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NEW286 万家用文章 (ばんかようぶんしょう)
【作者】小川保麿(玉水亭)作・書・序。【年代】天保八年(一八三七)序。天保一二年刊。[大阪]秋田屋市兵衛(大野木宝文堂)板。【分類】消息科。【概要】中本一冊。「年頭祝儀状」から「忌明礼状」までの八三通を収録した用文章。まず五節句・四季・年中行事に関する例文を数多く掲げ(特に新年の書状は九通に及ぶ)、続いて、商取引や婚礼その他通過儀礼の祝儀状や礼状などを列記する。本文を大字・五行・付訓で記す。
★天保〜嘉永頃に多くの往来物を手掛けた玉水亭小川保麿の作品が、本書の発見でまた一つ増えた。本人の署名がない『〈絵入文章〉大坂往来』も書籍広告によれば保麿の書という(同書には黒田庸行(見徳・成章館)書と記載するので誤りか)。これを除くと、全部で10点の著作が確認できた。刊行順に、駅路往来、孝行往来、年中用文章、海内用文章、和漢廿四貞女伝、三体用文章、女今川益鏡、万家用文章、養育往来、続二十四孝絵抄となり、[京都]吉野屋仁兵衛板と[大阪]秋田屋市兵衛板が多い。往来物の書家としては作品数で郡を抜く西川竜章堂の弟子で、保麿が文章を著し、竜章堂が揮毫した往来物もいくつかある。天保8年刊『年中用文章』は西川竜章堂が途中まで執筆したが編集途中で亡くなったため、下巻の後半を保麿が引き継いで完成させたものである。



NEW287 〈神儒仏〉心学人之道 (しんがくひとのみち)
【作者】不明。【年代】江戸後期刊。刊行者不明。【分類】教訓科。【概要】半紙本一冊。宣契作、文化九年(一八一二)刊『孝行和讃』の改編版。刷り表紙とも五丁の小冊子で、表紙に「信信信信信信信(しんをのぶるはまことにおもし。うたがわずに、たがわざるはひとのことばなり)」と「心だに誠のみちにかなひなば、いのらずとても神や守らん」の一首を刷り込む。「それにんげんとうまれては、まづかうこうのもとをしれ、けのさきつめのはづれまで、この身は父母のたまものぞ、わが身とおもひおろそかに、もちなす人ぞおろかなり…」で始まり、「…たとへ万能たつしても、忠孝ふたつにはづれなば、鳥けだものにもおとるべし、神明仏陀聖賢の、おしへをまもり孝行を、一生おこたることなかれ」と結ぶ本文を小字・九行・無訓で記す。概ね『孝行和讃』と同趣旨の教訓を綴るが、本文の随所に加筆・訂正が見られる。
★『孝行和讃』の改題本や類書は非常に多く、その影響の強さが知られる。和讃系の往来物では随一の普及を遂げている。NEW289の『孝行の口ずさみ』も同様である。



NEW288 脩身いろは歌 (しゅうしんいろはうた)
【作者】平井義直編・序。【年代】明治一六年(一八八三)序・刊。[京都]杉本甚助板。【分類】教訓科。【概要】半紙本一冊。「小学六級五級の生徒に脩身の道教ふる階梯とする」ために綴ったいろは教訓歌。童蒙の理解のために極力変体仮名を用いず楷書に近い仮名を多用する。「いろはさへえ知らぬ人をはかなしと、みつゝまなばぬひとぞはかなし」以下の四七首を半丁に大字・四行・付訓で記す。また、本文中に挿絵五葉を掲げる。
★明治期の往来物の挿絵は江戸期とは違った写実的なものが多い。平井には同時代の多くの教科書類の著作がある。



NEW289 孝行の口ずさみ (こうこうのくちずさみ)
【作者】遠藤某編・跋。【年代】明治七年(一八七四)刊。[不明]遠藤某板(施印)。【分類】教訓科。【概要】半紙本一冊。宣契作、文化九年(一八一二)刊『孝行和讃』†の改編本。孝行の徳や重要性を説き、その実践を励まし、さらにこれをもととして親子・夫婦・親類など一家和合をはかるべきことを、七五調・美文体で綴る。「夫、人間と生れては、先孝行の道をしれ、親に不孝の輩は、鳥獣に劣れりと、古人の辱(はじし)め置れしぞ、其孝行の趣きは、親の心に安堵させ、遊所通ひ遊山事、悪敷所へ立よらず、兼ては旧弊一洗の、御趣意を堅く相守、朝より晩に至まで、先祖の家業怠らず…」と起筆するように文化九年板本文の随所を書き改めている。本文をやや大字・七行・付訓で記す。跋文で、本書を「常々子達え之口号ともな」せば自然と子供が素直に育つことを述べ、「孝行の誠ひとつで天も地も、一家親類丸く治る」の一首を紹介し。編者六〇歳の記念に施印したことを記す。
★NEW287と同様に『孝行和讃』の類書である。江戸期のものに次々と手を加えられつつ、1世紀以上使用された教材である。



NEW290 〈玉置流〉当用尺牘 (とうようせきとく)
【作者】長友松軒(玄海堂)書。中嶋朋卿跋。【年代】宝暦一〇年(一七六〇)刊。[大阪]吉文字屋市兵衛(定栄堂)板。【分類】消息科。【概要】横本一冊。「年始に菓子を贈る状」から「安産見舞状」までの四二通を収録した書道手本。冒頭八通は五節句・四季の祝儀状で、それに続けて、江戸下向につき餞別を贈る手紙など種々の挨拶状・見舞い状・誘引状等を掲げ、後半には古筆・唐物など趣味にまつわる書状や相場様子見、小判金位改めなど諸用件の手紙、さらに家事見舞い状なども盛り込む。本文を大字・五行・所々付訓で記す。なお、本書に宝暦一一年刊『当用書札集』、宝暦一四年刊『当用書翰式』†を合本した『当用書札大全』†が宝暦一四年頃に刊行された。
★長友松軒は江戸中期に多くの往来物を執筆した書家である。似たような書名や内容も多いので、注意が必要だ。