パズル感覚で古文書を繙く日々

  *石川佳子さん (福岡市・主婦、古文書愛好家)に伺いました(2004年2月)。
──石川さんからは時々くずし字のご質問を頂きますが、古文書を楽しみながら、また、ご熱心に勉強されている様子が伝わってきますが、そもそも、くずし字を勉強しようと思ったきっかけは何だったのですか?
[石川] 私は「源氏物語」が好きで、以前から、国宝の「源氏物語絵巻」に書いてある字が読めたらいいなと思っていました。少し仮名書道も習っていたのですが、6年前に始まった古文書講座と時間がダブってしまい、古文書の方が面白かったので、書道の方は挫折しちゃったんですね。
──というと、古文書を勉強し始めて6年、くずし字もその時からですか?
[石川] はい。とにかく、古文書の崩し字は、読めた時が嬉しくて、パズル感覚で楽しんでいます。
──分かります。読めないと、いつまでも魚の骨がノドに引っかかったようで、気持ち悪いですねよね…(笑)。それで、古文書に親しむようになれば、じきに江戸時代の和本など、原本に触れる機会もあったと思いますが、初めて見た時はどんな印象でしたか?
[石川] 最初に見せてもらったのは、古い土蔵から出てきた百科事典──これは表紙もなく書名は分かりません。全体に虫食いがひどくぼろぼろで、和紙が茶色になっていて、虫のフンかよごれが付いている状態で、ウヒャーという感じで逃げました。というのも、以前にある人から、古文書にはどんな虫や細菌が付いているか判らないので、充分に消毒しなくてはいけないと聞いていたからです。古文書が高価な物という以前に、怪しげで危険な物のように思っていました。
──すると、和本数千点も持っている私などは「危険人物」そのものですね(笑)。でも、今は違いますでしょう。

[石川]
ええ。今では、200年前の物がよくぞ残っていた、昔の人が大切に保管して下さったお陰で、このように楽しめるのだと感謝していますね。
──ところで、古文書サークルのお仲間との勉強は、どんな感じでなさっているのですか?
[石川] 市民センターの古文書講座に通っています。この講座は6年前に60人以上で始まったのですが、今は9人になってしまい、私は紅一点です。最高齢の方は89歳で、毎月第2・第4水曜日の夜6時半から8時半まで輪読しています。先生は元小学校の先生だった方に2年位習いました。その先生はご高齢なのでおやめになって、その後、素人だけで読んでいてやや心細い状態です。というわけで、必死になって図書館に通い、沢山の文献に当たりました。指導してくれる先生がいないのは苦しいですが、なんとか頑張っているという所です。
──ある方が、生涯学習のような「学び」には、「出会い」と「対話」が大切なポイントだと指摘していましたが、学ぼうという気持ちさえあれば、出会いも対話も生まれてくるような気がします。石川さんのなさっていることには、日々新たな発見があるんじゃないでしょうか?
[石川] そうですね。ただ、講座の方は、仲間が減っていって、これからどうなるのか判りませんが、今読んでいる「郡奉行仲計立」がもうすぐ終わりますので、その後は、福岡県前原市瑞梅寺の井上家文書の往来物と黒田家文書(福岡藩主の黒田家の子孫から福岡県立図書館に寄贈された古文書)の御用帳とを並行して読んでいくことになっています。解読した文献を本の形にまとめるかどうかは決まっていませんが、個人的には、安価にできる簡易な製本でもして図書館に寄贈し、地域の皆さんに、昔の寺子屋でどんな勉強をしていたのか、片田舎の子供たちの足跡を知って頂けたら良いなと思っています。
──自分の身近な地域の歴史を学ぶ機会は、学校でもそれほど多くないと思いますので、学ぼうとしない限り、なかなか知る機会に恵まれにくい面があると思いますが、活字で読めるようにして頂ければ、多くの方に知って頂く可能性も広がると思います。郷土史発掘といいますか、地域に貢献する文化活動ではないでしょうか。でも、まだ資料が残っているだけ良いですよ。私の住んでいる街では、そのような資料はほとんど残っていませんから。
[石川] 往来物倶楽部を知ったのは、瑞梅寺文書を一人で読んでいて、「弁慶状」の崩し字が読めず、その上ネズミにかじられて判読できずに困っていた時でした。図書館に行って他の古文書に「弁慶状」があって、マイクロフィルムをコピーしてきましたが、そちらの方がやや解りやすいと言うくらいで、読めずにお手上げ状態でした。インターネットで「弁慶」と検索して往来物倶楽部を知り、それが「古状揃」の中にあることがわかり、他の手習教訓書や今川状、義経状もあるので、すぐ解読の助けのために「古状揃」を購入しました。ほかのも折角だからと購入してみると、購入した「商売往来」と瑞梅寺文書の「商売通用」は全く同じ物だったので、「ラッキー!」と喜びました。
──ああ、そうだったんですか。お役に立てて何よりです。
[石川] 往来物倶楽部とは本当に良い出会いでした。私は初心者で、単なる主婦で古文書を楽しんでいるだけなので、読めない字を教えて頂けると助かります。時々、往来物倶楽部のメールニュースを読んでいますが、博識に感心してしまいます。遠くから応援していますので、どうぞ頑張ってくださいませ。往来物倶楽部のますますのご発展をお祈りいたします。
──最後にエールまで頂きまして、ありがとうございます。これからも往来物倶楽部をよろしくお願いします。

私も独学でくずし字を学びましたので、最初は参考書にまみれながら、必死に解読を試みたものです。特に漢文は、高校時代の若干の知識と、漢和辞典を何度も引きながら意味を解釈していかねばならず、解読が大変でしたが、逆に、そのような作業が本当に力になっているのだと思います。石川さんの読めない崩し字の質問には、時々手強いものもあり、今でも四苦八苦します。