U-kiの読書日記(99/8/1～99/8/15)

U-kiの読書日記(99/8/1～99/8/15)

『星兎』（パロル舎）寮美千子、読了。 - 99/08/16 00:00:00
本日の調子: バックスバニーに負けたジョーダンなみ。

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＃８月１５日
蒼い兎、泣いているのよ～
寂しすぎて死んでしまうわ、早く、暖めて、欲・し・い～
と歌っていたノリピーももはや人妻で妊婦。(T_T)
あとは何年か前にＴＢＣか何かの宣伝で篠原ともえが「うさぎー」とか叫んでいたのを思い出す。
というわけでウサギである。「あたし月野うさぎ、中２」とかではないが、まぁ、そんなノリに近いかもしれない。
ええ、「今度はかわいい女の子の姿になって現れるよ」とかいってるので中性的ながらもウサギは女の子属性だと思っていたんだが。作者曰く「ホモセクシュアル小説」そ、そうなのか。(;_;)やおい的要素はあると思ってしまったんだが。まぁ、ウサギの性別がオスならホモになるんだろうけど、なんか納得いかねぇなぁ。
まぁ、ブレード・ランナー以来のテーマである。俺達は人間であることに安住しすぎて時々自分達が何者なのかわからなくなってしまう。それでいて不都合がないところが悲しいのだが、色々と失ってしまったものや見えなくなってしまったものを時々はつかみだして考えてやる必要があるのではないか。だからＳＦなんかでは時々人間そっくりな人間以外のモノを登場させて「人間とはなんぞや」をやらせたりするわけである。
今回も今まで俺が読んできたものとはタッチこそ違え、それをまたやっているんだなぁ、と思った。
またしても少年である。『ノスタルギガンテス』しか他の作品を読んでいないが、それの主人公とほとんど同じ少年が主人公のように見える。いや、母親の前でいい子を演じなければならない少年を用いて、誰かの前で自分を演じてしまう大人全般を批判しているのかもしれないが。裸の王様を指さして「裸だ！」といえないのが世の中である。それをぶちこわしてしまいたいのか、そうせざるをえないことを受け入れつつも悲しんでいるのかはちょっとわからない。少年という非常にか弱いモチーフを使っているから。
感情再生機、という考え方がある。最近の一部の「感動系ゲーム」と呼ばれるものや『ブギーポップ』なんかがそうだと思うんだけど、これらは一般向けではなく、あざといくらいに購入対象を把握、限定してその威力を振るっている。この作品も意図はないのだろうけど結果的にそうなってしまっている気がする。作者が誰のためでもなく、自分自身の感情をもっとも逆なでするように書かれた話。あるいは世界中のすべての人の心に突き刺さるようにと書いた話、それがこの『星兎』ではないだろうか。うむ、ターゲットの絞り方がその他の例に比べるととても曖昧なのだ。というわけで、この作品、気に入る人には素晴らしい威力を発揮することだろう。
切なさを炸裂させるためだけに創造された「星兎」という存在。彼がオスだかメスなのかはこの際どうでもいいのかもしれないが、俺としてはやはり運命的な恋の影、というふうに思いたい。やおい系の癒しだとか逃避の影だとは思いたくないしね。
美しく澄んだ空、きらめく砂、遠く響く波の音。夏祭の思い出。夜の遊園地。満点の星空。天の川。並べ立てられる夏の恋のモチーフ。最近、感動系ギャルゲーでこれでもかといわんばかりの冬の恋のモチーフをみせつけられているのでやけに対照的だったなぁ。
純真な少年も今をこの世界で生きていく限りは、いやがおうでも薄汚れた存在への変容をせまられてゆく。それが大人になるということだ。キレイなものを「綺麗だから」というだけでその価値を認められる、僕は僕だ、やりたいようにやる、行きたいところへ行く、生きたいように生きる。そういったことは子供だけに許された特権なんだろうか？大人だって、そんな自由で純粋な感覚と心を持って生きてもいいんじゃないか？『星兎は』そう我々に挑戦してくる。「いや、それはファンタシィの中でだけ許されるんだよ、現実の世界ではとても無理だよ」という答えがあちこちから聞こえてきそうである。ファンタシィの世界への逃避をいざなうのではなく、現実の世界でもそのような心で生きていこう、という決意のようなものが兎がただの等身大の兎であることや、ユーリの世界がどうしようもない現実の世界であることに映し出されているように見えた。
いや、そんな難しい理屈はいらないのかもしれない。今はもういない、アイツとの思い出を胸に音楽を奏でる、そんな切ない気分を再生するためだけにこの作品は存在するのかもしれないからだ。
思い出だけにすがって生きていくのもみっともない話だが、浸れる思い出もない人生っていうのも色も艶もない味気ないもんじゃないですか。だから夏はおててつないで海へ行こう。お祭りに行こう。花火を見よう！冬は寒さに震えながら抱き合って、空気の透明さを味わおう！とかそーゆーふうな啓蒙にこの本を使ってみたり。

間、間に挿入されるイラストが秀逸。

土砂降りコミケ＆帰ってきたスターウォーズ。 - 99/08/15 00:00:00
本日の調子: あらし、あーらし、大嵐～。あらし熱帯低気圧～

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＃８月１４日
今日のコミケは凄かったな。この十年でこんな日あったっけ？まるで「こみパ」の９月イベントのようであった。「オタクの熱気でいつも晴天」を覆すイベントだよな。というわけでまるで台風直撃か？！と思わせるくらいスゴイ風雨であった。
こぉーんな日に同人本を買いに行くのは間違ってるよな、濡れると本ふやけちゃうしー、とか思いながら行くか行くまいか迷っているうちに時間は過ぎていく。昼過ぎになるとだいぶ雨が落ち着いたように見えたので出かけることにする。といってもそれは落ち着いたように見えただけだったんだけどもさ。
で、東京駅のバスターミナルに行くとまるで機動歩兵のように次々とバスでコミケ会場から参加者が搬出されてくるところだった。おお、もういい時間だもんね。今から行こうって奴はいやしないよ、と思って運転手さんに聞くと乗ってもいいよ、とのことだったのでバスで会場に向かう。到着してみれば、なんだか嵐の真っ只中に置き去りにされたようなありさまで即ずぶ濡れ。逃げるように会場へ突入する。
んで、目的のブースを回るとどこもすでに撤収準備をしていたのだった。時計を見ればそりゃそうだよなって時間だった。本を売ってくださったかた、ご面倒かけてスミマセンでした。ってゆうか、もっと早起きしろ！＞俺。
今回は何といってもダサコン２架空書評勝負をネタに作られた高さんのところの『ハイッバーコップ不完全マニュアル』が収穫であった。ハイッバー本かと思ったら架空書評勝負全般について触れられている本で読んでいて楽しかったです。（ダサコンで少量委託販売するそうなので要チェックや！）
んで、次回申し込み用紙もＧＥＴしたところで西館の方へ自然と流れる。もー終了だなぁ、と思っていたら企業ブースは５時まで、というアナウンスが入ったのでゆっくり一回りしてきた。いつもは｢買う」のは後輩に頼んでいるのでここらへん見たことがないのだ。
スカパーやＷＯＷＯＷなどの衛星ＴＶがきっとアニメチャンネルを売りにしてブースを出しているのがスゲーなぁ、と思った。（職業的視点）あと少年マガジン編集部がマンガ原稿持ち込みＯＫ！とかでブース出してるのもスゲーと思った(^^;
団扇や紙袋といった個数限定のグッズを放出しきった後のＬＥＡＦのブースはもうすげーがらがらで、音楽ＣＤのみを陳列しているような状態だった。そこで念願の音楽ＣＤ「オレンジ」を購入。なんだ、こんなに余裕ジャン。いつも売り切れで買えなかったのにさ。あ、今日は「男性向け創作」の日じゃないから、日が良かったのかもしれんけど。んで、ついつい財布の紐が緩くなって「ＷＨＩＴＥＡＬＢＵＭ」の音楽ＣＤも買ってしまう。スマン、なんだかんだいって好きなんだよホワルバ。今は「Ｋａｎｏｎ」のＣＤしか聞いていないんだけどね。やはりデータ部分があるのでパソコンのＣＤプレイヤー以外で聞くために音楽用のＣＤはあったほうが良い。ＣＤＲ買って自分で焼けばいいのかもしれんけど。
で、「グッズ買う奴なんてアホだぜ」とか普段云っている俺だが、Ｋａｎｏｎハンカチを買ってしまいました。うう、絶対使えないじゃん。何を拭けというのだ、この柄のハンケチで！
うーむ、後輩も云っていたが企業ブースってファンと作り手の交流の場、というよりかは「限定品」とかゆーキーワードにめっちゃ弱いオタクの習性を利用して企業が荒稼ぎをするための場所にも見えんでもなかったですな。（この時間に来てもその影が見えるというところに問題がある気がする）
委託本のコーナーというのも初めて見た。なるほど、ここって一種オアシスじゃん！
というわけで、このひと気のなさに、比較的正しいコミケ鑑賞方法ではないか、とか思ってしまった。（やみつきになりそう）
いつもは帰りに水上バスを利用しているが、さすがに今日乗ったら吐くだろ、と思ったのだ。でも一杯利用者はいたのが不思議だった。んで、帰りはこんな時でもないと乗らないと思い「ゆりかもめ」を利用。高い。楽しくない。ま、静かでいいけど。

いつも通り無計画な俺はその足で有楽町に向かい、映画の時間を調べた。
今日見ておかないとダサコンで悲しい思いをするだろう、と思って『スター・ウォーズ　エピソード１　ファントム・メナス』を見る決意だったのだ。
お盆で一時的に東京の人口が減っているであろう＆レイトショーならばチビッコどもはいないであろうという計算だったが、俺がマリオンでぼーっとしている数分間に「ね、レイトショーやってるって！」というセリフをつぶやくカップルが５組くらいいたので「やめだ！レイトショーはやめだ！」と即決し、５００円高いけどその日の通常の最後のプログラムを見ることにする。やや、それでも丸まる２時間近く余裕があるぞ。
というわけで銀座のベッカーズで本でも読んで時間をつぶすことにする。
うれしかったのはそこがコーヒーおかわり自由になっていたこと。ベッカーズバーガーは好きなのでうれしいことこの上なし。今度からここで時間をつぶすことにしよう。んで、『星兎』を読む。ヒラノさんのトコでいつか「やおい」である、というような書き込みを見たのだが…そうか、こういうトコがかぁ、という気分になる。昨日まで『清水義範の作文教室』を読んで子供（児童）の心とかに深く触れていたこともあり、妙な連鎖感覚に浸る。
あっという間に時間が経ち、劇場へ行くともーすぐお席がなくなりますとか恐ろしいこといっているので並ぶ。
で、見る。

ありがとう、クワイ=ガン・ジン。
ダース・モール様を見に行ったつもりだったのだが、最近爺づいているためか、もうすっかり大人の魅力にもうメロメロ。ってゆうか、アナキンにすっかり魂抜かれてるところとかがやけにかわいかったりしました。しかもこいつ、『エクスカリバー』のガウェインじゃん！なるほど剣さばきが達者なわけだよ！
しかし、円弧を基本とする＜ジェダイ・アーツ＞の卑怯さにはしょっぱなっから魂抜かれっぱなし。ルークの時はここまで完璧に「レーザー返し」（いうなれば光学的「二指真空破」）使ってなかったもんな。しかも相手がニンゲンじゃないのでもー殺りまくりだし。（戦闘ロボット軍団相手のメタルダーのレーザーアームみたいなもんだね）
やっぱフォースは暗黒面に限りますな。俺、あんなヨーダ筆頭のヨレヨレした評議会なんて大嫌いだもん。しかも、多くの戦隊モノ同様、強い敵には多対１、というのも卑怯で許せん。俺は１０００年かけてリベンジを企むシスに加勢するね。ってゆうか、修行次第でダース・モール様なみになれるならもう即、入門！って感じですか。きっと帰ってくるさ、ダース・モール卿。サイボーグになってたりするとなお良し。（あ、それじゃベーダー卿と同じか）
それにしても、戦闘ドロイド軍団は俺の魂を熱くさせすぎ。俺ってば子供のころからこーゆー「顔のないデザインのロボット」ばっかり描いていたからねぇ。それがグンガン族との戦いのシーンで百万体展開されるシーンでは痙攣しっぱなしでしたよ。車輪型に変形する重攻撃型ドロイドはさらに輪をかけて好きです。巻来功士の「サムライ・Ｒ」風で良し。やっぱあれをライトサーベルだけでサシで倒してこそ漢だろっ！！
まぁ、卑怯だとはいえ、俺、これとポッドレースの逆転劇のシーンだけでオール許可にしちゃったよ。こいつがタイ・ファイターに乗ってきたらフツー勝てねぇよ。納得だよ（涙）
でも、アミダラの船の表面が鏡面処理なのは反則だと思うな、うん。
あと、冒頭の水中生物に襲われるシーンは聞いていなかったのでショックがでかかった。暗く深い水の底にああいう巨大な生き物がいて、っていうシーンは実は結構夢に見ると汗ぐっしょりものの苦手な恐怖のイメージだったりする。水族館ってそれの擬似体験コーナーなんだよね。深海魚のコーナーは半分お化け屋敷気分で見てたりするのだ。
というわけで思い付いたことだらだら書いたけど、やっぱ良くもなし、悪くもなしな映画としかいいようがありませんな。
この映画をとりまく環境が複雑すぎてこの映画単体での評価って絶対できなくなってるんだもの。
ただ、これが御都合主義だというのは間違いだよ。んなこといったらハリウッド映画全部そうだよ。これにはすべてフォースのせいである、という理屈付けがあることをミンナ忘れすぎ。都合じゃないよ、フォースのせいでうまくいってんの！！！
悪のフォースの都合が勝ってしまう時期ってのもやがて描かれるわけでしょ？やっぱ俺としてはそのへんが楽しみだよな。いかにしてアナキンがオビ=ワンから離反してダークサイドに走るのか。
あ、あとアミダラよりも絶対この侍女のオネーチャンの方がいいじゃん。アナキンくん、浮気しちゃえよ、とか見てる間中ずっと思っていた俺はやっぱ心がヨコシマ＆単純すぎマスカ？
映画見終わった後で雰囲気残っているというか、「なりきっちゃう症候群」に襲われ、傘を振り回したくて振り回したくてしょうがなくなる。（こーゆー気分にさせてくれる映画は久しぶりだったかも）ゲーセンでスターウォーズ・トリロジーをやってごまかそうとしたが時間も遅いので止めておいた。西荻にゲーセンがなくなっやのはけっこう痛い。で、高架下に来てようやく思い切り傘をブンブン振り回せてすっきりした。ああ、俺ってガマンのできない男…。
まぁ、スタンド映画としちゃ上出来でしょう。

次回予告で気になったのは６６６のシュワルツェネッガー映画と『エリザベス』かな。これ、ぜってー見たいッス。あ、あとは広末の『秘密』。ううう、なんか数秒だけでもこんなにイヤなんですけど…

『清水義範の作文教室』（ハヤカワ文庫ＪＡ）清水義範、読了。 - 99/08/14 00:00:00
本日の調子: ソクラテスに添削をお願いしたプラトンなみ。

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＃８月１３日
『日本語練習帳』を買って読んだ動機は、売れている話題の本がどういった内容なのかという興味もあったが、根本的には自分の書いているあるいは使っている日本語の中に間違いが潜んでいるのを知ってはいるが、それがいったいどの程度なのかを把握しておきたいという欲求からだった。
今回この本を買ったのも基本的には同じ意図からである。読んでみるまでこんな内容の本だとは思ってもみなかったんだよね。
で、まぁ、読んでみて予想以上に得るところが多かったのも事実だが、何よりも読んでいて楽しかったのである。子供たちの作文とそれに対するの東京先生の返事とが、第三者である俺から見てもとても楽しかったのである。
そうか、書きたいことを書くのだな。そして相手に気持ちを伝えるように書くのがいいのだな、多少の誤用やテクニック不足は御愛敬だよな、とかうなずきながら読み進んでいった。大人がそれじゃいかんだろ、という気もするが、良いではないか。俺はプロではないんだし、子供の作文に対するささいな注意事項でも自分にも適応すべきところがあれば嬉しいものなのだ。
最近読書日記がアップできないのは書きたい時と暇な時が不一致なためである。そのためにモバイルマシンを持ち歩いてはいるが、結構メンタルな作業なので暇があってもノリがないとねぇ、というところか。あと、インしたい気分かアウトしたい気分か、というのも非常に重要だ。
この本を読んで気が付いたのだが、非常に心が動かされて「ホット」な状態、誰か他の人に「聞いてくれ！」というような状態のことを書くのが良い作文を生むキホンなんだよね。今この読書日記には読んだ本については極力書くようにしているので、基本的に雑誌や続き物の続刊以外は九割がた書いているのだけど、良かったにしろ悪かったにしろ、印象が薄かったものについてはそれなりのヴォリュームでポイするとか、あるいは書かないというほうが良いのかもしれない、という気がしてきた。
だけど、枚数・字数の制限もないんだし、やっぱりその作品についてとその作品を読んで思った関連事項＝書きたいことは全部書きたいんだよね。まぁ、もともと質うんぬんではなく、自分の納得のいくものを目指しているから、やっぱやっつけでポイ、というわけにはいかんのよね。
とりあえず俺は子供が好きでこーゆー子供の書いた文章とか絵を見るのは大好きなんである。時々はっとさせられる、純粋なきらめきに満ちている。子供特有の毒みたいなものも見え隠れする。そーゆーのを見るのはとっても楽しいのだ。
というわけで、なんとなく手に取った本にしては俺にとってかなりアタリな本となった。山岡史朗くんの家族ネタ、清水美幸さんのとても小学校低学年とは思えないしっかりした文章、足立くんの創作など、どれを読んでもビックリシャックリドッキリさせられる。はたして自分がこの年の頃にはどんな文章を書いていたかな、とか思いを馳せる。（実はらくがき帳は小学校のころから取ってあるので見る気になれば見られるんだけどね）
「人間はあっという間に成長する」（byワムウ）
そうだ、どんな育成ゲームなんかよりもこうした現実の人間の子供の成長の度合いを知るのはとても楽しいことなのだ。俺も何の因果か今だにこうして文章を書いているわけだけど、数年前に比べて何か成長の証みたいなもんが見えるのだろうか、などと思ってみたり。
それにしても、こーゆー教室があったら是非子供を通わせたい。というか、俺も自分の作文を添削してもらいたいもんである。（創作のカルチャースクールにでも通えばいいのか…）

『ＣＯＯＬＤＯＷＮ』（電撃文庫）伊達将範、読了。 - 99/08/13 00:00:00
本日の調子: たしか「ＣＯＯＬ」って漫画もあったよな。光の速さで消えていったけド。

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＃８月１２日
なぜ主人公の名前が「鉄人」ではないのか不思議な作品だった。ってゆうか、主人公、『幕張』の塩田そのまんまです。いうなれば下ネタ抜きの塩田が主役の小説！
いやー、なんか緒方氏のイラスト付きだっつってもそれは別に作品内容や文章自身にはまったく関係ないわけで…、「電撃ｈｐ」でプロローグ読んで面白そうだな、と思って買ってはみたものの、導入部の文章のあまりの引きの弱さにずっと読み進むのに挫折していたのだった。やっぱ小説は書き始めが肝心ですな。そんなわけで後発のブギーの新刊に逃げちゃったわけだけど。やっぱ読みやすさとか引きが格段に違いますな。小説版東鳩はそこそこ読めるシロモノだったんであまり気にしなかったんだけど、やっぱ「東鳩である」という引きがなければ読むのがつらい文章なんだろうか、と思ってしまった。
うーん、はっきりいって期待外れというか。面白くなかったです。注目すべきポイントがないというか、読後に何も残らないというか。俺が小説技法がどうとか文章がどうとかいうのもおかしな話だが、この小説よりはまだ文章的に稚拙ながらも『月と貴女に花束を』の方がずっとよかった。たまにこうやって外れを引くとおいそれとＹＡ文庫も買えないなぁ、という気がしてくる。いや、今回は俺の嗅覚が間違っていたわけだけど。
マルチ話のノヴェライズがそこそこ読めるものだった＆電撃ｈｐのプロパガンダのうちかたがうまかったんだなぁ、という気もするし、緒方氏のイラストや魅力的なヒロインの設定をまるで生かせていない、ともいえるわけで。
なんつーかなぁ、みんなが見に行くハリウッド映画ばかり見ている人が書きたがる、というかおもしろがって書いている作品はこーなるのかな、みたいな感じだった。
派手なアクションシーンが続いていき、展開が早く、あっという間に読み進むんだけど、それってけっしてスピーディなんじゃないんだよね。作者の頭の中でだけシーンが浮かんでつなぎあわされているだけで、現実の出来事としてつながっていかないんだよね。イメージのカットバックを無理矢理文章でつないだ、みたいな。うん、ヴィジュアルなイメージ先行型のお安いお話の典型ですな。こーゆーのが嫌でＹＡ文庫から離れたんだよなぁ。
吸血鬼のテロリストに占拠された学園にたった一人で立ち向かうハメになった一匹狼のタフガイ、っつーところに絞り込めばいいんだけど、なぜそこに影を背負った美少女を無理矢理挿入して最後無理矢理くっつけて終わらすかなぁ？無理だよ、無理ありありの展開に追い討ちかけてるよ。
圧倒的に不利な立場から逆襲する主人公とか、人外の者を相手に奮闘する主人公、というのはもうハリウッド映画で見飽きてるし、そーゆーのって視覚的なのに視覚的に想像しにくい文章だし（俺が悪いのかな？）ブギーのようにココロに残るとか訴えかけるテーマ性みたいのなしのエンターテイメントにするには余りにも筆力が足りなすぎる、という感じの１冊でした。ヤング向けの小説ならその世代の心に訴えかけるテーマを打ち出すか、徹底的に軽く読めるエンターテイメント性を持っていなければ駄目だと思う。中途半端が一番イカンですな。

『ブギーポップ・ミッシング　ペパーミントの魔術師』（電撃文庫）上遠野浩平、読了。 - 99/08/11 00:00:00
本日の調子: アイスはバニラが王道だよ、byちはや。

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＃８月１０日
これを読んだ俺は、おもわずセブン・イレブンのジェラート・アイスを買う時、「チョコミントください」といってしまった。アイスは結構好物な俺であるが、子供の頃からチョコミントとかラム・レーズンとかの「甘くないアイス」というのはその存在自体が不可思議なものであった。んで、食ってみたが意外とうまかった。子供の頃と嗜好が違ってきているのは自覚があったが、うーむ、直に食ってみるまでは注文してちょっと損したかなぁ、なんて思っていたのだ。こーゆー後押しというかきっかけがないと自分の中の変化ですら気が付くこともないのか、なんて思ったりして。
もはや、「ブギーポップ」という作品世界、上遠野浩平の舞台装置の上で上演される物語にはこれ以上も望まないしこれ以下になったら離れていくのだろう、という一種の閉塞感がある。こうなってくると上遠野浩平はブギーポップの世界に「決着」をつける気があるのか、などという疑問に突き当たってしまう。
そして、ブギーポップの世界が基本的には時間的に固定されているとなると『イマジネーター』はもう少し読み込んでおかないと駄目かなぁ、という気はした。これが正当な続編であり「レギュラー・キャラ」もここを核に結晶しつつあるからだ。
何か否定的な書き出しに見えるけれども、これでも今回のブギーも本当に面白く読めたし、満足しているのだ。
「２０００年アニメ化決定！！」という文句も美しく、上遠野浩平の名を世に轟かす作品にはなったのだろうけど、やはりこの作品以外の作品で同等のクオリティのものを読んでみたいという欲求にかられる。いや、この作品がウケている間はこの作品で売って、食っていくのが作者の正しいやり方なのだろうが、こーゆー作品を書く人に俺はその場に留まって欲しくないのだ。
人の心の「痛み」というものを今回はモチーフにしている。だんだん中学生日記的なわかりやすさをもった御伽噺の様相を呈しているが、俺はこのシリーズはそれでいいと思っている。というかむしろその路線でガンガンいって欲しいとは思っている。
俺の常日頃の不満であったブギーの本体＝宮下藤花の魅力が満載（ってわけでもないが）なのも嬉しかったし、軌川十助と楠木玲のオセンチさ炸裂な関係も良し。そこへ入る古北園子の横槍もまた良し。物語に埋め込まれたテーマも良し。というわけで、ここのところ連発で出していて出がらしのお茶みたいなのを読まされるのかと思っていたのでこの予想外のクオリティにただ驚くばかりである。書ける時に書いた、という感じなのだろうか。勢いが感じられる。
ま、「真冬にアイスを食べる薄幸の美少女の話」とかを連想してしまう俺だが（苦笑）、相変わらず統和機構の怪人軍団も健在でよかったよかった、といったところか。こいつら本当に悪い奴って少ねぇよな（笑）しかし、スプーキー・Ｅがレギュラーとはねぇ。思ってもみなかったよ。
間違いなく今回の話は『歪曲王』よりは良かった。だけど、やっぱり所詮は＜ブギーポップ＞なんである。このシリーズを継続して読んでいる人以外には薦められないんである。というか、読んでもらっても威力は半減、つまり単品として評価できない作品になってしまっているのだ。そこがとても残念である。まぁ、続き物でないとはいえ、続き物みたいなもんだよね。とにかくこの路線でいくならはせいぜいファンをがっかりさせずに次を買わせる質を保っていてもらいたい。そう思うのみである。
オイラも生まれついての道化者である。だから道化の流す涙の話にはついつい入れ込んでしまうのだった。

『村井中尉の決心』（角川ミニ文庫）野崎透、読了。 - 99/08/09 00:00:00
本日の調子: ムラチューにムチュー！

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＃８月８日
西田センセー！！！（爆涙）
はもういいか。
ムラチューとピカチューどちらかを選べ、といわれれば間違いなくムラチューを選択する俺であり、ガサラキ女性陣の中でぜひお付き合いしたい女性といえばムラチュー以外なし、といった感じの俺である。かような本が出版されたとあれば買わねばなるまい。
というわけで探したんだけどなかなか角川ミニ文庫置いてあるところは少なくて入手にえらい苦労をしてしまった。
ことの起こりは、自衛隊で娘が戦闘ロボット軍団に組していることを田舎の家族がＴＶ報道で知るところから。んで、田舎の兄がムラチューこと村井中尉（２３歳）に「田舎に帰ってこい！そして見合いしてさっさと身を固めろ！兄は心配である」と説教たれることに始まる。いや、俺も田舎の兄だったら兄を差し置いて戦闘ロボ開発をしている妹なんぞには見合いでもしろ！って云うだろうなぁ。ってゆうか、見合い推奨。今時代は見合いだろ、って感じです。特にムラチュー以外のガサラキ女性陣（涙）。
で、その結果、「私、自衛官やっていていいのかしら、るるる～」と自己存在意義を見失ったムラチューが何を血迷ったか安宅大尉に相談しに行く、というのである。いや、誰がどう見ても鏑木大尉よりは安宅の方がマシ、と思うかもしれんけど、それにしたって「まて、ムラチュー！もっと自分を大切にしろ！」と叫びたくなるシチュエーションではないか。
で、意外なことに安宅さんは結構マトモな人なんだ、とわかるお話でもある。
で、ユウシロウ、美鈴はヘンな人だ、というのが分かり、特自のＴＡ部隊男子隊員は全員鏑木を恐れているという楽しい実体や全然ＴＶに映らなかった指揮車輌の運転手と砲手の存在に光が当てられてたりしてまさに「ガサラキファンのための小説」というのがヒシヒシと伝わってくる作りであった。
まぁ、問題のムラチューのゆれる乙女心とかは１０分の１くらいしか出てこないので比較的どーでもいい感じであり、敬愛する西田先生を失って苦悩する広川中佐とか馬鹿な部下のために帰宅が遅れて苦しむ愛妻家の速川さんとかの姿も見られるぞ、というのがウリだろうか。あとあいかわらず疲れているＴＡパイロットに強壮剤打ちすぎて鼻血出させた挙げ句に失神させるシーンとか、暴徒と化した一般民間人に情け容赦なく国家権力を行使するところとかガサラキ的な楽しみが満載であります。とにかく、この薄さ、この小ささながらも笑い所は多数あったのでとてもいい買い物をしたなぁ、というのが正直なところ。
いや、読んで思ったのは「俺ってこんなにガサラキが好きだったのかな？」ということ。
まぁ、ファンブックというか、アニメファンのためのノヴェライズというか、そーゆーのがＹＡ文庫の本棚の大半を占拠してるわけだけど、うーむ、確かに見知った世界観をこのよーに使い回されたお遊びというのは楽しいよなぁ、と思ってしまった。まぁ、簡単に云うとパロディ同人誌のノリなんだよね。しかも商業ベースで流通できるくらいの質が保たれたやつなわけで。派手な脱線こそないものの、おかげで正視に堪えるクオリティは保たれてるわけで、金払った分のお笑いというか楽しみは味わえてしまうのだった。
そうか、これはキャラクター商品なのだ。キャラクター文庫、とでもいえばいいんだろうか？
２００円では高いという向きもあろうが、用途不明なキャラクターグッズの一種だと思えばなんとなく納得である。今はガチャポンだって２００円以上する時代だしね。何より、コピーの同人誌よりはキチンと製本されている分、クオリティ的には上なわけで。まぁ、俺としてはそれなりに納得の価格ではあります。ガサラキ好きにはオススメ。

『カニスの血を嗣ぐ』（講談社ノヴェルズ）浅暮三文、読了。 - 99/08/08 00:00:00
本日の調子: ブラック・カレーでいい気になった鼻田香作なみ。

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＃８月７日
ス、スタンド小説！！！
この作品、特筆すべきは帯で山田正紀氏も絶賛の、完璧なまでに構築される主人公、阿川が捉える嗅覚の世界である。
見えない未知の感覚を視覚化して表現する。これってスタンドの発想じゃん！
広告業界で頂点を極める寸前で体を壊し、さらに事故で片目を失った男、阿川は失ったものの代償として異常な嗅覚を手に入れる。ある日彼は死んだ犬の匂いを、バーで会った女に嗅いだ。そして一夜を共にしたあと、女は死んだ。死の匂いをたどれば、それは１年前に自殺した親友の死へとつながっていった。匂いは阿川を真実へと導き、真実に近づくことは阿川の身に危険な匂いを運んでくることになるのだった。
というわけで主人公のスタンド能力が「匂い」だとわかってからは、この「ヴィジュアル化された匂いの世界」の描写にズブズブとのめり込んでしまった。
俺の中では阿川は、何故かアイパッチをつけた「ニューヨーク１９９７」のカート・ラッセルのような姿しか思い浮かばなかったッス。阿川のような男が主人公だとこれは「ハードボイルド」ってことになるんだろうか？俺はハードボイルドってあんまし読まないけど、庇護する対象が野良犬だったり、武器が「匂い」だったりしてもそれなりにカッコイイので許されるんだろうか、と思ってみたり。
牧野修の匂い小説が発表されているがそちらを読んでいないので、俺が受ける「匂い」小説のカルチャーショックであった。イントロからしてバッチリ。読者は未体験の視覚化された嗅覚の世界へ文章によっていざなわれるのだ。これってかなり凄いことかもしれない。
そして押井守監督なみの「犬」の世界。野良犬の感覚。ここらへんは俺の感性にバッチリ食い込んできて眠いのになかなか寝させてくれなかったりしたんだけどね。読み方によっては犬の仇を討つという、『老人と犬』な感じのリベンジモノに見えなくもないし。
もう少し、もう少し、という感じでノンストップで読めたのは浅暮氏の筆力の賜物だと思われる。広告業界のあたりの描写の緻密さもおそらくは「お得意の分野」なのだな、と思わせる。飲み屋のシーンなんかはあまりにもバッチリすぎで「取材に行ったのかなー？」とか邪推してみたり(^^;
惜しむらくは、ストーリーの展開の引きが弱いこと。
事件があまり事件に見えないし、阿川の行動も、マイコの行動も、野崎の行動もイマイチ動機が弱い。希薄なストーリーを無理矢理走らせるための苦労が随所に見えてしまっているのもつらいところ。二人のマイコの謎なんかはもう少しうまく引張れたような気もするが、阿川と野崎の視点をわざとずらして無理矢理撹乱をはかっているように見えてしまうのがとても嫌だったですな。俺は「新本格」的小説を読んでいない人なのでイマイチわからないんだけれども、こーゆー歪んだ人格形成がもとで生れる異常な犯罪心理みたいのが流行りなんでしょうかね？物語を進めるにはあまり納得のいかない人格だったし、異常の度合いもおとなしすぎたように思える。ストーリーの骨格としては弱すぎるのだ。
最後の「仕掛け」に向けて話が進んでいくんだけれども、その仕掛けも見え見えなのでもう一つ驚きというか工夫が欲しかったところ。予想通りに進んでくれて嬉しいというのはあるんだけれども、そういう箇所と適度な裏切りのアクセントがないと読んでいて飽きがきてしまうわけで。
過酷な生存競争を強いられる、阿川の仕事の世界。そこで頂点を極めそこない、失墜し、何もかもを失い、隻眼になり、今は裏の世界で嗅覚を武器に生きる男。というともすると俺的に１００点満点な設定の男を主役に据えているにもかかわらず、その設定が充分に生かされる物語が与えられていない。もう少し阿川という男の破滅と再生というような話をうまく描いてくれればよかったのに、と思ってしまう。
カニス＝犬のメタファーとピノキオの寓話。ここらへんのモチーフも大好きなんだけど、イマイチうまく料理されていなかったのも残念だ。
ミステリ的な仕掛けの具合といい、聴覚を文字で表現しようとしていたことといい、××ネタを抜いた『オルガニスト』と似たテイストかもしれない。と、俺には感じられた。もっともテーマに据えているものがまったく違うというのはわかってはいるんだけれども。（ここらへん、読んでいない人にはわかってもらえないだろうが）
何かめずらしく悪口ばかり並べ立ててしまったけれども、それはこの作品が面白かったからである。もう一息、あと一つ足りない、もう一歩踏み込んでくれれば、そういった物足りなさがこれだけ文句をつぶやかせるのである。
作者の場面場面の描写能力やキャラクタの作り方（るるぶ片手に東京へ来てしまう半可通グルメな刑事のところとか）は前作『ダブ(エ)ストン街道』でももう充分に発揮されていたので今度はストーリー的に読ませるもの、ストーリー自身に動きというかギミックがあるもの、というかもっとトリッキーな味わいがあるものを次回作に期待したい。

『グミ・チョコレート・パイン　グミ編』（角川文庫）大槻ケンヂ、再読。 - 99/08/06 00:00:00
本日の調子: あまりに実在すぎて何も言えない内田くン＝カワボン？なみ。

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＃８月５日

五千四百七十八回。
これは大橋賢三が生れてから十七年間に行った、ある行為の数である。
ある行為とは、俗にマスターベーション、訳すなら自慰、つまりはオナニーのことである。
いきなりこの出だしである。結構インパクトあるので書評というか、本の紹介のコーナーなんかでも結構引用されていた記憶があるが。
なんでも一日３回を５年間だとこの数字になるそうで、数字に弱い俺としてはいまいち多すぎるように思えるのだが、「すました顔してる彼氏も一瞬遠い目をするはずだ。一日３回だったあの日々を思い出して」というわけで、いくらリビドー全開でも３回を毎日はきついよなぁ、という自覚はあるらしい（笑）
というわけで、小谷野氏には是非読んでいただきたいのがこの本である。無論、俺はひょんなことから月刊カドカワ連載を知り、単行本は出てすぐに買った。江口寿史をカヴァに使うなんて豪気やなぁ、とも思った。好評だった江口の表紙は文庫版でも健在である。
これを読んだのは結果的に俺的一大革命期間その１となった入社１年目の夏だった気がする。ああ、あの頃の僕はカルアミルク飲みながら赤くなって舞い上がっていたよねぇ。（by岡村靖幸）あの頃は今みたいなインチキな読み方じゃなく、もっと一作一作をじっくりたっぷりねぶるように味わって読んでいたよなぁ。そんな記憶を思い出させるこの作品である。あの頃はまだ筋少のライブも山本正之のライブも行っていたのにねぇ。いや、俺も色々変わったさ。
これは本人も書いているが、間違いなく大槻ケンヂ本人の自伝である。
日本アングラ・ロック史の中に身を置いてきた作者の視点で描かれるイカ天以後めずらしくなくなってしまった日本のロックバンドの黎明期の姿というのもかなり貴重なのではないかと思う。その他のエッセイや著作でほとんど「オーケンの実態」というのを把握しているだけにこのフィクションは泣ける。ここからここまでがフィクションでここはノンフィクションというのが見えるからだ。こーゆー読み方は渡辺淳一先生の時に始めたんだけど、やっぱ一番面白いのは姫野とオーケンである。やっぱねー、こーゆー自分を惜しみなく切り売りしてる連中の存在こそが貴重だよ！
とにかく「何かせねば」と「俺は周りの連中とは違う」この思いだけでケンゾーは生きている。そして出来ることはといえば、食事を削って一本でも多くの映画を見ることと「本命をオカズにはしない自慰」だけである。何もできない自分に腹が立ち、自己嫌悪し、それでいながらも安穏としている周囲に敵愾心を燃やす。そうだ、まったくその通り、俺の過去そのものではないか。
結局、続編の「チョコレート編」になってもケンゾーを取り巻く状況はあまり変わることがない。この巻では実際にモデルが存在すると思われるケンゾー、カワボン、タクオのほかにおそらくオオケンのダークサイドを具現化した、ケンゾーと対になりまた影にもなる山之上という人物が登場する。で、同根であるケンゾーは山之上のキャラに作中でしだいに食われていくことになり、ますます葛藤することになる。んが、この巻ではそこまでいっていない。
今回の目玉はなんといっても「ポルノ映画を見に行く」エピソードである（笑）。
実は俺もここに引っ越してきたとき、まず最初にやったのがそれであった（苦笑）。だってーその前の年に研修で荻窪に来ていたときはまだ下半身にリミッターが付いていたんだもん。それが２３才の時だったから作者が描く青春群像に対して強いシンクロニシティを感じても俺はおそらく５年以上遅れてそれを実践していったことになる。勤めだして、ようやく経済的にも親から自立できて初めて俺の本当の青春は始まったのかもしれない。高校生がやって喜んでいるようなことを俺はようやくその頃追いかけて大急ぎで消化しようとしていたのだった。
フールズメイトに「ロックバンド仲間募集」の記事をだし、紆余曲折を経てそれを結成できそうなところまでがこの巻の話である。
それとケンゾーが密かに恋焦がれる少女、ミカコとの急接近＆彼女が大林森監督（ノブちゃんです）の監督する映画のヒロインに抜擢されるところで終わる。実際に彼女に相当するモデルが存在したかどうかはオーケンウォッチャーの俺にもよくわからんが、とにかく「自分を置き去りにして羽化してしまったような少女」というのは俺の大好きなモチーフであり、やはりドラマとしての必要性から彼女を登場させているのだと俺は思う。エッセイやロックの歌詞の中で好き放題な主張をぶちまけているオーケンだが、「人生って、生きることってあのジャンケンのグミ・チョコ遊びだと思うの」なんてーセリフはこういうオンナノコのキャラに口にしてもらいたいものなのだ。
とにかく、自分の鬱積した高校時代の残像を見るような、そんな思いすら感じさせる一冊である。ひたすら周りの連中と隔絶し、高みを目指しながらもその方法がわからない、そんなケンゾーの姿はまったくかつての俺そのものだ。
（オーケンはエッセイでもこの作品の中でも「教室には大きく二つの勢力がある」として、同じ会話に夢中で同じように行動したがる無能な「普通の連中」とアニメの用語をブツブツとつぶやいている「おたくな連中」とに分けているけれども、オタクにだってミーハーやマニアやそのどちらにも属さないケンゾーのようなタイプもいるのでちょっと賛成はできないよな、とオタクでありながらもケンゾーにシンクロしている俺は思ったり）
結局、ケンゾー＝実際のオーケンはロックバンドを結成し、詩を書き、歌い、本を出し、メディアに露出し、「他人とは違う何か」にはなれたんだけど、それが望んでいた姿かというのことについては疑問を残したままであることは彼の書いた各種エッセイに記されている。「オンナノコにモテたいから」という不純な動機でロックバンドをやり始めて、実際にモテるようになったわけだが、彼は依然として不幸で、悩み多き青年である。その悩める心の産物はやはり同じように悩んでいる多くの若者によって支持され、俺自身もその恩恵を受けている。だからオーケンよ、すまないがもう少し悩み続けてくれ、と俺は願わずにいられない。
そして、嘘と妥協に満ちたいいかげんな完結編を書くくらいなら、悩みが吹っ切れるその領域に達するまでは未完のままでもいいじゃないか、と俺は思うのだった。
まもなく続編の「チョコ編」も文庫になるそうだが、問題の「パイン編」はまだ出版されていないんである。というわけでまだ文庫版を買うのは早いかなぁ、と思ったんだが、この冒頭の部分を紹介しようと思って買ってしまった。しかも、軽く流すつもりだったのがきっちり最後まで読んでしまったし（苦笑）
あれ、あのシーンが見当たらないな、というのがいくつかあったんだけど、どうやらそれは続編の「チョコ編」の中の描写らしい。「グミ編」と「チョコ編」は非常に見事につながっており、ってゆうか完全にチョコ編はグミ編の延長であり、グミ編＝「起承」チョコ編＝「承転」という感じがしていて、「転結」が本当にくるのか？やる気があるのか？それってオーケンの今につながっちゃうので結局死ぬか引退するまで書けないじゃん！（あ、死んだら書けねぇか）とか思ったりしていたんだが、今はただ待つのみ、である。急がなくていいから良い話書いてよね、というその気持ちだけである。
とにかく、これは俺がやりたいと思っていたことの一つである。自分の鬱積し、屈折していたモンモンとした青春の日々を包み隠さず公開し、「どうだ、お前だけじゃないんだぜ？」と自分より若いモンモン野郎に提示してやる、というのは。というわけでこれを読んだ時、猛烈に支持すると共にエヴァを見た時の『ＥＤＥＮ』の遠藤浩輝のように「俺がやろうとしていたことをもうやられちゃったので、俺はもういいや」的な気分にもさせられたりしたのだった。とりあえずは自分以外の人がこれを読んでどう感じるか、というのを聞いてみたいところである。

ところで、俺のところではグーは「グリコ」、パーは「パイナップル」だったりしたんだけれども皆さんのところはどうだっただろうか？

「ゲームセンター・あらし幻の第一話」（ほん・まるしぇ）すがやみつる、読む。 - 99/08/05 00:00:00
本日の調子: やっぱり衝撃は「日本で一番偉い人」とのギャラクシアン（笑）

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＃８月４日
 「ほん・まるしぇプロジェクト」というのがあるらしい。丁度一月くらい前に偶然 NIFTY のトップページで『ゲームセンターあらし幻の第一話』というのを見かけて迷わずダウンロードしておいたのだが、会社で印刷するのもなんだなあ、と思ってすっかり１ヶ月ほど放置してしまったのだ。
で、再度リファレンスしようと思ったら、ニフティのトップページからはたぐれないではないか？！てっきり NIFTY のオンラインショッピングの書籍のコーナーにあるとばかり思っていたのだがないのである。 NIFTY FINDER でも引っかからないし、どーゆーこっちゃ？んで、ネスケのキャッシュからたぐるという非常手段にてダウンロードサービスである「ほん・まるしぇ」にたどり着いた。
その活動宣言は勇ましいのだが、やっぱりこのサービスがいかなるものなのか、正体ははっきりしなかったりする。ここに作品を上げてる作家連中有志によるオンライン出版の試み、のようなものなんだろうか。とりあえず正体はわからんが、こんな面白いもんを埋もれさせておくわけにもいかんので発掘してみた、というわけだ。
「ゲームセンター・あらし幻の第一話」。うーむ、これは小学生の時から気になっていたことなんだよね。コロコロコミックの「ゲームセンター・あらし　必殺技特集」とかいう時に「幻の第一話にて使用」なんてーのが出てきてさ。『ブロック崩し』の話で悟と戦うっつーのは知っていたんだが、いつまでたってもコミックスに収録されないのはなぜなんだろうなぁ、と不思議に思っていたのだ。あまりに「ゲームセンターあらし」っぽくないからかなぁ、などと思っていたのだが。出版社が原稿を紛失してしまったためにコミックスに収録されることのなかったそうである。その幻の第１話を作者自らがゲラをスキャニングしての発表ということで結構ショックキングな形態で発表されているわけだ。（ここらへんの事情は作家名のリンクからたぐれます）
うーん、話そのものよりもこれがインターネットで金払ってダウンロードして見られる、という事実の方が驚きと感動があるよな。
ということで興味のある人は「ほん・まるしぇ」に飛んでみることをオススメする。

『みんないってしまう』（角川文庫）山本文緒、読了。 - 99/08/04 00:00:00
本日の調子: 騎士においてけぼりにされたファティマなみ。

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＃８月３日
卑怯だよ、山本文緒！
くぅぅ、なんか読後しばらくあの人のエピソードやこの人のエピソードが信号待ちしてるときなんかにぐるぐる脳裏に渦巻いちゃってもー、全然駄目って感じですな。
オセンチ過ぎる。ってゆうか、残酷なまでにサンチマンタリスム、って感じDeath。
喪失感、というのがある。
一時期それにずいぶんと苦しめられたことがある。
諸行無常。もうこれは仏門に入るしかないのか？といわんばかりだったのである。
不思議と日々の生活というものに追われるとそれを感じることは少なくなる。だが、トコロテン式に毎日を押し流していて、ふと、それを止める瞬間がある。その時、時間の流れに押し出していってしまったもの、大切だと思っていたのに掌から零れていってしまったものがいかに多いかに愕然とするのだ。
ここに出てくる人たちの孤独とか絶望とか危機感というのは、また失ってしまったものとか欠けているものとかは結構キッツイものがあるが、ある部分では今都会に生きている俺とかにも共通して存在しているモノでもある。
ただね、こーやって物語りになっちゃうほどの話だったら、それはそれでイイんだと思うけど、俺なんかが抱えてるモノって、やっぱし「中途半端」なんだよね。ドラマじゃねぇっつーか。こーゆー話って何気ない日常や何気ない人たちを描いているようで、やっぱり作品として折り取られちゃうくらいの悲劇性を持っているわけで。じゃぁ、ドラマにもならない中途半端に腐れた日常を引きずっている僕らは、私たちは、どうしたらいいの、というのがここ最近の俺の悩みだったりするんだけど。まぁ、そんな悩みも日常が洪水のように押し寄せてくれていればその処理で忘れていられるんだけどね。
日常が抱える慢性的な悩み、というのは日常が続いている限り忘れられている＝悩まないからいいんだけどね、過去というのは忘れなれないからよりキッツイものがある。表題作はまぁ小説ならではのあっと驚く仕掛けがなされているんだけどそれ自体はまぁ、あれとかあれでもやられていて珍しくない。だが、この作品が持つ喪失感──性格には主人公が持ち得た喪失感をもう十年も前から引きずっていた俺はやっぱ特殊なんだろうな、とか思ったりする。さすがに「忘れる」スキルも付いてきたから今はそれほどでもなくなったけどね。やっぱり以前俺の最大の敵は「時間」だったもんね。今はそれが救ってくれるものの方が多かったり。
やっぱりハッピーになるためには、人間もっとあがかないと駄目ってことですな。不幸になったからって誰かが作品化してくれるわけじゃねぇし、誰かの書いた作品に同調してシクシクしてるだけってわけにもいかねぇからな。
「お友達募集」の話と「テレクラで浮気」の話が個人的に痛かったです。痛すぎ。
「古いネルシャツ」の話と「柚さんの話」は他人事として痛い話。
「デブのおじさんと痩せたウエイトレスさん」の話は……せつなさ炸裂！！！あぁぁ、炸裂ですぅー。すみません、こーゆーの俺の原子力心臓にピンポイント爆撃って感じです。
いやぁ、これも月刊カドカワに連載されていたのか…あなどりがたし月刊カドカワ！
『絶対泣かない』とかも絶対泣きそうだよ…恐いよ…。
あああぁあぁああぁぁぁ……こりゃ『恋愛中毒』も読まなきゃ駄目デスカ？

「虐待者たち」（講談社文庫『ピュタゴラスの旅』収録）酒見賢一、読む。 - 99/08/03 00:00:00
本日の調子: キャプテン・ワオは素敵なコーチさ！

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＃８月２日
夏の読書『オセンチ＆リベンジ・フェア’９９』第３弾！
さて、犬の次は猫のためにリベンジするお話だ。短編なんだけど、これがまたリベンジ＆オセンチにぴったり！
私は怒りに視界が揺らぐほどだった。あの気高く美しかった猫のミヤにこんなむごい仕打ちをしたのはいったいどこの誰なのか。連中は複数でよってたかっておもしろ半分にミヤにありとあらゆる残酷行為を加え、苦しむ様を見て笑っていたに違いないのだ。
「復讐してやる」
猫を思っての復讐を決意したとき、私は現実を踏み越えて幻想の世界に半ば入っていたのかもしれない。
上司に復讐の旨を告げると、笑われるどころか、病欠扱いで休暇をくれると言い出した。家に帰って喧嘩覚悟で妻の洋子に打ち明けると怒るどころか喜んで賛成してくれた。娘の理恵子にいたっては「おとうさん、いつあいつらに復讐してくれるの？」という始末である。上司の紹介の探偵屋には鼻で笑われてしまったが、そこで知り合った「所長」さんの協力をとりつけ、さらにはその知り合いの「猫婆」（この人の職業が『猫計り』）に引き合わされる。
というお話。ああ、短編だからあんまり書くと全部書くことになっちゃうよ。
しかし、猫婆に「復讐する、といっておるが、いったいどうするつもりなんだい？」と聞かれた主人公、「そうだ、『復讐』だけを思ってきたが具体的にどうしたいんだ俺は？」って、お前は『虎よ、虎よ！』のガリー・フォイルかッ？！（爆笑）
そして、犯人を調べるうちに猫を惨殺されて生きる気力を失ってしまった老婆が出てくるんだけれども、「じいさんも怨んでおった。かたきをとっておくれ」とかいって渡されるのがまたしても銃剣（モノホン）！
戦争行った連中はリベンジ用に銃剣装備してるってコトデスカ？！
あぁぁああぁあ……なんだか、お年寄りを見る目が変わってしまいそうな今日この頃。
なんといっても酔っぱらった所長さんのこの一言で決まりでしょう。
「仇討ちというのは日本の最高最後のロマンであって、現代のメルヘンの極致に違いないのだ」
そうだよ。メルヒェンなんだよ。というわけで、皆さんこの話も読みましょう。
って、この短編集も薄いんだから、全部読んじゃえばいいのにね（苦笑）

『こころの情報学』（ちくま新書）西垣通、読了。 - 99/08/02 00:00:00
本日の調子: フライトシミュレータで実験中のオリバー君なみ。

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＃８月１日
理系と文系の隙間を埋めるべく活躍する西垣センセの新刊である。
『ペシミスティック・サイボーグ』や黒崎政男氏の『となりのアンドロイド』の引用がちょこっとあるとはいっても本書が語る内容というのは今までの「普遍言語により思考する機械」なんかの話とは全然違って、「情報」とはなんぞや、ということについて語られている本で、なんか期待してた内容と大幅に違う内容だったんである。
最初のうちは例によって例のごとくな導入でてっきりいつもと同じような感覚で「人の心」を情報学的に分析してしまおう、そしてどうやって人工知能ＡＩ＝機械（コンピューター）で構築しようというのか、という展開になるのかと思っていたのだが……。なんと本書では「情報学」というものの定義から始まり、「情報」とはいったいなんぞや、実は我々が情報、情報、といっている言葉の定義はしごく曖昧ではなかったか、という指摘から始まる。
そして西垣先生は情報には２通りの捕らえ方がある。確率的に発生率の均一な事象のうち何が起こったかを数量的に表わす＜機械情報＞と意味内容を量的に表わす＜生命情報＞とがあるというのだ。そして人工知能の構築がことごとく失敗したのは、意味的な情報を機械情報を表わす手法でアプローチしたからに他ならないというのだ。
人間の心とはオートポイエーティックな情報系であるという。内部で閉じた時間的累積の中に意味を見出す自己創出的な構造であると。それを外部観測による演繹的な情報構造で表現しようとするから人工知能の開発は失敗しているのだという。
ではオートポイエーティックな情報系である「人の心」を分析して再現するにはどうしたらいいのだろうか？
西垣先生はいつもどおり（苦笑）チューリング・マシンやフレーム問題などを引き合いにだして機械の心をひとしきり説明した後、人間は動物から進化したのだとし、人の心を理解するにはその前段階である動物の心を理解するところから始めよう、と言葉を理解する動物の話へ移っていく。
言葉を理解する動物の心（それを心、と呼ぶのならばだが）をひとしきり解説し終わったところで人間の心について説明をしてゆく。
ロジャー・ペンローズの『皇帝の新しい心』を読んだとき、難解ながらも人間の心を科学的に分析し、解説しようとするアプローチの斬新さにえらく心酔した記憶があるが、西垣先生の心＝情報であり、その関係を明確にしていくことで「心」と「情報」の双方の性質を明確にしてくというアプローチも重厚さからいけばペンローズのそれとは比較にならないまでも非常にあっと驚く展開といえるのではないか、と思った。
「オートポイエーシス理論」という言葉も確か俺が大学在学中から使われていて、それについてのみ語られた本も出ているので興味があって詳しく知りたい方は調べてみることをオススメする。まぁ、生物が生物らしくあるためにそなえている恒常性みたいなもの───自己創出性とか自己回帰性と呼ばれるもののことで遺伝的なのかどうかわからないけど、我々が生まれてから学習する行動のうちで、人にいわれたからでもないのに自然と備わっている部分というのがあるような気がするのだが、（狼に育てられた少女がまったく狼同様にしか育たなかったという話もあるが）脳の神経系も遺伝的に形成されるのではないか、とかまたそれ専門の人からしたら怒られそうなことを思い付いたので一応書いておく。
「アフォーダンス理論」というのは始めてきいたのだが、ようするに周囲の環境が対象に提供するもの、の射程について論じることのようで、例えばボールペンは我々に書くことを「アフォード」するが、アリにとっては（我々にとって床がそうであるように）支えることを「アフォード」する、というような考え方のようである。
西垣先生はオートポイエーシス理論とアフォーダンス理論が各々、動物の認知行動の時間的側面と空間的側面に着目したものとしてお互いが補完しあうのだと説明する。
オートポイエーシス理論においては動物は客観的実在としての対象を「発見（知覚）する」のではなく、自らの神経系の内部構造に基づいて対象の意味を「発明（構成）する」と説明される、というのを聞かされるとなるほど、外部環境からの影響を学習させていく方法では「心」が発生しない、という指摘はなかなか説得力がある。すでに出来上がった神経系に方向付けをしていくことはできても、外部からの刺激で神経系の内部ルールまでは構築できない、そのルールとは人類が種として築いてきた先入観的認識力による意味付けだから、というわけである。これは一種、学習型の人工知能に対する死刑宣告であるが、また同時に心＝情報という観点から開発手法を見直せ、という叱咤激励でもある。人工知能は心を持たない機械的な情報処理の支援＝翻訳であるとか知識エキスパートシステムとかにしか向かないというお言葉まで飛び出す始末である。うーむ、なんか人工知能崇拝者としてはなんとも複雑な心境である。まぁ、「エキスパートシステム」なんかも実際使えるレベルのものは完成しなかったわけで、翻訳なんかも文脈から複数ある単語の意味のうちで最適なものを選ぶという動作は人間に選択肢を見せて選ばせる、という段階から進化しておらず、どんなに高速な処理ができるコンピュータがでてきてもその動きは不可能なのか、という悲しい予感が強まってくる。
そして「人の心」を西垣先生は最後、「機械の心を作ろうとする動物の心」だと解説する。ここらへんの筋の通し方はいつも通りなので、俺が変にかいつまんでしまうよりはサクっとホンモノを読んでもらいたいところではある。
しまいにはオートポイエーシス理論に従い、人が普遍言語を操るようになり、アフォーダンス射程から外れることによって＜リアル＞と＜ヴァーチャル＞の区別がなくなってくる。「複雑な文法をそなえたヒトの言語はおそらくフィクションから生まれた」という非情にユニークながらも思わず納得させられてしまう説まで飛び出してくる。巫女などによって語られる神聖な神話などの「虚構」が重要な意味を持っていた古代、語を並べるだけの原始的な言語でも認識されるのが狭い空間に限定した時、例えば泣いている俺の目の前に兄がいる場面で「俺、兄、殴る」「兄、俺、殴る」といった場合、語順が違っても兄が俺を殴ったという同一の意味を指し示すことが出るが、神話のように、過去の遠く離れた場所に複数の人物が複雑なことを行っている様をより多くのものに伝播する必要があった場合、言葉は今のようにより巧みに「仮想世界」を表現できる文法を持つ形態に進歩したのではないか、というのである。真偽はともかく、ちょっとおもしろいなぁと思う。
で、最後にこの本を手に取るきっかけとなった「サイバーな心」という章が登場する。
「２１世紀まであとわずかって今になって、『サイバー』とかいまだに使ってるのって俺とスタパ斎藤ぐらいだよな」といっていた俺であるが、なんと西垣先生も使っているってことじゃありませんか！（いや、だから信望しているって噂もあるよな）
いつのまにか情報過多、情報洪水状態の現代においては人の心も「サイバーな心」というべきものに変わってきている。心の病んだ若者が増えてきているのはこの情報洪水に流されてしまって「サイバーな心」が現実と仮想の区別が付きにくくなっているからだ、と西垣先生は嘆く。なんかいきなり、「情報学」「心を科学する」の話から「サイバーエイジの若者の心はすさんでしまっている」という話になって読んでいる俺もドッキリである。まぁ、この手の話はことあるごとに俺も騒いでいるは話なので「なんじゃこりゃ！」とか行って手放したりはせず、読み通してみる。
うーむ、「心とは情報である」から心を科学分析するフェーズはなかなかスリリングであったが、パソコンというインターフェースを通じてネット接続することが、ＶＲデヴァイスを装着してサイバースペースへダイヴしている８０年代サイバーパンク小説の描写とまったく同一であるといわれた日にゃぁ、「まぁ、そういう見方もありますね」としか言いようがない。俺でも考えつくことを力説されてもなんだかなぁ、というわけである。インターネットというサイバースペースに依存してるネットジャンキーの心の病の問題は半ばそうなりつつある俺としても大いに興味があるけれども、もっと別の分野の人に任せて、西垣先生にはもっと危うい言葉と情報と人工知能ＡＩとＡＩは心を持つかといった分野を責めて欲しかった、というのが正直なところである。
うむ、まじめに「科学」してる人には怒られるかもしれないな、と思った一冊。森山さんやジョニイさんに読ませたらきっと怒るんだろうなぁ(^^;
俺としては、さくさく読めて論旨もわかりやすかったし、面白い話でもあったので「読み物」としては良かったとだけ云っておく。同じ心を科学する本でもペンローズの重さに疲れた人は手にとってみてもいいのでは？

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