ロケットの原理

ロケット推進原理

 その最も単純な形は、高圧ガスを閉じ込めた燃焼室である。燃焼室の一方の小さな開放口からガスが噴出して、その際に反対方向に推進する推力を発生させる。これの良い例はゴム風船ロケットである。風船内部の空気は、風船のゴムの縮もうとする力で圧縮されている。内部と外部の空気圧は押し返し合いながらつり合っている。噴出し口が開放されると、そこを通って空気は外へ噴出し、風船はその反対側へ推進される。
 ロケットについて考えるとき、あまり風船を思い出しはしない。人工衛星を周回軌道に運んだり、月や惑星に向かう宇宙船に注意が向けられる。しかし風船とロケットには強い類似がある。唯一の差は、圧力ガスを作り出す方法である。宇宙ロケットでは、固体燃料、液体燃料またはそれらの組み合わせによって作り出される。
 ひとつの興味深い事実は、ロケット開発の歴史の中で2000年以上も使用されながら、ロケットとロケットで動く装置がどうやって動くのかということを理解するための科学的な基準を持つのはつい最近の300年であるということである。
 科学としてのロケット活動は、偉大なるイギリスの科学者、Isaac Newton卿によって1687年に著された1冊の本によって始まった。彼の本(Philosophiae Naturalis Principia Mathematica)は、大自然の物理的原理について記述された。今日ニュートンのNewtonの業績はプリンキピアと呼ばれている。プリンキピアでNewtonは、地球や宇宙空間において物体の運動を支配する、重要な3つの基本科学法則を記述した。これらの原理(今日ニュートンの運動法則と呼ばれている)を知ってロケット技師たちは、サターンV型ロケットやスペースシャトルのような20世紀の巨大ロケットを創ることが出来たのである。以下に簡単にニュートンの運動法則を記述する。


1.静止した物体は静止し続ける。そして何らかの力が作用しない限り、直線運動する物体はその方向と速度を変えずに運動する。
2.力は、質量と加速度の積に等しい。
3.あらゆる作用に、反対方向で同じ大きさの反作用がある。


 後に説明するように、全三法則は如何に物が動くかのまったく簡素な文章である。しかしそれらをもってして、ロケットの運動を決定することができる。

ニュートンの第一法則

 この運動法則は単純明快な事実の文章である。しかしその本当の意味を理解するためには、静止、運動、そして不均衡な力という言葉の理解が必要である。静止と運動は互いに相反すると考えられる。その物体が周辺環境に対して位置を変化させていないとき、それは静止の対象となる。あなたが椅子に座っているとき、あなたは静止していると言える。しかしそれは相対的である。その椅子は、高速で飛行する航空機の座席のひとつかも知れない。ここで重要なことは、単に周辺環境に対して位置が変化しているかどうかということではないのである。静止ということが、運動していないという定義であれば、そういう状態は自然界に存在しない。あなたが自宅にいて椅子に座っていても、自転しながら太陽系軌道を公転している地球の表面にいるわけで、実際にはあなたは運動していることになる。太陽は銀河の中を回っているし、銀河自身も宇宙空間を運動している。あなたは座っている間にも、本当は秒速数百キロメートルの速度で旅行しているのである。
 運動もまた相対的である。宇宙での全ての物体は運動している。しかし第一法則ではそこでその運動は周辺環境に対して位置変化をしていることを意味する。ひとつのボールが地面に落ちていたら、それは静止している。それが転がっているならボールは運動している。転がるボールは、その周辺環境に対して位置を変化している。あなたが飛行機で椅子に座っているとき、あなたは静止しているが、立ち上がって通路を歩いているのなら、あなたは運動している。発射台に据えられたロケットは静止状態だが、点火された瞬間に運動状態に変わる。

 この法則を理解する上で重要な三つ目の言葉が、「不均衡な力」である。あなたの手の中にボールがあり、そのままそっとしているのなら、それは静止状態である。しかし保たれている間にも常にボールには力が働いている。ボールは重力によって下へ引っ張っぱられており、あなたの手がそれにつり合う力で上に押し上げている。ボールに働いている力はつり合っている。ボールを放すか、あなたの手を上に動かそうとすると、力は不均衡となる。そのときボールは静止から運動の状態に変わる。ロケットは飛行中、働く力は常に均衡・不均衡の状態である。発射台上のロケットでは均衡している。重力は下に引っ張っているし、発射台はロケットを上に押し上げている。エンジンに点火すると、ロケットの噴射は力のつり合いを不均衡にして、ロケットは上方に旅立つ。やがて燃料が燃え尽き、減速していって、その飛行の最高高度で停止して、地球に落下し始める。
 宇宙空間にある物体も、力の影響を受けている。太陽系を飛行している宇宙船は等速度運動である。働いている力が平衡していれば、宇宙船は直線上を旅行している。これは地球のような大きな重力をもつ惑星や月などから遠く離れているときの状態である。宇宙船が宇宙で大きな物体に近づくと、その物体の重力が力を不均衡にして、宇宙船の経路を曲げる。その出来事は特に地球の表面に平行な軌道にロケットで送り出された衛星に起こる。ロケットが十分に必要な速度を与えれば、宇宙船は地球周回軌道を回る。他のの不均衡な力(例えば軌道上の気体分子の摩擦や衝突、あるいはロケットの逆噴射)が宇宙船を減速しない限り、それは永遠に地球周回軌道を回り続ける。
 第一法則の重要な3つの言葉が理解されたなら、再びこの法則について語ろう。物体(例えばロケット)が静止させるためには、それは運動を起こしている不均衡な力を取り去ればよい。物体がすでに運動しているなら、不均衡な力を取り去って止めるか、方向を変えさせている不均衡な力を取り去って直線的にする。

ニュートンの第三法則

 しばし第二法則をスキップして、第三法則へ行くこととする。この法則は、あらゆる作用が、大きさが等しくて反対方向の、反作用を持つと述べている。これは岸にしっかり結ばれていない小舟から誰かが岸に飛び移ると、それが動く様子からもよく経験していることである。エンジンからガスを噴射すると、ロケットは発射台から離昇が可能となる。ロケットはガスを押し、ガスはロケットを押す。これはスケートボードに乗ることに似ている。スケートボードとそれに乗ったライダーが静止しているとする。ライダーがスケートボードから飛び降りる。第三法則でライダーの飛び降りは作用と呼ばれている。スケートボードはライダーが飛んだ方向と反対側に動き出して少し進むことでその作用に反応する。スケートボードの運動は、反作用と呼ばれている。ライダーの動いた距離とスケートボードが動いた距離を比べると、スケートボードがライダーの作用よりかなり大きな反作用を受けたように見えるだろう。これは事実ではない。スケートボードがライダーの飛んだ距離に比べて、かなり遠くまで移動した理由は、スケートボードがライダーに比べて質量が小さいということである。この考え方は第二法則をより詳しく説明する。


 ロケットにおいて、作用はエンジンから排気ガスが噴出することである。反作用は反対側へロケットが運動することである。ロケットが発射台から離昇するのを可能にするのは、作用、つまりエンジンの推力がロケットの重さより大きくなければならない。しかし宇宙では、小さい推力でもロケットの方向を変えることができる。
 ロケットについて最も一般的に起こる疑問は、なぜ押すための空気がない真空中で推力を発揮することができるかということである。この疑問への答えは、第三法則から得られる。もう一度スケートボードを思い出してみよう。地上において空気はライダーにもスケートボードにも関わり、運動を減速するように働く。空気中を物体が移動するときに働く空気の力を抗力と呼ぶ。周囲を取り巻く空気は、作用反作用を妨げになる。
 結果的にロケットは空気中より、真空中でより効率よく働く。排気ガスがロケットエンジンから勢いよく噴射するためには、邪魔になる空気を押しのけなければならない。これはロケットのエネルギーの一部を消費してしまう。宇宙空間では、排気ガスは自由に噴出することができる。

ニュートンの第二法則

 この運動法則は、基本的に数学的等式である。等式の3つの部分は、質量(m)、加速度(a)、力(f)である。記号を使うと次のように表すことが出来る。

(式:f=m・a)

代数学的に別の形に書き換えることができる。

(式:a=f/m)
(式:m=f/a)

最初の形の等式は、ニュートンの第二法則としてもっとも一般的に用いられる形である。それを読み取ると:力は、質量と加速度の積である。この法則を説明するために、古い大砲を例に用いる。大砲が点火されるとき、爆発は砲弾を開放端から推し出される。それは標的に向かって1〜2キロメートル飛ぶ。同時に大砲は1〜2メートル後方に後退する。これは作用と反作用のなせる業である(第三法則)。大砲と弾には同じ大きさの力がかかっている。大砲と弾に起こることは第二の法則によって決まっている。


式:f=m(大砲)×a(大砲)
式:f=m(砲弾)×a(砲弾)


はじめの等式は大砲、後の方は砲弾についてである。前式で質量は大砲そのもの、そして加速度は大砲の移動である。後式では、質量は砲弾、加速度は砲弾の運動である。力(黒色火薬の爆発力)はいっしょであるから、二つの式は次のように書き表せる。


式:m(大砲)×a(大砲)=m(砲弾)×a(砲弾)


等式の左右は同じだから、加速度は質量によって変化するということがわかる。言い換えると大砲は大きな質量と小さな加速度をもつ。砲弾は小さな質量と大きな加速度をもつ。
 この原理をロケットに当てはめてみよう。砲弾の質量をロケットの噴射するガスの質量に置き換えてみる。反対側に動く大砲の質量をロケットの質量に置き換えてみる。力はロケットエンジンの中で制御された爆発によって起こる圧力。圧力はガスを一方向に加速し、ロケットを反対方向に加速する。大砲と砲弾には起こらない、いくつかの興味深いことが起こる。大砲と砲弾では推力は瞬間的である。ロケットエンジンの推力は燃焼が続く限り継続する。さらにロケットの質量は飛行の間に変化する。その質量は全部品の合計である。ロケットの部品は、エンジン・推進薬タンク・ペイロード・操縦装置そして推進剤の合計である。もっとも重量を占める部品は推進剤である。しかしその総計は絶えずエンジン燃焼とともに変化していく。ロケットの質量は飛行中に減少していくことを意味している。等式の左右がつり合うためには、質量が減っていくのでロケットの加速度が大きくなっていかなければならないことになる。それははじめゆっくり動きだしたロケットが、上昇するにつれて宇宙に向かってどんどん速度をあげていく理由である。
 効率的なロケット設計のために、ニュートンの第二法則はとりわけ役立つ。ロケットが低軌道に乗るために、時速28,000キロメートルを超える速度が必要である。時速40,250キロメートル以上(脱出速度と呼ばれる)の速度は、ロケットが地球から離れて深宇宙に旅立つことを可能にする。宇宙航行速度を達成するためには、出来るだけ短時間に出来るだけ大きな作用力を発生させる必要がある。言い換えるとエンジンは大量の燃料を燃やして、出来るだけ速くエンジンから発生ガスを押し出さなければならない。これを実施する方法は、次章(実機ロケット)で述べる。
 ニュートンの運動力学第二法則は、以下のように述べることが出来る:より多くのロケット燃料の燃焼、より速い排気ガス噴射速度は、より大きいロケット推進力を発生させる。

ニュートンの運動法則をまとめる

 不均衡な力は、ロケットを発射台から離昇させたり、宇宙空間で宇宙船の速度や方向を変える(第一法則)。ロケットエンジンによって作り出される推力(力)の総計は、燃料の質量と噴射の速度をいかに速くできるかで決定される(第二法則)。ロケットの反作用または運動は、作用または推力と方向が反対で、その大きさが等しい(第三法則)。 

実際のロケット(パート2)

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