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蔦の葉通信九一号

喜多村蔦枝

 マリちゃんとケイコちゃんが遊びにきました。二人は仲良しで、小学校三年生です。きょうは土曜日で展覧会だったそうで、ひとしきり学校の話を聞かせてくれました。戴きものの次郎柿があったので、二人に剥いてやろうとナイフを持った時、夫が

 「じゃ、行ってくるよ」

 と、玄関へ向かいました。出勤です。私は

 「小父ちゃんがお仕事へ行くから、いっしょにお見送りしてね。それから柿を食べようね」

 と言いました。二人は玄関だけで見送りを済まそうとしたので

 「だめ!自分も外に出ないと。外に出て、見えなくなるまで見続けているのが、お見送りなんだから」

 と言って、いっしょに外へ出ました。

 結婚以来ずっと夫を見送っています。団地生活の時は三人の子供とベランダから

 「お父さん、バイバイ」

 と、声を張り上げたものでした。夫は自分が建物の蔭に隠れる時、ちょっと立ち止まり子供達に手を振りました。

 瑞穂に引っ越してきたら、玄関先はすぐ道路になっています。道端に立って姿が見えなくなるまで、夫や登校する子供を見送り続けました。曲がり角で手を振ります。私もそれに応えます。指圧学校に通っている頃は、朝六時半に家を出る私を、家族が見送ってくれました。

 いつ、だれが出掛けようと、そのとき家にいる者全員が外に出て、手を振り合ってきました。子供達がいなくなった今でも、まだ二人でお互いに手を振り合っているので、

 「仲がいいねえ。瑞穂長岡の名物夫婦だね」

 と、近所の人達から冷やかされています。

 ケイコちゃんが夫の後ろ姿を見ながらぼそっと言いました。

 「小父ちゃんは死んで行く人みたい」

 この子はパパと永遠の別れをした子だったのです。鼻がツーンとしてきました。

(蔦の葉通信91号より転載)


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