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NEW036 世上誡独素読(せじょうのいましめひとりそどく)
[年代等] 江戸後期刊。刊行地および板元不明。
[サイズ] 小本(縦160ミリ)1冊。
[内容等] 仰々しい書名だが、内容はいわゆる『童子早学問』と同じもの。冒頭は「▲ちゆう義はまつだい出世のてほん(忠義は末代出世の手本)、▲おやかうかうはわが子そんのため(親孝行は我が子孫のため)」以下で始まる金言を46句掲げる。小本でわずか5丁の簡単な往来で、装丁等から田舎板と思われる。本文末尾の空欄に、「殿嶋邑、持主・唐澤氏品吉求之」との書き入れがある。殿嶋という地名は、信濃国伊那郡にあるので、本書は信州板であろうか。蛇足だが、裏表紙に「義士」の落書きがある。
●本書は某古書展で偶然購入したものである。ある古書店に注文し、抽選で当たっていた古書をキャンセルしたので、お詫びに同じ金額の代わりの古書を探していて見つけたものである。堅い書名のためか、小本のためか、よく確かめずに見落としていたもので、中味を開いてみて、新発見の往来物と知り購入。


NEW037 教訓御代の恩 (きょうくんみよのめぐみ *初輯)
[年代等] 文会堂(山田佐助)作。後素園国直(歌川国直)画。天保12年(1841)刊(『国書総目録』)。[江戸]山田佐助(文会堂)板。
[サイズ] 中本1冊。
[内容等] 『六諭衍義大意』の第一章「孝順父母」の教えを、挿絵と平易な解説や教訓歌で説いたもの。題簽に「第一輯」と傍書するのは、本来は「六諭」の内容を順々に述べ、第六輯までを予定していたためであろう(ただし実際の刊行は初輯のみと思われる)。東京都立中央図書館にも所蔵されているようだが未見。いずれにしても、本書が『六諭衍義』に関する往来物ということを初めて知った。巻末広告には「文会堂主人著、国直画、教訓御代の恩、一冊、『六諭衍義』父母孝順の章を子どもの心え易く、覚えるやうに、絵抄にして大意を歌につくりたる書なり」と紹介する。
*他の頁の挿絵
●家蔵本の末尾は虫損がひどいが、新たな往来物として解題を書きたくて購入した。全頁に挿絵を施した面白い往来物である。なお、同じ作者・画工の手で、本書のほかに、『教謌父母の恩(所蔵先なし)』『教訓百首戯絵解(早大ほか所蔵)』などが刊行されたことが巻末広告で分かる。


NEW038 年中用文章
[年代等] 中村平吾(三近子)作・書か。元禄13年(1700)作・刊。[江戸]升屋板。[京都]河勝五郎右衛門売出。
[サイズ] 半紙本5巻5冊(家蔵本は第3巻のみ)。
[内容等] 巻之一「春之部」(「年始に遣す文章」〜「花見誘引書状・同返書」までの19通、および一月〜三月の用字)、巻之二「夏之部」(「四月の文章」〜「納涼促状」の17通、および四月〜六月の用字)、巻之三「秋之部」(「盆之文章」〜「送菊花書状・同返書」の12通、および七月〜九月の用字)、巻之四「冬之部」(「十月之文章」〜「年忘人呼書状・同返書」の14通、および一〇月〜一二月の用字)、巻之五「雑之部」(「打絶人へ遣す状」〜「求師状・同返書」の26通、および「披露状之図式」以下6例の書式・書札礼、さらに「手形文言」と題して「金銀預手形」「売上手形」「請取手形」の三通を収録する)にわけて、合計八八通の消息文例と三通の証文類文例等を収録した大部な用文章。各巻とも、基本になる例文を大字・五行・付訓で、付録の例文と各月の用字をやや小字・一〇行・付訓で認め、用字の所々の語彙に割注を施す。
●従来、『享保書籍目録』で書名と冊数が知られるのみで未発見だった用文章。最近、第三巻のみを入手し、新発見の往来であると見ていたが、刊行年その他が分からずにいたが、ほの時を同じくして、某古書店の目録に本書と同じ往来物が掲載されているのを知り、原本を確認させてもらい、全容が判明した。作者等の記載はないが、筆跡や内容から中村三近子の作であることはほとんど疑いがない。例文の豊富さもさることながら、豊富な類語と適宜付された語注が、いかにも三近子らしい特色を示している。


NEW039 懐宝用文無尽蔵
[年代等] 梅枝作(『明和九年書目』)。明和頃初刊、文化6年(1809)再板、嘉永7年(1854)求板。[京都]須磨勘兵衛板(求板)。
[サイズ] 小本1冊。
[内容等] 『明和九年書目』に書名がのるため、初板は明和頃であろう。とすれば、本書は小本の用文章では比較的初期のものである。本文「四季文章」に「年始書状」から「賀大平文」までの120通と、「証文手形案文」として「年切奉公人請状」以下10通の証文類文例を収録した携帯用の用文章。本文を大字・五行・所々付訓で記す。前付に「書札法式大概」「封じ様上書高下」「廻状書様并口上書」「進物書付并目録」を掲げ、頭書に「言語部」以下17部の日用語集と、「百官名」「東百官」「家名部」「日本国尽」「人名頭」「世話字尽」「天象字」「地儀字」「時節字」「方角字」「色字」「薬種字」「篇冠構」「瀟湘八景」「近江八景」「書初詩歌」「七夕詩歌」「服忌令」「唐之以呂波」、さらに巻末に「月の異名字尽」「十干・十二支」を載せる。
●語彙科往来を多数収録した用文章で、それをコンパクトにまとめてあるのが特徴である。ハンディさと便利さを兼ね備えようと工夫した跡が窺われ、書名の「懐宝」「無尽蔵」に恥じない内容であろう。


NEW040 〈百家重宝〉四季用文章
[年代等] 山田賞月堂(東耕)書。江戸後期刊。[大阪]秋田屋市兵衛板。
[サイズ] 小本1冊。
[内容等] 「年頭披露状之文」から「歳暮に遣す状・同返事」までの57通を収録した用文章。文字通り、四季時候の手紙と年中行事や風物に関する手紙文例を集める。本文を大字・五行・所々付訓で記す。前付(目録)の頭書部分に「家名尽」「状封じ様名がきの事」「封状」「いろはの本字」「文房之四友」を載せ、巻末に「年中時候之詞(手紙の冒頭語=端作り)」を収録する。この巻末記事では、おおよその時候の言葉を掲げたものであって、その年の寒暖などの実情や、地方の気候などを考慮して適宜用いることを注記する。
●往来物には類似した書名が多く、本書もその例の一つ。古書店の目録に角書きの「百家重宝」の文字があったため、未見の往来物と判断して購入したところ、その通りであった。江戸末期に多くの往来物を書いた山田賞月堂の筆跡は特徴があるため区別がしやすい。