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NEW266 教訓子宝山 (きょうくんこだからやま)
【作者】国貞画。【年代】江戸後期刊。刊行者不明。【分類】教訓科。【概要】異称『教訓近道子宝』。中本一冊。勧善堂作、天保14年(1843)刊『幼心学図絵』の海賊版と思われる往来。イロハ短歌(教訓歌)をあしらった教訓絵本で、特に挿絵は寺子屋での学習や悪ふざけ、屋外での遊戯や喧嘩など、子どもの百態を生き生きと描く。冒頭には「いろとむやくな事をさし置て、まづ手習を専らにせよ」以下の教訓歌と手跡稽古に励む寺子の姿を示し、以下同様の教訓歌を並べ、最後は「京わらべおしへのためのいろは歌、人の見る目もはづかしぞおもふ」と作者の謙辞に代わる狂歌となっている。『幼心学図絵』の数丁を見開き1丁に収録するなど、圧縮する方向で編集したもの。
★このような模倣は決して珍しくない。両者を比較すると、海賊版の方がレイアウトに無理があったり、内容に不自然さが見られるなど、やはり海賊版の方が見劣りすることが多い。



NEW267 〈絵入訓読〉童子教増注鈔 (どうじきょうぞうちゅうしょう)
【作者】近沢幸山注・序。野口立泉書。一光斎芳盛画。【年代】江戸後期刊。[江戸]若林喜兵衛(玉養堂)板。【分類】教訓科。【概要】弘化4年(1847)刊『〈絵入訓読〉実語童子教増注(増注鈔)』のうち、後半部の「童子教増注鈔」のみを単行本にしたもの。中本1冊。弘化4年板は、天保14年(1843)刊『実語教童子教具註抄』の施注を模倣した点が多く、弘化板は埋め木による改訂が数度にわたって行われたため異称・異板が少なくない。本文は大字・6行を基本とし、本文を数句ずつ大字で掲げて割注を施し、さらに頭書に書き下し文を置く、江戸後期の二教注釈書の一般的なもの。注釈内容は『具註抄』と全く同じで体裁もほぼ同様である。
★かえってこの『童子教増注鈔』の方が伝本が少なく、今回、初めて確認できた。弘化板の抄録であるため、丁数も第12丁から始まるが、少しでも廉価に販売するために、分冊にするなどの方法がとられたものであろう。


NEW268 〈異本〉女今川 (今川に名風て女子教化の条々) (いほんおんないまがわ、いまがわになぞらえてじょしきょうけのじょうじょう)
【作者】三好長貞作・書。【年代】明和5年(1768)作・書。【分類】女子用。【概要】ほぼ枡形本1冊。作者直筆本で、流布本の『女今川』(貞享4年板系統)あるいは『新女今川』(沢田吉作、元禄13年板系統)とは全くの別内容。「一、常の容儀を不知して終に身の誉を不得事」以下23カ条と後文からなる女子教訓。ただし、『女今川』各種と概ね同傾向の教訓で、奉公人を抱える上流家庭における主婦を想定した心得が中心。末尾では、躾方を学んで威儀を身につけ、正直な人と交際して邪悪な友を避け、夫を尊び、己の心の良し悪しを弁え、奉公人を憐れむべきことなどを諭す。

★流布本の『女今川』にはおおきく二つの系統があるがいずれとも異なる、独自の文面で綴られた「異本女今川」だが、このようなアレンジは江戸時代に無数に行われたであろう。男性作である点も興味深いが、それ以上の情報がないため、動機など詳細は不明である。



NEW269 女読書日用文筧 (おんなどくしょにちようぶんけん)
【作者】川当節叟作。【年代】享保17年(1732)作。江戸中期刊。刊行者不明。【分類】女子用。【概要】異称『女手ならひ教訓の書』。大本1冊。享保17年刊『女手ならひ教訓の書(女手習状)』(川当節叟作。江戸・平野屋善六板、2冊本)の改題本。『初登山手習教訓書(手習状)』にならって、手習いの心得を綴った女子教訓書。「古しへは物かゝぬ人も世におほかりしとはきけ共、今は此めて度御代にむまれて物かゝねは、常にふじゆうなるのみにあらす…」と書き始め、まず手習いの重要性を述べ、特に学習期間が限られた女子はまず第一に心掛けよと説く。さらに、成人後も大いに役立つ手習いの徳を讃え、最後に「物かく事」は「現世・来世の宝」であり、「物かくゆへに仕合よき女性も世に多し」とその有益さを強調して結ぶ。
★『女手習状』は多くの板種があるが、享保期のものは享保元年板と享保17年板の2種類あり、本書は後者の改題本で、この改題本は今回初めて確認されたもの。教訓の内容は「手習い」であるが、書名が「読書」となっている点は注意が必要であろう。



NEW270 女消息往来宝庫 (おんなしょうそくたからぐら)
【作者】不明。【年代】文化12年(1815)刊。[大坂]河内屋太助板。【分類】女子用。【概要】大本3巻合1冊。蘭下人乞童作。鳥飼幸十郎編、享保14年(1729)刊『女訓文章真砂浜』(本書もまた、元禄17年(1704)刊『女文常盤の松』の増補・改題本である)の改題本。前付の一部を改め、各巻本文の第1行目にあった首題を削除したもの(写真左端の1行目が不自然な空白になっているのが分かろう)。いわゆる流布本の『女消息往来』とは全くの別内容。
★目録では『女消息往来』の類書を思ったが、聞き覚えもなく、古書店に確認したところ、どうも流布本とは異なる様子であったため、購入する事にした。結局は、元禄期に始まる女用文章の改題本と判明したが、この時期の往来物は改題を繰り返す例も珍しくなく、伝本が少ないと、その流れの把握も一つ一つ発掘していかねばならない。