U-kiの読書日記(99/1/20～99/2/6)

U-kiの読書日記(99/1/20～99/2/6)

『ブギーポップ・オーバードライブ　歪曲王』（電撃文庫）上遠野浩平、読了。 - 99/02/07 00:00:00
本日の調子: 修行中のジョナサン・ジョースターなみ。

コメント:
＃２月６日
この本を買った時に、「次のブギーのタイトルはツェペリンあたりからかな？」とか思ったらこの巻では＜カスタード・パイ＞という曲が終始鳴り響いているのだった。時々自分の予感が怖くなる時がある。それに対して我らがブギーの口ずさむのはニュルンベルクのマイスタージンガー第一幕への前奏曲。最近は音楽がかかっている小説との縁が多い。次世代の電子書籍には音楽を奏でたり文字の背景が変わったりする機能が付くんだろうか。
くく、、非常に残念だ。今回のブギー俺的にはヒットポイントがほぼゼロであった。
まぁ、たまたま失敗しちゃったという可能性もあるわけだが、今後も読むかというレベルまで評価が落ちてしまったことは事実である。まぁ、今後も続いていけば同じようなネタ＆展開はないと思われるわけで、大逆転もありうるわけだが。
以前、この日記で書いた「舞台装置としてのブギーポップ」は何一つ変更点が無い。各登場人物からのマルチビュー。ゲームのような展開。宮下藤花＝ブギー。時は藤花が高校生であるその時点。統和機構の作った人造人間。過去の登場人物の再登場。などなど。
今回特殊なのは、空間が閉じた一つのビルディングの中であること。時間が一日の出来事であること。
水戸黄門の印篭のようになってしまうのか？と思われたブギーポップ（藤花）だが、今回は怪獣相手に大たちまわりをしてくれる。俺的にはブギーが派手に暴れることについてはさっぱり魅力を感じていないので、今回はデコレーションが派手なだけで実がないように思えてしまって白々しく感じた。怪獣出せば派手になるって考えは、なんかハリウッド版ゴジラのようでイヤだ。エンターテイメントというのはイコール派手さではなく緊張感だと思うしね。
何よりも今回は「世界の破滅」の緊迫感がない。これがカタルシスを産まない最大の理由かも。ムーン・テンプルという閉鎖空間での実験である、と作中で語られてしまっている時点でスケールが矮小化してしまったように思える。これは失敗だろう。対して歪曲王が求める「黄金」の陳腐さ。あくまで「黄金」で引張って、土壇場まで実験という言葉を使うべきではなかったように思う。そしてブギーで評価していた「死」の扱いがないことも痛い（今回は死人がいないのだ）。キャラを死なせてお涙頂戴、というのは安直だが、ブギーでは死が、日常にありふれたけして感動的なコトではない、というすぱっとした扱いに心を打たれたのだが、今回はそれもない。思い出の中というチープな死しかない。さらには今回、結果的に倒すべき「悪」が存在しない。咲子に対する歪曲王とブギーの言葉だけでいままでの作品のような「癒し」の効果を望めるわけもなし。結局今回はブギーという舞台装置はいつもとまったく同じだったのにうまくなかった。役者も同じであるから、つまりはお芝居のネタそのものが駄目だったわけである。そーゆーこともあるさ、で済ませられない傷だと思うなぁ、今回は。
いや、ここまではあくまで表層的な不満でしかない。ホンネは以下の部分である。

この巻で最大のつまんなく思えた原因は上遠野氏がなんとブギーポップ＝エヴァンゲリオンだという姿勢を全面に出してきてしまったことだろう。
うう、読み方の一説でそーゆーのがある、というレベルじゃなくなってしまったんですな。本人が意図したのか否かは別として、こーゆー書き方をされると推測だの議論だのもうできないよ。ミもフタもない。そして俺もエヴァに対して思っているのと同じ厳しさでこの作品に接する以外なくなってしまうではないか。
薄い壁一つ向うでどんな不幸なことがあってもしらんぷりしなくては生きていけないような世界。昔の「ご近所付き合い」なんてやってたら窒息してしまうような過密さの中に生きている俺達が自然と身につけた対人ルールの中では、以前の世界だったらたやすく受けられた「他者からの補完」─癒し、あるいはカタルシス的なモノ─を得にくい状況下にある。
そんなトコロに登場したのがエヴァンゲリオンという装置だった。他者から得られなくなってしまった「癒し」を自己から誘導する装置、それがエヴァだったと俺は思っている。
エヴァ自体には癒しだのといった崇高なものはなかったのであり、あれを見たものが自分の中から引き出す効果があっただけにすぎない。それで「癒し」─というか自分以外の世界と折り合いをつけること、と云い直そうか─の能力が自然と備わった人にはピンとこない作品に映り、やや自分をごまかして大人になった人には訴えかける部分があったため、年齢の枠を越えた支持があったんだと今では思っている。
と、いうようなことを今回の歪曲王ではそのまま作品にしてそのまま文章で書いてしまっているのだ。「可哀相に歪んでしまった君たちを僕の文章がまっすぐにしてあげます」っていわれたら誰だってシラケちゃうのでは？あるいは身構えちゃうのでは？と思う。
＜小説＞とか＜演劇＞というのはそこからにじみ出るモノがあって、それを汲み取った人間に色々な事柄を想起させ、感情をうねらせるものだと思う。それをズバリ言葉で云っちゃぁオシマイなんじゃないかなぁ。それこそ文字どおり「芸が無い」。
しかも決定的にイヤだったのは作者が統和機構についてズバリ記述してしまっていること。ある一文をもってすれば、統和機構＝人類補完機構ですからね。やーれやれ。碇ゲンドウのリビドー実現計画と同等だ、ってわけですかい？という思いにとらわれてしまう。
始まりも終わりもない物語があってもイイはずだけど、このブギー、終わりを作るつもりならあまりフロシキを広げすぎないほうがいいと思うんですけどね。
最初からシリーズモノにすべく生れてきたのか？から始まって今回の作品を読んだためにあまり気にならなかった「作者の意図」の範囲がどこまでなのか？ということが気になってしかたなくなってしまった。こーゆーことを読者にさせるような作りはイカン、と思うんだけどねぇ。
世界が終わる、とか自分なんて死んでしまえばイイ、そこまで大袈裟でなくとも「後悔」というやりきれない心の歪みや傷なんて皆が持っている、ということ皆知ってるわけだからそーゆーことを文章として書いちゃイケナイ気もするんだけどね。作者のあとがきを見ると今回かなり地が出ちゃってるというか、自分の好きな音楽かけっぱなしで仕事しちゃったってゆうか、やっつけちゃったのかな？ってゆー気もする。つまりたまたまノリでこーゆー作品になったことも多いにあるわけで。（ってゆうのは考えすぎかな？）
そうだとも、今の世の中、誰も慰めの言葉なんて必要としちゃいないわけで。
自分を救える自分を誘導してやれる作品が受けるのだ、と俺は思うのだが、いや、実際はそういう言葉を求めてる若いモンがうようよしているのかもしれない。
果して俺より若い世代に今回のブギーが支持されるか否か、知りたいトコロである。
（ホントはもっとキツイことも書いたんだけど、今回は一時保留）

ところで今回、急いで発売になったのはこの話がバレンタイン・デーの話だったから、１４日に充分間に合うように出版されたのでは？と思うのだが、気のせいだろうか。
ヤングキングアワーズのエクセル・サーガとかを見るにつけ、つくづくひっでー日だなぁ、と思う。そーいやMissingもバレンタインがらみの話だったよなー。うーむ、呪われている。バレンタインとチョコレート＆ホワイトデーにはいまだに語れないイヤな思い出ばかりがあるなぁ(--;
と、いうわけでバレンタイン・チョコ募集！俺に愛をくれ！（笑）

『ＡＲＭＳ１～６』（サンデーコミックスワイド）皆川亮二、読む。 - 99/02/06 00:00:00
本日の調子: 「片腕サイボーグ」ってビデオを思い出すのぅ。

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＃２月５日
久々に心が震える漫画であった。
特に６巻は最高だね！畜生、俺はこの巻のラストをサンデーで読んでいて続きが読みたかったんだよ！あと３ヶ月待ちかい！
で、例によって「順序」なんて考えずにケツから買い揃えてしまった。にゃるほど、にゃるほど。なんてうなずきながらね。
学生の頃はこぉーんな話の妄想で俺の頭の中は一杯だった。
スプリガンは最初良い！と思ったが連載形式になって見捨てた。皆川氏の絵柄は大友克洋風で好感が持てたが、ちょっと少年誌では癖強すぎかな、と思っていた。（まさか大友氏の手でアニメ化されるとは当時夢にも思わなかったが）今はそれほどくさみを感じない。俺の嗜好が変わったのではなく時代が変わったのだろう。
串団子のメカメカしい戦闘モノは話が陳腐になり易い。が、当時の俺はそーゆーのを求めていた。『ゼノン』なんかは嬉しい存在だったけど、連載誌がメジャーでなかったし、連載も打ち切りになってしまった。ドラゴンボールまでいっちゃうと逆に商売としては成功だけど話としては死んでしまうわけでいやはや、バランスが難しい。そういう意味で主人公の力や敵がインフレーションを起こさないで成功している漫画、『コータローまかりとおる』はある意味スゲー、と今でも感心しているのだが。
最初に見たのはチャペルの双子篇の終わりあたりだったので、右手、左手、足、ときたので何か一体の怪物が分散されているのか？とか思ったし、部分的なサイボーグモノなのか？とか思ったが、第３巻─第一部完─を経てそこら辺が大きな誤解であることがわかる。
三人の少年プラス敵役一人で始まった第一部に対して、もう一人のＡＲＭＳの少女、恵を加えて第二部は始まる。
今のところ、三人の少年の性格描写及び役割分担の完璧さにメロメロ。お約束すぎる敵役の存在も良い。幼なじみのカツミと主人公・涼の関係もお約束すぎるがそれで良い。
幼なじみのカツミの死がジャバウォックを目覚めさせ、第二部はカツミをめぐって涼が動き始める。恋人（？）のために覚醒し、敵地へ乗り込むなんて王道すぎて赤面しちゃうけど、そーゆーストーリーこそ俺が望んでいたものである。
やっつけた敵が意外といい奴、というか戦う事情がなくなれば味方になっちゃう、というのもお約束だといえるが、まぁ、串団子バトルの基本だし、つっこんでもしょうがない。
直情型熱血漢の隼人をワキに持ってきてコンドルのジョーをやらせているのが良い。両親を目の前で殺された、ってとこまで一緒だけど、家族の復讐というのもなんとも王道でヨイヨイ。フツーこのタイプが主役になちゃうのが多いけど、隼人がワキについたことで、涼の冷静沈着さ、精神力の強さがうまく引き立って味が出てるのだ。最近はこの手漫画の主人公は片親だったり、両親とも死んでたりするので「家族って描けねぇんだな」と思っていたが、そのシチュエーションを隼人に持ってきて「ストーリー」を引張り、涼には別の人間性を前に出させている。あまつさえ、母親が「育ての親」であることを露呈したとたんに「凄腕の傭兵」にしてしまったのには驚いた。こりゃ新しい！（笑）
そして制御不能のジャバウォックを使ってデビルマンしているのも良い。ううむ、うまいよ、おいしいよ！って叫んじゃったもんなぁ、俺。
けどけど、騎士フェチ（んなもんあるのか？）の俺はやはりナイト！ああ、礼儀正しいかつ丁寧な言葉使いのオンナノコも好きだけど、戦闘兵器っつーか、人工知能ＡＩはもっと大好きなのよ。
ああぁ、パイドルスピアはオトコのロマン！
（勝手に武器の名称を変えるのはやめましょう）
超能力、サイボーグ、ナノマシン、軍隊、ああ、これぞオトコノコのおもちゃ箱。ここはタカラの企画部なのか？（『銃夢』との違いは未来か現代か、といったところだけかも）
で、逆から読んで思ったのは、意としてか否かわからんが、とにかくいろんな部分が思ったより書き込まれていないこと。ここをぎちぎちにしちゃうと打ち切りなんかがある週間連載はきついのかもしれないが、鐙沢村での秘密にしても、涼の父親にしても、武士の今までにしろ、ＡＲＭＳをどうやって植え付けられたかにしろ、なぁーんも説明されていないのだった。生れた時からついていたんじゃなく、十数年前に事故でつけられたように思っている。カツミと涼の絆はＡＲＭＳ装着以前なのか、以後なのか。美沙ママはどのようにして涼とかかわっていったのか、そして十三じいさん共々どこまでエグリゴリとブルーメンとについて知って、かかわっているのか。ぜーんぶ謎というかハッキリしていないのだ。信じられる情報とそうでない情報の区別がつかない。一昔前のＵＦＯモノのようだ。
特に作者が描き分けできてねーのか否かしらんが、カツミちゃんと恵が凄く似ている、というのはどこまで似ているのかさっぱりわからん。これをやられると、「実はカツミは涼とジャバウォックのために送り込まれた恵の別人格とかじゃねーのか？」という妄想とかがとまらねぇ。
そーいえば、ＡＲＭＳのコードネームといい、「スナーク狩り」という作品名といい、ルイス・キャロルをひっぱってきてるのは良いね。
第一部の終わり、「もしかしたら、僕達人間の時代は終わろうとしているのかもしれない」というのところにフロシキの大きさを感じる。が、どこまで収拾つけられるかは今後でしょう。ＡＲＭＳがヌーサイトのようになるとも思えんし。
そこらへん含みで物語にどう収拾をつけるのか、見守っていきたい。

この作品の出来とは関係ないんだけど、誤植や科学的設定の間違いなんかのアラがざっと読んだだけで数箇所拾ってしまって、ちょっと残念。自分でも嫌なやつだと思うが、ＪＯＪＯなんかでも同人誌でパロられてしまうような単純な誤植が直っていないままコミックになってるわけで、同人作家を喜ばせるために漫画家が放置してるとも思えない。こーゆーのは編集が悪いのか作家が悪いのか知らんが、作品に対する愛情というか丁寧さが見えなくて悲しくなる。（今読んでる中では、トライガンが唯一そこらへんの誠実さを感じさせる漫画である）

ココロに残ったシーンがある。
イジメを受けている少年、という設定の武士の感じている怖さ、
─僕は怖いんだ…人間も…愛情も…ありとあらゆる全てのものが─
これは今を生きる世代が少なからず感じていることじゃないんだろうか？（俺だけか？）
そして武士の妹を傷だらけになって、─なんの見返りも無く─助けようとする二人に彼はたずねる。
「なんで君たちは僕達のためにそこまで？」
「そんなの人間だからにきまってるだろ」
「そうだよ、てめえ俺達をなんだと思ってんだ？」
このすがすがしさ、である。この漫画を読んでる多くの少年がここらへんに惹かれているんだったら俺は嬉しいのだけれども。
うーむ、とりあえず続きが楽しみな漫画が一つ増えたということは確かだ。

「こんにちは、赤ちゃん」（ハヤカワ文庫『赤い涙』収録）東野司、読む。 - 99/02/02 00:00:00
本日の調子: のヴぃ太をみつめるセワシくんなみ。

コメント:
＃２月１日
探したぜ。きっと「欲しい」と思って１０年目くらいに発掘されたであろう、『赤い涙』。＜マルチタスクVOL.1＞と銘打たれたこいつは、出版された当時はサイバーパンクの最先端だったんだろうなぁ。本を電脳媒体にみせかけようという努力がこの＜マルチタスクVOL.1＞という命名の部分ににじみでている。たぶん、この作品はマルチメディア＝ＣＤ－ＲＯＭという誤った風潮が吹き荒れた９０年代前半の生み出した奇跡の一つ、『接続する社会』の中に収録されていた気がする。というわけで、たぶん再読になるんだろうな。
「赤ちゃん」タイトルで未来世界といえば、映画「赤ちゃんよ永遠に」とかの、出生管理が徹底されたくらーい未来世界のイメージがある。そういえば同じように「ローズマリーの赤ちゃん」とかも思い出すのだが、年を取ってくると重要度の同じクラスの作品はフュージョンしてしまって困るのう。ま、とにかくこの作品はそんなくらーい作品ではなく、明るくさっぱりしたサイバーエイジの育児のお話である。果して作者は「育成ゲーム」なるジャンルができることをこの時予想していただろうか？
サイバーパンク・ムーブメント。それは手におえないスピードで進化し続ける電脳という科学にアナログな人類がみせた最後の抵抗だった。「科学を演繹する」というＳＦの本来の役割を果たそうとする最後のあがきだった。で、９０年代後半。空想科学小説は現実に負けっぱなしなわけである。
東野さんのＳＦＭでの連載が終わっちゃったのっていつだろう？編集長のＤＯＳ／Ｖ組み立て記事とかあってあの頃の方向性には少しドキドキがあったのだけど。（今は今で過去を懐かしんでたりして、それはそれで気に入ってはいるんだけどね）
主人公の二人の生活形態や赤ちゃんに対する感情のさっぱりさは読んだ当時は非常にデジタルで非人間的な誇張の様に見えたはずだけど、現実の世界はさっとそれを追い越して我々の感性を非常にデジタルなものにしてしまったように思う。もはやＳＦが誇張して警告していた人間の精神のデジタイズはかなり進んでしまったように思える。村上龍がコインロッカーに赤ん坊を捨てる母親の事件を見て懸念したことは急速に一般化してしまったのではないか、と思える。俺がデジタル野郎なだけで、人間はまだまだアナログな義理・人情の世界で愛情たっぷりでやってるぜ！という意見もあるかもしれないが、そう思ってる人の子供が果たしてアナログな（いや、アナクロというべきか？）感性を持っているかははなはだ疑わしい、と俺は思う。
子供は親のモノではない。が、この夫婦のように自分のモノとして愛情を注いでいる夫婦は多いのではないか？そして、モノとして育てられた子供たちの離反に「最近の子供はわからん」という一言で対応する、というか見放すわけだね。モノが自分の意に従わない時に感じる理不尽さを子供に対して感じている親が多いのではないかな？などと思うが俺は人の親ではないし、社会学者でもないのでここらへんでやめておく。
未来のない大人が子供は未来であると信じているところでシステムが破綻してるんだよね。
助けてドラえもん！！

『整形美女』（新潮社）姫野カオルコ、読了。 - 99/02/01 00:00:00
本日の調子: 脱色後のマイケル・ジャクソンなみ。

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＃１月３１日
まただよ。勘弁してくれ！
終わり。

という「日本一短い俺の読書日記」とかにしようと思ったけど根性入れて書くことにします。
しかし、つらい。これほど読んでいてつらい作品があっただろうか？
もうやめろ、勘弁してくれ、こう思いながら姫野作品を読むのはこれがはじめてではない、というかスウェーデンに行くちょっと前くらいの彼女の作品からにじみ出る「自己否定」の強烈なメッセージは読んでいて「不快」そのものになるくらいせっぱつまったものがあり、エッセイではなく小説＜虚構・フィクション＞であると最後の遠慮がふっとんでしまうのか、「もうここまで出したらアカンよ！姫野さン、あんたのアイデンティティ瓦解寸前やがな！」と思って苦々しく思っていた時もある。（具体的な作品名は忘れた。＜処女三部作＞ではなかった気がする）で、それが『受難』ではやや和らいでおり、スウェーデンでの隠遁生活が彼女を癒したんだろうなぁ、小説もここまでくれば小説らしいよ、うん、という出来で非常に満足していたのだが…一気に逆落としをくらったように「まただよ」「駄目だよ」なお話になっているのだった。果してこれはいかな読者層に向けて語られた話なんだろうか？これを読んで「姫野さン、ますます姫野さんの作品が好きになりました」という女性読者が（まぁ、男性の読者も俺のようにいるのかもしれないが）居るのだろうか？という疑問を抱かずにはおれないのだ。
彼女の本領はエッセイにあると俺は思っているが、もう一方は『空に住む飛行機』（現在は角川文庫より『ドールハウス』の名で再販されている）に代表されるような、彼女自身をモチーフとしたいうなれば「拡大された私小説」というスタイルであり、エッセイ等で彼女の生い立ちやひととなりをしっていると「うっく、これ、絶対姫野さン自身だよ、そのまんまだよ」という＜味＞がなんともいえなかったわけだが、いくらなんでも毎回主人公が姫野さンじゃ、飽きますよね（苦笑）。もうわかった、あんたが云いたいこともわかったし、あんたがどんな女かも、世間一般の女とどう違うかもよぉーくわかった、という内容の本がもうかれこれ二十冊近く出版されているわけで、日々の出来事や思い出、体験をつづったエッセイがいくら繰り返しであっても「さざえさん的」に受け入れられる日常であるのに対して、いくら私小説風であるとはいえ、繰り返し繰り返し同じ話を聞かされるのは、老人の繰り言を聞くより、酔った上司の同じ愚痴を聞くよりもつらい。「だったらもうやめろよ」と思うんだが「俺の買う一冊が姫野さンの明日をつなぐお金の一部になっている」とか思うと姫野信者である俺は彼女の作品に金を払わずにはおれないのだ。今回も最初の５０ｐを読んだ時点で「くぅ。お、同じだ。しかも酷くなってる…」と思っていったん読むのやめたんだが、読みやすい、ということもあって最後まで読み通してしまったのだ。
今回は『受難』での「ふっきれた」イメージはなくなっており、またちょっと前の暗黒に逆戻りである。
整形は不倫である。
これが今回の重要テーマである。ただし、見た目を「整形」すること、それにともなう心の「整形＝変容」を二人の女性を通して描いている。
甲斐子はあまりに完璧な容姿を持つが故に、男からも女からも敬遠され、それを神の呪いと受け止め、そこから脱却するために他人に「受ける」女性像を徹底的に分析し、自己を改造する「計画」を練り、実行に移して行く。
一方、甲斐子と同郷の阿部子は、淡い恋心を抱いていた相手の見つめていたものが甲斐子の姿だと知るや、甲斐子に似せた容姿を求めて整形手術を受ける。甲斐子が鋼鉄の意志力によって、確固たる信念に基づいて、綿密な計画をたてて「整形」を実行していくのに対して、何もかも彼女の対極にある阿部子はただ、なんとなく、偶然が塵のようにつみかさなって「整形」を実践してゆく。
この二人の整形による変容の様が数年を通じてじっくり描かれて行く。当然２本の線は一度交差して、お互い対極を目指して進んで行くのだが。
結局、整形前の甲斐子と整形後の阿部子を足せば、はい、姫野カオルコの出来上がり、というわけで、姫野さんの一般受けしたい願望と一般受けする女の破滅願望がミックスした結果が生まれたのがこの二人なんである。（なんとミもフタもない解説だ）
そしてそこには「清潔感のある不潔感」という一見矛盾したキーワードが存在する。
なんじゃそりゃ、と思われるかもしれないが、一連姫野作品を読んでいればおのずとわかる話である。
彼女と俺の共通の課題は「鋼鉄の倫理観にしばられてきた自己」である。そこから生れる世間一般との溝。自然と不自然の対決である。清潔と不潔の対立なんである。
男女関係について、世間一般の人が「自然」にやっていることが行えず、「不潔」に思えてしまう。自分が「潔い」と思っていることは世間では「不自然」な、奇異なものとみられてしまう。彼女はずっとその点をとりあげて作品化しており、９０年初頭の「なぜ？どうして他の人はそう思うのか？」「自分の何がいけないの？」という素朴な疑問系からはじまったその探求は既に結果を得ている。分析完了している。でも、彼女はそれでもそのテーマから離れた物語をつむげないでいる。
それもなんとなくわかる。自分の青春どころか、人生のほとんどをそれの探求に費やしてしまったのだ。いまさら答えが得られたところで、そこから離れるわけにはいかないのだろう、と。
でも、彼女は自分が世間一般の側に回れないことを知っているから、世間一般のことを理解してもそれが正しいとはけして思わないから、今度は世間一般の「不正」に、そしてそれと相容れない自分に怒りを爆発させているんである。その怒りの結晶が彼女の近年の作品だ。
世間一般の男女の滑稽さ、というか姫野型思考から見た世間一般の男女関係（パワーバランス）の愚かしさはそれを追求しても変わりが無いわけで、それをいくら暴いても自分の人生にはなんのたしにもならない。その分析結果は俺的に見てかなり正しいものだと思うのでここで感じいった文章を引っこ抜いてみたい衝動にもかられるが、そうなると、ほぼ全文を引用しなくてはならないので、やめておく。そして悲しいことにそうしてココロに響いてくる文章のほとんどがいいまわしを変えただけで既存の姫野作品の中で謳われているものなんである。いや、登場人物のヘンな命名法や、ちょっと古風でちょっとオフランスな文体、固有名詞の強調した羅列や単語のリピートによる精神が暴走した感覚の表現。いいまわしの一つ残らず今までの作品と一緒かもしれない。
この作品はマイノリティである自分とは異なる、「世間一般」への冷徹なまでの分析結果である。どう分析しても知り尽くしても自分はそちら側にまわれないという自覚が生み出す、呪いと狂おしいまでの羨望でつづられている。でもね、姫野さン、俺はあんたの文章で「いまの自分のままではイカン」と思ったし、自分と「世間一般」の間にある溝がどんな種類のものであるかを知ったし、そのおかげで自分がそちら側にまわれないと知っても悔しくなくなったんだけど、肝心のあんたがいつまでたっても８年、９年前のまんまじゃ、あんたに救われたと思ってる連中はどうすりゃいいのさ、ってのが正直なところだ。
恥ずかしい話だが、田舎から出てきて方向性は間違ってはいたものの、比較的人間としてはまっすぐに生きていた俺が、「時として人間は曲ったことをしなければ人間らしく生きられない」という事実を知って色々苦しみながら今のスタイルに落ちつくにいたったのは姫野さンの『空に住む飛行機』と村上春樹の『ノルウェイの森』と岡村靖幸のアホなロックのおかげである。あのラストの理加子の「風を受けて立つわ」の志はいったいどうしたのか？ただの「疲れた女」になってしまったのか？立て、立つんだ姫野さン！
とりあえず、俺はあんたに微力ながら貢ぎつづけるからさ…。

『赤い鳩─アピル─全６巻』（スピリッツコミックス）小池一夫・池上遼一、再読。 - 99/01/31 00:00:00
本日の調子: 臨終間際のノセタラダマスなみ。

コメント:
＃１月３０日
んがーっ！
あ・な・たーっ！
炸裂するアピルの迫力シーンのカットバック。
後輩が読み散らかしていったあと、たまらなくなって読み返してしまった。
小池一夫先生の伝奇劇画の最高峰、アピルの再読である。
家には『連環日本書紀』とか小池先生の狂った妄想ワールドの劇画が多数ある。絵の担当が池上遼一だろうと、井上紀良だろうと叶精作だろうと、小池一夫ワールドは俺にとって常にヂャストフィットォ！なんである。
扱うネタが多彩なように見えて、実はいつも一緒とか、漫画家が変わってもセックス描写はいつも一緒とか、××さン、とか、とにかく小池一夫原作劇画はイイんである。
「ムー」を読んでいた俺がどんな記事に興味があったのかといったら、「×××の陰謀」とか「ＵＦＯの隠蔽記事」とか「失われた古代文明」とかであり、それらのの特集の時だけ買っていた。サラブックスやカッパブックスとかの怪しい新書もそーゆー系のは逃さず買い、今、角川ボーダーライン文庫からそくぞくと再販されている、昔の角川文庫のオレンジ色の背表紙のシリーズはデニケンとアダムスキーを筆頭に買い揃えているような困った男だったのだ。
昔はホンキで「なんでこの分野をキチンと科学しねーんだ、愚民ども！」とか思っていたのである。１９９９年までには第三次世界大戦やとっても人類大ピンチな出来事が次々と起るはずで、「ああ、８０年代を無事に生きられたら明日はどっちだ？」とか馬路で思っていた中学生の俺は、はっきりいってトンデモ本１９９９年問題を真剣に考えている男の一人だったわけである。まぁ、年齢とともにそれどころじゃねぇ！現実世界の些細な問題の方だけで精一杯だぜ！ということになってようやくそこら辺のネタを一歩ひいたところから冷静に見つめることができるようになった次第で、劇的に方向転換したのはいつだったんだろう？と家に転がる宇宙考古学の本やフリーメイスンの関連本などを見るにつけ思うが、やっぱり、ある点を境にがくっと気持ちが離れたのではなく、「大予言」で示された年が次々と何事もなく過去に押し流されていったために１９９９年の信頼ががた落ちになったのが正解かな？と思う。
もう一つは予言された大惨事のほとんどがもう済んでしまったのかな？という考え方。
阪神大震災やオウムのサリン事件。死んだり、被害に遭った人の規模ってノストラダムスの時代から見たら相当な規模なわけで、じゃぁここの予言はこれのこと、あれのこと、戦争は湾岸戦争のこと、とかやってゆくとあらあら結構消化しちゃってんじゃないの？というわけである。
なんか作品と全然関係ない話をしてるが、１９９９年の「恐怖の大王」に日本人は気をとられすぎだが、その実、これは「大予言」という形で「諸世紀」を紹介した五島勉独自の解釈であって、海外では全然メジャーではない、という自分なりの解釈があるので全然心配してないよ、ということを述べるための布石だったのだ。あー文章にできてすっきりした。
「恐怖の大王」もブームになったが、以前に「ハルマゲドン」という言葉もブームになったときもある。最近も「アルマゲドン」という映画もやったけど、聖書（英語）にある最終戦争【Armageddon】がこの作品のテーマなんである。昔読んだムー別冊の予言年表だとあともう少し先に最終審判の日がくるようになっているようだ。もし１９９９年の恐怖の大王をうまくやり過ごしても次なる試練がまっているわけで、なかなか地球人類は安穏とした黄金の千年紀（ミレニアム）を迎えられない様になっているらしい。
幕末の時代。新選組の若き隊員、馬庭実行（ジッコ）は、オードル・ヘボンという宣教師に出会う。間者の疑いをかけられたヘボンの始末をいいわたされる実行だが、彼の説く「日本人の起源＝ユダヤ十部族」説を聞かされ、その謎に心を動かされ、彼を見逃してしまう。余命いくばくもない沖田総司をまきこんで、その謎に迫って行く。予言では日本とユダヤの同盟国が最終戦争に生残るとあり、「日本人の起源＝ユダヤ十部族」の証拠を見つけ、隠滅し、その予言の百四十六年後の実現を阻むため、彼等の前に次々と異国の刺客が迫る！
というストーリー。学生だった俺が前のめりにならないはずもなし。
また、当時のスピリッツで人気のパロディコーナー「盗魂」（字、違うかも）で散々池上センセのイカスコマ割が使用されていたこともあって、アピルには魂注がせてもらったのだった。
今読んでも燃える話で、やっぱり中途半端な幕切れで「伝奇モノ、すぐ打ち切りだよ、小池さン」と一句読んでしまう俺であった。
打ち切りゆえ、最初と最後に旧約聖書と日本書紀なんかの一致点（説）の解説を一気に集約しすぎているが、いちおー燃え燃え。当時その手の本を読みまくっていたからなぁ。ということで必然的に真ん中は伝奇謎解きはなく、ただのアクション巨編になってしまっている。別式女のトヨの無敵さに酔うのもまたよし。小池作品に必須の野郎の下半身モロ出しシーンに腹かかえて笑うもよし。ガイジンがいつもニホンジンの二倍スケールくらいで描かれているのを笑うもよしである。西郷さんなんてラオウみたいだよ！（笑）
ヘボンが実は女性ではないのか？という伏線も多々あるのだが、そこは暴いてもしかたがないパートなのかな？と思った。
ロシアを「氷と岩の何もない国」といったり、明らかに土人を描いて「南方の蛮族」とかいわせているところも小池作品の大の魅力。これでちびくろサンボもうかばれるというものでしょう。俺は差別用語禁止反対派ですからね。
というわけで、世紀末に読み返してみて熱くなれる作品、アピルを読んでおいらとヘブライ語で語ろうぜ！
ハカシュ、ハカシュ！ハヤイ、ハヤイ！カゴメ、カゴメ！

『解体屋外伝』（講談社文庫）いとうせいこう、読了。 - 99/01/29 00:00:00
本日の調子: ノヴァ先生のレッスン受講後のケイオスなみ。

コメント:
＃１月２８日
まるで劇画のように軽いノリで、一気に読んでしまった。やはり日本人の小説はイイ。
嵐のようなルビの乱舞、単純明快なストーリー運び、言葉による世界構築。アニメや劇画のようなシーン構成。ホントにこれ、いとうせいこうが書いてるの？というぐらいライトなテイストである。でも、カットバックされる引用文の内容からするといとうせいこうなんだろうなぁ、という感じ（笑）
人間の精神をＯＳとプログラムにたとえて、書き換えたり消したりする、という部分に惹かれて読んでみたのだが、それはむしろ『ワールズ・エンド・ガーデン』の方でやられているのかな？この作品では「お飾り」程度にしか触れられていなかったが、まぁ、そんなことはどうでもイイ、ってくらい面白かった。
昔、ＤＯＳのフリーウェアで「ドクター・バロウズ」というカットアップ・ソフトがあったのを思い出す。電子会議室のログなどをばらばらに分解して意味不明な文章に組み替えてしまう、そんなソフトだった。冒頭はそんな感じで始まる。
宗教団体などから洗脳を受け持つ「洗濯屋（ウオッシャー）」とその洗脳を解除する「解体屋（デプログラマー）」の闘いは密かに世界規模で勢力抗争を繰り広げている、そんな時代。主人公の解体屋は何者かに徹底的に精神を破壊され、他者の言葉の奔流の中に埋もれていた。彼が収容された精神病院で、看護担当についたタイのインテリ少年、ソラチャイの声が解体屋の師匠・錠前屋の掛けた自己保存の鍵と一致していたがため、解体屋はかろうじて復活。ソラチャイの協力を得て病院を脱出することに成功する。脱出先には不思議な歌声をあやつる少年ノビルと担当医である知香が待ち受けていた。次第に自己をとりもどしつつある解体屋の周囲で洗脳者集団の怪しい影が蠢き、やがて彼は自己を破壊した敵との対峙を決意する。そのとき、彼の師匠と知香が何者かに拉致された。ソラチャイと解体屋は闘いに赴く…。というのが話の大筋である。
この作品、いわゆる精神世界へ突入すること、別の作品ならサイコ・ダイヴ、とでも表記するところをおもいっきし「ジャック・イン」と表記している。さらに加えて漢字にいいかげんなカタカナのルビをふりまくりなんである。
ルビはとても独自な味がある。サイバーパンクの嵐が吹き荒れたとき、黒丸尚氏の生み出した恐ろしいルビの嵐はそれだけで＜メタ＞で＜メタリック＞な質感を文章に生み出した。プラスチックにクロム・メタルを吹き付けるように、漢字の連続体にカタカナや英文字略称を貼り付けたのを見て、「サイバーな言語感覚」に俺たちは耽溺した。最初は猛烈に反発したものの、その感覚になれてしまえばとてもウマイ表現なんだとやがて俺たちは気付いた。
ＨＴＭＬに落とした自分の過去の作品群。縦書きでないこととルビがないことで非常にそっけなく感じる部分もある。（）でくくってカタカナ表記をするのはなんともダサイ。たとえば、大陸間弾道弾には（ＩＣＢＭ）というルビをふってあげたい。没入には（ジャックイン）とルビをふってあげたい。どちらか一方の表現では片手落ちだし、このように（）付きで表記するのはなんとも冗長だ。中身はホンモノじゃないのにうわべのカッコをつけるすばらしいメッキ、かな漢字のもつ意味の重厚さとカナ英字の持つ響きの軽さと硬質さの両方をそなえた表現、それがルビだった。
サイバーパンク小説の生んだ表現をまっとうに受け継いで使いまくっているが、この小説は残念ながら＜電脳＞を扱っていない。ただ、サイバーパンクの「雰囲気」だけはそのまま持っている。洗脳と洗脳の解除＝解体の闘いはすべて＜言葉＞だけで行われる。これがアッパー・ダウナーなどの精神系薬物が飛び交ったり、洗脳装置やコンピュータシステムでも出てくれば＜サイバー＞といえたかもしれないのだが、それらの道具は出現しない。あくまで表現や雰囲気だけがサイバーパンクの、それもまっとうすぎるくらいのそれなのである。
後書きで香山リカ女史の言うように、この小説をもっと早い時期に読んでおかなかったことと、これの前に発表された洗濯屋（ウオッシャー）と解体屋（デプログラマー）の活躍を描いた作品『ワールズ・エンド・ガーデン』を読んでおかなかったことを猛烈に後悔する。それは、９１～９３年というまだ８０年代の生み出したサイバーパンク・ムーヴメントの残像がサーモグラフではっきり見えるほど尾を引いていた＜時＞だったし、オウムの地下鉄サリン事件で「カルト教団」の存在が「一般化」する前の、内外で週刊誌やスポーツ新聞の隅の方でカルト教団の記事がぷすぷすとくすぶっていた＜時＞に読んでこそ威力を発揮したのではないか、と思うからだ。
けして今読んで作品の持つパワーが落ちていたり色が褪せていたりするわけではないのだけれど、そういった時期に「予言」めいた物語が疾走することでグッと興奮が増したのではないか、そう思うと残念なのだ。
もう一度いうけど、コミックスを読む気軽さとテンポで一気に読み進めたこの作品、話のオチを見るにつけ、いささか中身のなさと単純さに不満を感じてしまったのも事実。だがこーゆーノリの作品もたまにはよいかな、と思った。『ワールズ・エンド・ガーデン』の方はもう少し話に重厚さがあるのだろうかと予想するが、これも読んでみないことにはなんともいえない。
自分の意識を３分割して、戦闘体はイメージの空間で闘い、実空間で肉体はもみ合い、罵声やおだて、催眠性の言葉の羅列であいての精神を攻撃している、というのは一種スタンド使いの闘いをスタンド使いの内側から描写しているようで結構燃える。
昔書こうとしていた小説で、精神世界同志をぶつけあって、その結果が肉体にも現れる、みたいのは考えた事あったけど、解体屋の精神世界の戦闘は実体では言葉をしゃべりまくっている、というのは一種滑稽で面白いかもしれない。
当然、いろいろな引用の嵐が吹き荒れて、「言葉遊び」も登場し、結構その部分を楽しんでしまったのはある。（芭蕉といえばソラじゃないか、のくだりとか、おまえは２８号だとか）
「人間は自然言語で動くマシーンだ」と定義したこともある俺だから、言葉だけを武器に闘う解体屋に特に違和感を感じずに非常にのめりこんでしまったが、他の方はこの闘いのイメージがビビッと浮かぶのだろうか？という疑問は残る。最後の禅問答のような「無は存在する」のくだりは高校時代の苦しいまでの哲学的自己探求の末、導いた一つの結果でもあり、それを物語のラストにもってこられても「この道はいつか来た道」であって、ワンダーが足りないというか、もう一歩踏み越えて欲しかったのは確かである。銃夢で「我思う、故に我有り（コギト・エルゴ・スム）なんてなんの意味もありませんね、この場合」とかを見た時のショックを俺は期待してしまったんであるよ。
解体屋が自己の精神にジャックインした時に見る腐った脳のあふれる世界は『銃夢』のノヴァ先生の見せる悪夢世界そのまんまで、この作品でヴィジュアル体験していることがすんなり作品の表現を受けいられたことにつながるも、また同時にインパクトを弱めているのも事実。戦闘体を切り離して独自の精神映像の中で闘うのも、サイバー・デッキに投影した自己イメージとかにすればサイバーパンクそのものなんだけど、あくまで己が肉体と言葉と精神のみで成り立ってるところが斬新。だが、サイバーパンクではありきたりの表現を越えられていないとも云えよう。なんにせよ、ハードカヴァで発表されたときの心で読みたかったとしかいいようがない。（くどいけど、味が薄まっただけで気に入らないわけじゃないのだ）
主人公の自称・最強の解体屋、タイの暴力王子ソラチャイ、ヒロインらしいヒロイン知香、解体屋がマスターと仰ぐ錠前屋の老人、後半異様なノリで笑わせてくれるマンションの管理人、スクワッターとよばれる外国人チーマーたち。登場人物は皆、漫画的でわかりやすい設定なのがよい。最近の変にリアルで鬱屈してる人物像とは違って＜ドラマ＞しているのが良い。でもこれがあっけなさすぎるラストの後、効いてくるんだよね。うーむ、善し悪しとは簡単に表現できぬものよのう。
敗北・復活・謎解き・復讐とお約束すぎる展開でないと逆にこのもろもろの設定は詰め込んでも読んでもらえなかったのかもなぁ、と思う。
洗脳や解体について過剰な期待を抱かずに、サイバーではない＜サイコパンク＞というべき一風変わったデコレーションをほどこされたアクション小説だと思えば楽しめるはず。文庫落ちしたのは９６年だが、丁度入手がしづらい時期の本かもしれない。是非探して読んでいただきたい。

＜野獣の書＞三部作（ハヤカワＳＦ文庫）ロバート・ストールマン、読破。 - 99/01/25 00:00:00
本日の調子: バオー抹殺に失敗した霞の目博士なみ。

コメント:
＃１月２４日
いや～、やはり続き物はこたえるわい！というわけでこの一週間は＜野獣の書＞三冊を読むのに全力を注いでいたのでした。

＜＜野獣の叫び＞＞

だってオイラはケダモノだもの～
いつでもリビドー全開だぁ～
我慢をするな！　欲望のままに！
生・き・る・の・さ～
Beast!　666!　Beast!　666!
ぐるるるるる…・野獣だぁ！

（作詞：俺、作曲あなた）

あー、歌った歌った。
ん、野獣ですか。野人というのも一時はやりましたな。
基本的にＦよりな話はなぜか読まない俺。でも、ＳＦラベルが付いてると読んじゃうんだよなぁ。（悲しい習性？）
「３冊まとめて読み、そのうえで評価すべし」
と第１巻『孤児』の解説にあったのでそうした。なるほど、いろいろな意味で読み進むたびに裏切られ、非常に楽しく読めた。
各巻の構成が独自なので、大きい一冊を三分冊したのとは違うし、かといって独立して楽しめるとは言い難いので三分冊で固定の形態なんだといえよう。珍しい構成だ。
目次にある章立て、『孤児』が「一人目」「２人目」、『虜囚』が「三人目」「三人目・複数」、『野獣』がなし！なのは最初ナゾだったが、読んで納得。三冊が三冊とも構成や内容まで全然別物なんだもんなー。まさに三位一体で一つの世界を構築しているのだ。

第１巻『孤児』
二人の人間を通して謎の＜野獣＞の姿が浮き彫りにされてゆく導入部。
一人目。孤児として農家に拾われ、老夫婦に育てられるロバート坊や。その平穏を破る突然の襲撃者という事件が描かれる。
出てくる人物・背景描写のあまりの優しさとのどかさの前になんだかもうめろめろ。この一人目の幕引きには切なさ炸裂！である。
そして２人目チャールズ・カーヒルの淡い性へ目覚め。でも、この２人目の幕引きは
「チャールズ・カーヒル～人生ケツから２番目の汚点～」
ってくらいかわいそうなオチなんである。簡単に云えばケダモノの欲望に負けちゃうのだ。
一人目、二人目、の意味と野獣の基本的な性質を理解し、いくつかの謎をはらんで続く２巻「三人目」の物語に期待が膨らむ。うまい導入部である。偉大すぎるプロローグ篇という感じだが、実はホンモノのプロローグは『虜囚』の先頭にある（苦笑）。

第２巻『虜囚』
ザッツ・エンターテイメント。ここが本体部分であろう。
いきなり帯が「変身せよ！脱出せよ！」である。
き、汚ねぇよ（悶絶）。ああぁ、俺もこーゆー適当なあおり文句を作品にべたべたつけるお仕事がしたぁ～い（笑）
前半は野獣が罠にはまってプリズナー状態に。後半は三人目バリー・ゴールデンの妻子がプリズナー状態に。確かに「変身せよ！脱出せよ！」なんだけどさ(^^;
とにかく、６才児の少女ミナの描写が抜群！野獣を「大きいニャンコ」と呼んで手なずける。まさに猛獣使い少女！（スタンド能力有リ）
か、かわいい。かわいいぞ、ミナ！（不覚にも６才児にキャラ萌え）
もし俺が変身ケダモノで、荒らされた家の中に、
「大きいニャンコ、たすけてくらさい」
とかゆー置き手紙があったら、もう即、変身。追撃せよ！って感じになる。
あああ、まるで「スミレ、せめて君だけは自由にしてやろう」といってドレス本部に殴り込む育郎状態だよ！
それでいて、自分がかわいがっていたリスを殺した野郎には「然るべき報いを！」（バァ～ン！）じゃなくて「食べちゃってもいいわよ。その人イジワルなんだもん」とか抹殺指令！
くわえて、実は山奥深く母娘を誘拐した敵の正体が実は××だなんて！ＪＯＪＯティックだよ！（第二部）あるいはハインラインの『宇宙船ガリレオ号』と一緒だよ！（婉曲なネタばれ）
やっぱ『虜囚』、むっちゃくちゃおもろいエンタテイメントだわ。娘さらわれて全身武装してテロリストを一人で殺し・ぶっ飛ばしまくるシュワちゃんの『コマンドー』なみ！ハリウッド映画化を要求するッ！もしくは荒木飛呂彦の手で漫画化を要求するッ！
映画・劇画のようにむっちゃスピーディーでアクションたっぷりな２巻はいくつかの新しい謎をはらんで３巻へ移ってゆく。この巻のために前後の巻が存在するといっても過言ではない。だけど単独じゃ楽しめないかも、だよねぇ。

第３巻『野獣』
解説篇。癌による死の淵から蘇った宝石職人ジョージ・ボーモントの物語が半分。残り半分が二巻で登場したバリーの話の続きである。
ここではなんと呪術だの幽体離脱だの炸裂しまくり！良くも悪くも超常現象とＳＦが仲の良かったころのテイストがにじみまくりである。
「スタンド戻せ！ボーモント！」（＞叫びまくりな俺）
しかもナヴァホ・インディアンと変身獣のお話になってきて、「うげっ、『アイ・オブ・キャット』状態じゃん！」と一人悶絶。やはり合衆国政府のインディアン保護政策とそれに抵抗するネイティヴ・アメリカンの物語は何か胸を熱くする。『コンピュータ・コネクション』のインディアンの娘も魅力的だったしなぁ。アイヌ娘でなく、インディアンの娘のキャラを大ブレイクさせる気はねぇか？＞ゲーム業界
で、俺としてはせっかく二巻目でもりあがった「野獣」のパートが半分になってしまってることが残念。ミナとバリーと野獣にもっとでばって欲しかった。しかしボーモントの視点から描かれる「もう一匹の野獣」を通しての謎解きパートがないと物語が完結しなかったのは事実。十分面白いし、良く書けているし、インディアンのパートも面白いのだけど、二巻目が面白すぎたので物足りない感じが大なのかもしれない。
「謎」の正体の割には１冊分使ってしまうあたりが冗長に感じられるのでこの巻が人気がなかったのもうなずける。でも最終的にアメリカンなハッピーエンドで良し良し、な気はするけどね。

変身譚というと「山月記」（中島敦）くらいしか馴染みがないが、変身ヒーローモノ、といえば俺の領域である。
この野獣はそりゃもースタンド使いがスタンド出したり戻したりするのと同じくらい簡単に瞬間的に変身可能。変身に条件があったり（キカイダー０１の太陽電池）、時間や回数に制限があったり（ウルトラマンの活動時間）しないのがここまで気持ち良いとは。強いて挙げる変身不能の条件は人に見られるコト。でも、それはお約束だしねぇ。
「アンヌ、僕は、僕はね、人間じゃないんだよ！」でゅわっ！（ウルトラセブン）
「最後まで正体は明かしたくなかったが、しかたない！」（破裏拳ポリマー）
など、正体を隠す変身ヒーローは最終回の正体をばらすシーンで異様に盛り上がる。それまではヒロインが気絶するまで変身できないとか、正体知った人が死んじゃうとかで盛り上げたりするわけやね。キカイダーみたいに「おいらロボットだからチェンジ可能！」とかゆーのと違って＜変身＞は身近な人にも正体を隠すところに醍醐味がある。それだけでドラマが生まれる。
でもよー、最初の５才のロバート坊やがＪＯＪＯティックな顔つきになって「イカン！ここで変身すれば正体がばれてここにはいられなくなる！」なんて考えられっこないじゃんよー(;_;)/
「おばちゃんがピンチだ！悪いおっさんなんてこうだ！」ズギュギューン！
と、みごとにあっさり予想通りの展開になり、バイオレンティックな制裁シーンは劇画やハリウッド映画なみのカタルシスを呼び起こすが、訪れる結果は、悪魔のケダモノと恐れ、ののしられ、銃を向けられても、それでもその人々の家族としてそこに居続けたいロバート坊やの悲哀とそれを許さない野獣の非情さしか残らないではないか。わかっちゃいるけど感情煽られまくり。もうこの物語に心をつかまれてしまった。
それに継いで、早熟な１２才の村の英雄チャールズ・カーヒルと二匹の野獣である。一匹はこの物語の主役であるホンモノの野獣、もう一匹とはチャールズの中に芽吹く性の嵐、心の野獣である。いや、ホント、一匹でも大変なのによくやったよチャールズ、って感じ。俺の野獣は冬眠期間が長かったからなぁ、今ごろ暴れてるけど（笑）
ロバート坊やですら「お医者さんごっこ」とかしているのに、俺ときたら…俺ときたら……。親戚が女ばーっかりだと遊びにおいても女にイニシアチブをとられてしまうので自然とそーゆーものと疎遠になってしまうのだろうな、などと今は分析している。だからここでチャールズやロバート坊やが体験する「遊び」や「心の動き」を「へぇ、そうなんだ」と追体験するように読みふけった。
いや、野獣さえいなければ、ナイス・ガイだったのにねぇ、チャールズ。ハックル・ベリフィンやトム・ソーヤのお話を彷彿とさせる一篇である。派手さはないんだけど、要所要所がピシっとしていて、好感が持てる話。だが、二匹の野獣に翻弄され、汚辱を受けた彼はやむなく村を離れることとなる。
そして、金髪の好青年、バリー・ゴールデン登場！
一言いわせてもらおう。
こぉーのケダモノめが！（笑）
ああ、大人なんてみんなケダモノよぉ！パパもママもフケツ！私は大きくなっても絶対にそんなコトしないもん！的なお話（笑）
でもね、いやもうすっかり野獣よりケダモノな人間が登場したことで皮肉にも野獣の方が理性的でなんとも不思議な味がしやがんの。
「お、オンナ、女ー！」じたんだ踏み踏み。
「うるせー！怪我がなおるまでじっとしてろ！死ぬぞサル！」がるる。
とかになってます（一部誇張）。さらに野獣はこの話の最後、愛情を会得するのだ。
「愛情を知った俺はもう単なるケダモノではない！」
ここまで来て俺は気が付く。この知性と野生を併せ持つ存在は極めて「人間的」なんだ、と。
ゴジラのような怪獣ではなく、超人ハルク的な怪物なのだ。そう、「超人的」な存在なのだ。ここがなんとも新しい感触を持っているトコロなのかもしれない。
ネタバレなるけれども、今まで知っているのは一つの人格に二つの形態、というものだ。ところがこれは野獣と人間はお互いに服を着るように相手のまとっているわけで、完全に独立した二つの人格が一個の肉体に宿っている状態なのだ。ここが面白い（ジキルとハイドよりは『一千億の針』とかに近いかも）。そして野獣は人間から様々なものを学び取り、成長してゆく。チャールズの話ではチャールズ自身の成長もあり、なかなかに複雑な展開になっている。しかし全然くどくないのだ。
よく考えるとこの野獣の物語は１、２年の間の話なんだよね。でも登場する人物が段階的に成長しているのと、それにあわせて「野獣の成長」が描かれているので、十年かそこいら経っているような錯覚に陥るが、きっと作者の愛した１９３７年前後のアメリカ、その切り抜きを描きたかったんだろうなという気はする。
一巻目ではアメリカの典型的な農家の生活を基本に世界恐慌の煽りで噴出する浮浪者の問題、地方のプチブル階級との一般農家の生活差を描いている。二巻目ではメキシコ系移民と××、三巻目ではネイディブ・アメリカン（インディアン）の生活と問題を描いている。良くも悪くもアメリカンである。
森下一仁氏が『現代ＳＦ最前線』でめちゃくちゃ意味不明な誉め方していたけど、これ、実際あの評通りの内容＆感触だったので、今読み返して改めて感心。
そう、この三部作は小説（フィクション）としてのすべての要素をバランス良く分散配合した作品なのだ。ありとあらゆるアメリカン・フィクションの統合体なんである。
作者のストールマン、この一作だけで死んでしまったというのはとても惜しいことだ。
表紙がアメリカ版のと同一なのもＧＯＯＤ。これはこのアメコミタッチの絵柄しか駄目でしょう。もしくは荒木飛呂彦を強く推奨！
今となっては入手不可能な作品だが、是非探して読んでほしいシリーズである。ってゆうか読め！（義務）

掲示板で「探しています」と愚痴ったのを見て、快く本書を譲ってくださった津田さんに感謝いたします。
ああ、俺って果報者。
昨年末はこのような善意に支えられて貴重な作品に多数出会うことができました。熱意とノリ以外ウリのないページですが９９年もがんばって更新していきたいと思いますので皆様よろしくお願いいたします。

ところで、昨年末に立てた今年の読書計画というのは、まずは狼男の話を読み、吸血鬼の話を読み、フランケンシュタインの話を読む事である。（何が計画やねん…）
でも基本的にＦよりな世界から心が遠い男＆読めない本の紹介ばかりでは申し訳ないので次は箸休めも兼ねて……何読もうかなぁ？

『TOKYO WARS』（世界文化社SEBUNコミックス）小林源文、読む。 - 99/01/23 00:00:00
本日の調子: 習志野第一空挺部隊のパラシュートが懐かしい。

コメント:
＃１月２２日
これ、実はマイ・ベスト・源文漫画の『レイド・オン・トーキョー』の再販である。
主人公、佐藤大輔のモデルは、あの『レッドサン・ブラッククロス』の佐藤氏である。
以後、佐藤は凶悪な上官、それにいじめられる部下中村、というキャラは彼の漫画のレギュラー的存在になる。これが本格的に佐藤・中村が登場する初の物語で源文漫画の重要なターニング・ポイントになる作品である。佐藤キャラのトレードマークの頬の傷もここで生まれている。
日米安保条約の破棄から始まる、「ソ連（ロシア）の本格侵攻に日本の自衛隊はどこまでやれるか？」という本格的な戦闘シミュレーションであり、これ以上の戦争漫画を俺は知らない。
話は新潟からの東京へ向かう侵攻軍と闘う佐藤の部隊、東京を制圧しようとする特殊部隊と闘う中村たちの部隊、小松基地の生き残り名倉の航空部隊、U-BOOT真っ青、沈黙の艦隊も真っ青のリアル潜水艦バトルを繰り広げる潜水艦「ひきしお」、統幕議長のいる中央指揮所のパートから成り立っている。陸海空の各パートだけでも十分読み切り漫画として通じる完成度だ。
燃えるシチュエーション、燃えるセリフも満載で＜ことぶきゆうき用語辞典＞みたいのがあるとすれば多くの引用元がここにあったりする。ではその一部を紹介しよう。

「う、動いてます！」
「露助は不死身か？」
「リアクティブアーマーですよ。もう駄目だ！」

「さすがＡ級射手！」
「痛いか？苦痛は生の証だぜ。お前はいま、生きているんだ」

「畜生、プガチョフ・コブラだ。やられるぞ！」

「ハープーンを発射できるか？空母を道連れにしてやる」
「やりましょう！」

無論全部のシーンに、ＨＥＲ、ＨＥＲ、満載！（笑）

平和ボケの日本人に小林源文が叩き付ける過激な挑戦状、それが本作品である。
もともとホビージャパンの「黒騎士物語」から源文ファンであるおれはほとんどの作品読んでいて全作品推奨なんだけど、そのなかでもこの作品がベストなんである。
自衛官の街で育った俺にとって自衛隊の存在はいつでも身近でかつ特殊な存在なんだよね。だから第二次世界大戦モノや架空戦記モノよりも、「自衛隊」のリアルな戦闘モノは心が別の方向に惹かれるのかもしれない。
戦闘が、佐藤の人間性を徐々に削り取ってゆく描写がなんとも秀逸。生死をかけた作戦の最中、母親からの電話が入るところなど秀逸すぎ。（母親は戦闘が起こっていることを理解していない。電話線の向こうは今とかわりない平和ボケの世界なのだ）
また、これはコンバットコミックの連載モノだったのだけれど、それが一冊にまとめられたときの映画のような場面転換のムーブメントに痺れる。
圧倒的な戦力の前に虫けらの様に死んでいく自衛隊隊員。その地獄絵図を前に佐藤は拳を握り締めて悔し涙を流す。「畜生！…畜生！」読んでるこちらも歯噛みする名場面である。
そして、敵の侵攻が鈍り始めたところで雲の合間から差し込む光と共にやってくる空爆の支援。これほど効果的な反撃のイメージがあるだろうか？
そして最後すべてが終わったとき、戦犯として裁きを待つ佐藤の姿に心がうずく。
源文漫画は過激すぎて戦争賞賛右翼漫画と見る向きも多いが、彼の劇画描くところの多くは過剰に過激にすることで戦争という「特異状況」が生み出す人間のダークサイドを暴き出すのが目的に思えるし、戦争行為そのものへの疑問であり、軍隊や国家という超組織のはらむ矛盾や問題点を白日の下にさらけ出そうとする努力に他ならない。
（確かにミリタリーマニアの性でメカや戦闘シーンのカッコ良さはそれらとは別ですよ、みたいのはあるんだけれどね）
日本の極秘海外派兵部隊オメガコマンドの活躍を描く「オメガ」シリーズも最初の読み切りでは主人公・小松にミッション終了後「俺、戦争が怖くなったよ」とつぶやかせている。最近はこれがないのがとても残念。前述のターニングポイントといったのは「純シリアス」な源文漫画はこの作品を頂点に終わっているのではないか、という意味である。佐藤・中村のコンビを登場させるだけでコメディや「お約束」の匂いが漂ってしまうからだ。
今回の再販にあたって、源文は表紙を書き下ろしているが、『RAID ON TOKYO』の表紙は当時の出版社側に一方的に決定された非常に不本意なものだったらしい。
カラーページも原稿の色褪せがひどかったのでスキャナーで取り込んで彩色し直したらしい。いやはや、墨絵の源文先生もパソコンで作画するようになったとは、サイバーな時代になったものだとつくづく思います。はい。
２月中旬には「バトルオーバー北海道」が収録されたものが出版されるようで楽しみである。
しかし、大日本出版の頃からコンビニで源文漫画は買えたけど、今度のSEBUNコミックスってのもスゲー名前（笑）。（『青の６号』とかもここだよね）
戦争漫画、読んだことのない人にもこれを機会に是非読んでほしい作品である。
嫌悪感を持つかもしれない。それでも良い。それはあなたの精神がまだ健全である証拠に他ならないのだから…。

『音吉君のピアノ物語１～４』（少年サンデーコミックス）林倫恵子、読む。 - 99/01/21 00:00:00
本日の調子: 「少女に何が起ったか」の宇津井健なみ。

コメント:
＃１月２０日
ぐぅお、不覚！全６巻なのに４巻までしか手に入らなかった。
ま、思い出すための呼び水には１冊でもあればいいや、と思っていたので我慢、我慢。
『オルガニスト』を読んでこの作品を思い出すことになろうとは。しかし記憶自慢の俺も音吉くんの本当の父親が日本の音楽界を追放されて海外で成功しているピアニストである、という重要な部分をすっかり忘れていたことに愕然とするも、異母兄弟の弟に彼女とられちゃうんだよなぁ、とかは良く覚えていて「情報の重み」のつけかたに偏った方向性を感じる。
さて、漫画という紙媒体で「音楽」を表現する。これは非常に難しい。稚拙にも見える作者の画力でどう対抗するのか？
しかし、１０年ぶりくらいに見ても、音吉くんの中のピアノの演奏は俺を感動させるのだった。スゲェ！
映画的なアングルを多用する作品は結構あるし、なかには荒木飛呂彦の様に無用なパースを付けて迫力を増したり、車田正美の様にいきなり見開きを多用したりと、漫画にはコマ割り含めてさまざまな表現方法があるが、音吉くんで重要になる音楽の表現は逆にこれら漫画的表現テクニックを必要としない、もっと言えば画力を必要としないわけで、林倫恵子はその見せかたを発見しただけで十分に勝負にでられたということだろう。
料理勝負漫画で「うまい」「最高」とかいわれても舌馬鹿な俺は実際に２つの料理を比べても比較できないと思う。音に関しても同様で、聴力的に鈍いとされる日本人の典型のような俺は音吉くんたちの演奏を聞いても「なんとなくいい」ぐらいにしか聞き分けられないはずだ。
で、この漫画は「すごい演奏」と「駄目な演奏」を観客の表情などで表現している。なんだそんなことか、と思うかもしれないが、基本的に視覚から聴覚への表現を訴えることに（俺にとっては）成功しているわけで、さらにはテンポがどうとか、リズムがどうとか、強弱がどう、とか音吉くんの出会うさまざまな課題を音痴の俺が漫画で視覚的に体感できるような表現が駆使されており、それだけでもこの漫画はスゴイ、と思うのだった。
これ、学生時代、同人ユニットの相方の先輩が全巻そろえていたんだよね。だから記憶落ちの部分が結構多かったのかも。当時俺は「青空しょって」と「帯をぎゅっとね！」とかに入れ込んでいたからなぁ。むむむ。
ああ、早くラストの２巻をＧＥＴせねば！

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