで丸山名人85飛車と.....」
羽生、ここで丸山が50分以上も長考したことに触れることを避け、すぐに26飛と動かす。矢内に質問もさせない素早さ。85飛車というこの将棋の骨格を決定する最重要の一手完全無視。 羽生のすっとぼけ第一弾。
矢内「26飛車には41玉ですが」
羽生「41玉の代わりに62銀ですと角交換されて同桂に21角で終わってしまいますから」
矢内「はい」
羽生「まあ名人戦でそんなことないですけど」
町道場でもそんなことない。羽生、虚しい笑いで難所をなんとか乗り切り、解説続行。
羽生「38銀は森内さんが温めていた手でしょう。丸山さんも予想していなかったでしょうから」
羽生のジョーク。丸山は羽生相手に38銀を指している。
矢内「54歩」
羽生「そうですね、んー。このへんから頭を悩ませるトコではあるんですけれど」
以後の展開で54歩が逆行転化し、疑問手から悪手となる。羽生はこの逆行転化について語らない。
矢内「54歩は玉頭を狙いにいった?」
羽生「いえまあ、ここでは74歩もあるんですけれど」
羽生は丸山の38銀戦法に対して74歩を選択し敗勢を招いたことがある。85飛車としたため玉頭狙いではうまくいかないということ。84飛車ならば55歩と指せる。つまり85飛車が重要な作戦の岐路であり、54歩がむずかしいということ。羽生は85飛車に対して中座飛車とも85飛戦法とも一言も言わず、終始単に横歩取りとのみ表現した
羽生「74歩だと37桂かもしれないんで」
変化説明は「細かいところなので」しない
羽生「54歩が得になるかどうかは非常に微妙な所」
矢内「そこで37銀ですが」
羽生「54歩には37銀という、まあそう言う感じですね。ハイ」
矢内「74歩には46銀で75歩ですが、ここは突く所なんですか?」
羽生「35歩が次にありますから」
矢内「75歩ではなく73桂では?」
羽生「うーん、ちょっと遅い感じがしますね。駒のスピードにあわせないと」
矢内「75同歩は?」
羽生「同飛に対して77歩と受けるのは先手負けに等しいですから。先手一歩得してますから、まあ取られても」
矢内「いたくないですか」
羽生「そうですね」


角交換から33同桂。76歩と歩を取り込ませてから38金とした局面。

1999年王座戦の羽生丸山の横歩取り85飛車決戦では、4局のうち実に3局がこの中座飛車。最終局、丸山は38銀を選択。羽生は74歩を先に突き、丸山37銀に対して羽生は54歩とし36手目まで本局と同じ形。丸山は37手目に68銀としたため、25歩と打たれて飛車は27角打を避けるため下がる一手。森内は飛車を36に寄れるように先に27角打を避けるために38金とした。衛星放送の森下解説の通り、森内はこの38金を生かす為に25歩には36飛車と寄ることに成功。


羽生「実は私、この形で後手をもって丸山さんとやったことがあるんですが、後手苦しいと思っていたので、なぜ丸山さんが今回この形にしたのかわからないんですが」
羽生のすっとぼけ第二弾。
矢内のつっこみに
羽生「これはこれでむずかしんですけどね」
丸山と羽生では終盤力が違いすぎるということ。
矢内「25歩と打ちましたが」
羽生「感想戦ではこの手がどうかということでしたので、この前後で優劣が決まったのではないかと」
矢内「25歩の代わりは?」
羽生「44角-88銀-73桂というような展開で今後の課題かと」
羽生のすっとぼけ第三弾。羽生並みの終盤力がなくては無理筋。54歩と突いてあるために36飛車には54角と打てなくなっているという見解は森下解説と同じ。
矢内「68銀が感じいいですね」
羽生「そーですね。森内さんは最初に攻めると見せかけて、じっくり受けるという展開が好きなんですね(笑い)ハイ」
羽生の皮肉。
矢内「ここで後手は?」
羽生「ゆっくりできませんから、本譜の順もやむを得なかったんではないですかねえ」
37歩打を森下は遊んでいる先手の桂馬に働きかけると考え疑問とした。

羽生「でも相当怖い手ですからねえ。後手も自信がないと指せないですから。このあと後手も55角と打ってうまく攻めを繋いだ印象がありましたけど」
矢内「24桂馬に44桂馬は?」米長推奨の手
羽生「16飛車と逃げられ手が続きませんから」あっさり切る
矢内「24桂馬に56飛では?」控え室の検討
羽生「37角成-同金-55飛で飛車交換は39飛車が厳しいですかね。あったかもしれませんが、本譜の順に感心しました」
羽生のすっとぼけ第4弾。
飛車交換後66歩。これで勝負が決する。
羽生「んーうまい手でしたね。これで懐を広げて」
この局面だけみれば盤上この一手。プロ達は本当にこれが意外な一手と思っているらしい。これも85飛戦法のスピード感が招いた落とし穴。駒がぶつかったあとは手番を取り続けなければ負けという先入観らしい。横歩取り戦法ではおなじみの手筋がなぜ見えなくなるか>参考「急緩急の横歩取り」この有名な手筋を丸山は最初から見落とした為に細い攻めは完全に切れた。

29飛車打以後の丸山の形作りの仕方。
矢内「89飛車成に変わって37歩打は?」(森下解説の手順)
羽生「んー、48金に38飛車成ですよねー。でも48金ではなく27金と逃げれば38歩成が甘いですから。まあ本譜の順は攻めが遅くなった印象があるのでー、ここはひとつの勝負所だったと思いますぅー」
以下期待した羽生終盤術の読み筋一切披露せず。
森内の手堅い手順に対して「そうですね」とはっきり述べる羽生。やや疑問があるときは「そーですねー」と羽生長音。
「歩がないですからねぇ」惜しい時には「ネェ」と半長音。
以下必然手順で53角。
羽生「んーこれが厳しかったですねぇ」
矢内「61金もしょうがないですかね?」
羽生「んーつらい手ですがねー」
ここではすでに丸山一分将棋。
羽生なら負けても一手違いの筋を必ず選択するはず。矢内の質問も軽く受け流し、終盤の二手分も棋譜再現から脱落しているズサン解説終了。相変わらず目線がカメラと合わず眼球が泳ぐ。

矢内「大分時間を余しての勝利ということで?」
羽生「森内さんは秒読みになることが多いんですが」
矢内「会心の指し回しと言える1局だったですか?」
羽生「(ひっくり返った声で)ええ、あのう、森内さんにそれほど大きなミスはなかったですしー、丸山さんも悪手というように感じられる手は特になかったようなのでー、敗因がはっきり見あたらない将棋でしたよねぇ?」
矢内「ええ、はい。次の戦形は?」
羽生「ま、先手は角換りですよねっ。森内さんがそれを堂々と受けるのかどうか」



「結局、85飛の謎には触れるなと関係者に言われたんですね」
「だからカメラ目線も合わせず無言の抵抗」
「それで終盤読み筋も披露しなかったと?」
「第一人者は自分の棋譜でしかそれを見せられない。ナマモノだから」
「矢内さんのとどめの一撃、決まりましたね」


矢内「名人戦第二局は羽生竜王の現地での解説ですが」
羽生「はい」
矢内「是非わかりやすい解説を」
羽生「ええ、極力こころがけて」