2003.04.18 第61期名人戦七番勝負第1局二日目 東大寺決戦
横歩取り85飛68玉型-三角門開帳
森内俊之VS羽生善治
聖金曜の秘跡
実況MashudaBBS2003.04.18 初日実況はこちら
香車はどのような変化となってもこの将棋に関与しない。
18日午後9時32分。92手で後手の羽生先勝。終盤で名人が緩手を2手だした為に大逆転となる。衛星放送で平藤と西川の声を聞けたことは好感がもてる。放送全解説中唯一先手優勢を断言したまともな形成判断であった。このように中堅棋士もどんどん紹介していただきたい。棋譜とイメージが合う。トップは実戦の怖さを知りすぎている為にハッキリ言えないのは致し方ない。当代一の名解説者内藤國雄が終始後手もちであったのは経験値であり大局観ではない。聖金曜の日にこともあろうにヒフミンのモノマネをカンキラダムスにやらせたナイクニにはお灸をとのルージュの伝言。
52手め以下の分析
52手め42玉=同銀は25桂跳ね。迷った時は右辺逃亡の予定通り首尾一貫。
53手め46桂=これほど遠隔操作されたV2固めも珍しい。
54手め64龍=縦に逃げると34桂-52玉-32歩成。と金ができては後手負け。
55手め32歩成=手番稼ぎの殉死。
56手め32同玉=必然。
57手め25桂=逃げつつ玉頭へ飛ぶ双頭手。
58手め37歩成=24歩の催促より逆転への綾を追及。ここから終盤。
59手め34歩=痛打。
60手め42玉=先手からの33金をかわす。
61手め33歩成=ここで33金は52玉と逃げられる。
62手め33同銀=必然。
63手め33同桂成=必然。取られそうな37桂が守備銀と交換され先手勝利の顕在化。
64手め33同玉=必然。
65手め34銀=34金の方が明解。以下42玉に急所の44歩。
66-75手め=龍を召し捕る64成銀まで必然。森内の勝ちは動かない。
76手め38と=この手に森内はだまされた。羽生が64歩と成銀を取れば森内に迷いは生じなかったはず。
77手め52歩=敗着。これで大逆転となる。21飛ならば先手の勝ち。49とならば73銀成で桂馬を取った後26の角を抜く。28角打でこの龍は羽生が下段に打つしかない飛車と差し違えることになる。この28角の連動により46桂馬が王手銀取りとなる仕組み。16角まで詰みに関与する。最後は打歩詰めの筋さえ見極めれば81飛打以下一旦31飛車成と桂馬を取る。後手が必至をかけた途端に34龍で後手は即詰みとなる。115手め56桂打が詰みあがり図。
時点で、西川・平藤コンビは先手勝ちの結論であった。森・島組は先手良さそうだが決め方が分らないという雰囲気であった。内藤は平凡な攻めでは後手良し、まだ難しいという判断であった。勝負の帰趨は決していないが、内藤の大局観が対局者に最も近いということだろうか。燕雀焉んぞ鴻鵠の志を知らんや、という故事を思い出させた。
名人が竜神を鎮める為に儀ではなく力で対抗し得たのはここまでの総合力において全てを凌駕していた為である。
問題は49手めに玉を死守する選択肢がみっつあったこと。その受け方次第で37歩成を羽生は決行出来たはずである。
68銀は単なる双頭手ではなかった。みっつめの機能をもっていた。最終盤=空いたばかりの79地点へ玉がスライドする変化で先手勝ち。土壇場での-G効果。調べれば調べるほど恐ろしい三角門開帳。羽生は37歩成を決行できなかった。即ちこの勝負は初日ですでに名人が競り勝っていたということになる。
我々も唖然としている。聖金曜の奇跡を目の当たりにしたような思いである。
この68銀ほど見事な三角門は近来なかった。ここに至るまでの名人の最強手順。37桂が使えては先手優勢。これほど遠大な罠があの68銀に集約されていたとは。森内の冷たい火炎。惚れ直す。
もったいない歩であるが先に25桂と跳ねる前に羽生ディフェンスの方向性打診。
68銀は名人渾身の勝負手。恐ろしいことをする。羽生狂乱の龍がひるむとは。
これで25桂跳ねが保証され先手から雪崩込む勝負型。
羽生は逃げた。情けない。37歩成ならば57地点の悪魔の空間が狂乱の龍として相応しい死に場所。
中継が停止していたのはNHKの衛星放送に合わせるための時間調整の長考ではなかった。
48手めまですでに予告した通り。49手めで名人は68銀。飛車を追うと同時に59地点を死守し37桂馬を生かす双頭手。
オシボリは最初握ってそのぬくもりで己の体温を感じる。そして握りしめたまま開かずに元に戻す。
24角打ちで形を作ろうとしても龍が逃げて詰めろもかからない。形も作れない棋譜となってしまった?名人のポカではない。プロ棋士はポカをうまく演出する。これはさらけ出したオシボリ。
今日は復活祭を明後日に控えた聖金曜日。
龍を作られ飛車を取られ名人は何をしようというのか?
言葉もない。
33歩成-57飛成-69玉-26角-32と-同玉以下の変化は25桂跳ねの時に59飛打で先手は即詰みとなる。従ってこの場合49手めは後手玉に王手or詰めろをかけるか先手玉を一旦受ける以外にない。前者の詰めろはなく後者は歩切れで継続手なし。
この中継は本当であろうか?
中継が遅延している。どうやらこの狂乱角を羽生は昼前に打ったようである。森内に打たされた角となる。後手は馬で粘土をこねることになるがそこに息を吹き込むのは先手の緩手であるというのが経験値。
下記変化で飛車が成る場合35角-36飛-57飛成-69玉となる。角取りになっている為にこれは問題外。角を助ける攻防の46龍ではあっさり同飛-同角-33歩成で後手投了。後手は角をすぐに手放したらあとは継続手がない。この馬と龍は空中で己の血を吹き出して狂乱の舞を見せるだけである。35角打は地獄の恫喝を見切れば怖くない。
36同飛と取るのでは羽生に気息を合わせすぎということであった。34歩は怖くてすぐには指せない手。すでに指摘したように35角打があるからである。しかしこの恐怖感が無くなれば指せる。35角-36飛-57角成-77玉と顔面受けする。神谷ならやりそうである。
以下35歩-26飛-45桂-25桂の桂馬の跳ね違いで先手優勢となる。従って35歩はない。
2時間半の大長考であった。おかげで内藤神吉の将棋談話を満喫することができた。金が取れる芸とはこのようなものである。毎日の内部分裂した様子はテレビでも露出された。山村の謙虚な態度とWEB担当者が対局場をブロックサインで取りしきる態度はチグハグである。経営陣とセクションが齟齬をきたすとこのようなことがよくある。因みに独占禁止法違反の疑義が生じただけで株価は下落する。昨年第一興商がそれで社屋を傾けそうになった危機感を経営陣は知るがよい。すでに社屋が傾いた毎日新聞などセクション責任者の問題だけでは済まない。
名人は意外であったろう。下記のダメな変化1-4でなかったことは幸いである。名人が考えたはずの45桂はあまりに筋が見えすぎ紛れにくい為に羽生は見送った。木村が指すような手では名人に勝てないということである。45桂は筋の一致という点で平行八度の禁止和声進行と同じ悪効果をもたらす。つまり相手の指し手と調和しすぎる為にかえって平面的な響きとなる。カンキの背広と扇子が全く同色であることが不自然さをもたらすのと同じである。調和しすぎるとかえって不自然になるのであった。
衛星解説に登場した内藤神吉の話術が芸として完成されており無条件に我々を楽しませるのは彼らが筋をずらす緊迫感を常に持っているからである。だから話術が立体的に構築される。
本日のマシュダ一家早朝実況は袋入りの特製和菓子風に。
ダメな変化1-4
1=25歩の場合は先手に36飛と回られ次の34歩の桂取りの突き出しが厳しい為28角打の余裕は後手にない。25歩-36飛に対してそこで狙いの45桂には同桂-同飛では34歩が厳しく先手優勢。後手はむしろ先手の飛車が現在の26か24地点に居た方が34歩と突いた時に35角打が狙えて良い。
2=24歩の中空の受けで25桂跳ね狙いは後手切れる。後手桂馬を入手しての王手飛車狙いの65桂打サザンクロスは不可。先手が同歩とは取ってくれない。
3=23歩。一旦先手が受けに回った後33桂が狙われて後手敗勢。
4=31歩。(内藤國雄が有り得る手と紹介)金底の歩で先受けはその場で死んだ方がよい。
残った選択肢=ひとつは45桂。即ち下記順位戦と同じ。
43手め34角打=有名な筋。飛車が横に逃げると43角成-同金-22飛成で後手崩壊。
44手め25歩打=飛車を縦に逃げる為の犠打。
45手め25同飛=必然。
46手め46飛=ここしか逃げる場所がない。47歩と打ってくれたらよいが
45手め44歩=手筋。同飛なら45歩で飛角交換。または56桂打から飛車を追って再度の44歩。49金型の強味。
45手め44同歩=中原玉最大の弱点を自ら晒す。
以上先手の26飛型が角に狙われない理由
1=68玉の位置。58玉ではすぐに王手飛車を喰らう。
2=49金と38銀の連結。先手による反中原囲いの優秀性。
3=44歩という後手最大の弱点直撃のため攻めあいができない。
すでに後手は加速定跡続行で無理筋。封じ手が控え室の予想である45桂では同桂-同飛で後手は右辺へ玉が脱出し得るかという勝負で一手稼ぐしかない。明解な逆転の攻防手がない為に先手が緩手を出さない限り後手は負ける。
そこで羽生がどうせ紛れを求めるならばアレをやるかという興味となる。
2000年11月14日(火曜日)C1順位戦 7回戦
先手:堀口一史座
後手:木村一基
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽8四歩 ▲2五歩 ▽8五歩
▲7八金 ▽3二金 ▲2四歩 ▽同 歩 ▲同 飛 ▽8六歩
▲同 歩 ▽同 飛 ▲3四飛 ▽3三角 ▲3六飛 ▽4一玉
▲8七歩 ▽8五飛 ▲2六飛 ▽2二銀 ▲6八玉 ▽7四歩
▲3六歩 ▽6二銀 ▲3八銀 ▽7三桂 ▲3七桂 ▽5一金
▲4六歩 ▽5五飛 ▲4五歩 ▽5四飛 ▲3三角成 ▽同 桂
▲6六歩 ▽5五飛 ▲3五歩 ▽4五桂 ▲同 桂 ▽同 飛
▲3四角 ▽2五歩 ▲同 飛 ▽4六飛 ▲4四歩 ▽同 歩
▲2四桂 ▽3一金 ▲2三歩 ▽3三銀 ▲4三角成
以下先手勝ち