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NEW271 〈頭書絵入〉国尽倭文章 (くにづくしやまとぶんしょう)
【作者】不明。【年代】天明四年(一七八四)刊。[江戸]村田屋治郎兵衛(栄邑堂)板。【分類】地理科。【概要】中本一冊。「よし芦原の秋津洲の、千々に別し浦山を、つたなき筆にて書つゞりまいらせ候。先、我国を大日本千五百秋(ちいおあき)瑞穂の国と申侍るかな…」で始まる七五調の文章で五畿七道の諸国を列記した国尽。安永二年(一七七三)刊『〈御称号・曲輪長歌〉女文国尽し』†所収の国尽とほぼ同文で、安永板を参照して編んだものと考えられる。本文をやや小字・六行・付訓で記す。巻頭に「北野天満宮御神託」と「業平東下りの図」を掲げ、頭書に「吉書始詩歌」「七夕乃詩歌」「歌書仮名遣」「万折形図式」を載せる。
★『女国尽』の一種だが、比較的初期のもの。安永〜天明頃の往来物でも未発見のものがまだ相当数あるに違いない。



NEW272 〈新版大字・通用書状・同返事附〉童訓用文章 (どうくんようぶんしょう)
【作者】不明。【年代】宝暦一四年(一七六四)刊。[江戸]山本小兵衛板。【分類】消息科。【概要】中本一冊。「年始遣文」から「長命を賀して遣す文」まで全六二通を収録した用文章。例文は二〜四行程度の短文(いずれも往復文)で、往状・返状を「●」「▲」の記号で区別する。冒頭に五節句祝儀状を掲げ、以下、一部四季に伴う手紙を混ぜつつ、諸用件・吉凶事についての手紙全般を収録する。前付に「御家四教(いえをぎょすしきょう)」、巻末に「大坂三度飛脚」「飛脚問屋家名所附」等の記事を載せる。本文を大字・六〜七行・付訓で記す。なお、本書改題本の『〈文政再版〉用文書簡案文』†が文政年間(一八一八〜一八二九)に刊行されている。
★書名を変えて何度も刊行されている往来物は非常に多いが、江戸中期以前になると足取りを辿るのもなかなか難しくなる。本書も改題本までは比較的多いが、それに先立つ宝暦板の本書を初めて見た。



NEW273 名所往来 (めいしょおうらい)
【作者】宮沢晴宴編。【年代】寛政一一年(一七九九)書。【分類】地理科。【概要】大本一冊。各種名所往来を集録したもので、本書独自の内容も含まれる。収録書は、(1)御府内名処往来(江戸名所往来)、(2)禁裏年中行事、(3)年中行事、(4)松島賦(松嶋賦)、(5)富士賦(富士の賦)、(6)難波往来(@山難波往来)、(7)当用月次行事、(8)宮古めぐり(@山宮古めぐり)、(9)南都賦、(10)鎌倉賦の一〇種。その多くが別項とほぼ同内容。うち、「禁裏年中行事」は、「禁裏年中行事之儀預御尋、我等式不存御事御座候得共、故人之噂にて承候荒増書記、入貴覧候…」で始まる文章で一月から一二月までの禁中年中行事を綴った往来で、天明三年(一七八三)刊『〈頭書絵入〉筆徳用文袖鏡』†頭書の「禁中歳時御行事(禁庭佳節往来)」をやや割愛したもの。「年中行事」も、「夫、天地は必万機の政を行ひ、四海を治玉ふ。其年中行事と申は、平旦に天地四方拝、屠蘇白散、群臣の朝賀…」で始まる文章で朝廷の八省や寮における年中行事を列挙した往来。「当用月次行事」は、「肇暦之慶賀千里同風重畳不可有尽期申弘候…」と起筆して、家康が死去した元和二年(一六一六)以降に整備された幕府の規式や吉例等の行事を略記したもの。「鎌倉賦」は、「三代将軍、九代の執権、春の花発は秋の紅葉と変ず。柳のみや、古もろこしの里、鶴が岡、雲井の嶺、下の若宮は頼義の朝臣の建立にして、上の若宮は源二位の勧請也…」で始まる文章で、鎌倉の名所や故事来歴等を記した往来。いずれも本文をやや小字・八行・無訓で記す。
★新発見の地理科往来数点を含む。『○○賦』と題した地理科往来は意外と多いため、注意が必要である。



NEW274 〈新板〉今川準書 (いまがわなぞらえしょ)
【作者】置散子(隠岐置散子・投閑堂)作・書・跋。【年代】延宝七年(一六七九)刊。[江戸]本問屋喜右衛門板。【分類】教訓科。【概要】異称『便幼君手学之手本制詞之条々(ようくんしゅがくのてほんにたよりせいしのじょうじょう)』。大本一冊。『今川状』†になぞらえて綴った教訓。第一条「一、左文、右武者古今之法也。令此之亡失事(文を左にし武を右にするは古今の法なり。これこれを亡失せしむる事)」以下の全二三カ条および後文からなる本文を大字・四行・しばしば付訓で記す。寸陰を惜しむこと、公用を疎かにしないこと、主人の厚恩を忘れないこと、臣下の忠・不忠に基づく賞罰、家僕の多年の忠功を正当に評価すべきこと、不孝者に泥むこと、分限を守ることなど、武士としての心得のあらましを述べる。また、後文では、日本が武国であり、軍備・武芸など日頃から有事に備えるべきことや武士にとっての学問の重要性、また、忠孝・礼節・義理を重んじ、天下国家の大器たる人材を吟味すべきこと、大将として人をよく見抜くべきこと、後見人にすべき六つの心根などを諭す。
★これまで知られていなかった『今川状』の異種。延宝頃に多くの往来物を手掛けた置散子の作であるが、本書によって置散子の名字や別号も確認できる点でも貴重。幸い原装題簽付きであり、原題が確認できた。



NEW275 収納往来 (しゅうのうおうらい)
【作者】不明。【年代】元治元年(一八六四)書。【分類】社会科。【概要】特大本一冊。「当村田畑高、入出作高、何町何反何畝何歩何石何、計何升稲生御巡見、検地、歩苅、御免相、目録、早稲、収納、厚並、俵買、納掉、常和三、夫食相場、本途、社倉、米、金銀、方足、前銭、三役、山役、小割物…」と筆を起こし、年貢収納に関する語句を列挙した往来。現存本は本文を大字・二行・無訓で記し、末尾若干を欠く。名主(庄屋)などの村役人子弟が年貢の割当・徴収や農村経営に関する用語を学ぶために編まれたもので、「肝煎、地首、長百姓相見立合、目揃大概石高考へ逐一帳面に識…」「松山之山守験分、兼而無油断遂吟味、若又、有盗伐者は村中相集、相談評定之上、致穿鑿、黒印申請…」「不図、霖雨、地震、岸崩、破損之時者、普請入用積、堰間数、堀之幅、屋敷之居木…不時之公用無滞勤之…」のように若干の心得も含む。
★納税に関する往来物は数点発見されているが、有る意味で納税教育は江戸時代の方が進んでいたかもしれない。