ウイスキー入門



ウイスキーの歴史


 現存するウイスキーに関する最も古い記述には、次のようなものがあります。
1172年、イングランドのヘンリー2世(Henry II、1139〜1189)がアイルランドへ進攻したとき、現地では、ウシュク・ベーハ(uisgebeathe)と呼ばれる、穀物を蒸留した酒を呑んでいるのが見られた。

 1494年5月28日のスコットランド大蔵省の記録No.305には、修道士ジョン・コーに発芽大麦8ボルを与え、生命の水をつくらしむ。との記述があります。

 ボルは古代スコットランドの計量単位で、1ボルは約150kgです。8ボルは約1,200kgにあたり、この大麦麦芽から1,400本のスピリッツをつくることができたそうです。蒸留の記録が残っているもっとも古い文献から、スコッチ・ウイスキー協会(本部:エジンバラ)では、この年(1494年)をウイスキー誕生の年、5月28日をウイスキーの日としています。

 19世紀半ば前に連続蒸溜機が発明され、1853年 ( 日本は黒船来航で大騒ぎ )、ポットスチル蒸溜のモルトウイスキーと連続蒸溜のグレーンウイスキーのブレンドによって、ブレンデッドウイスキーが誕生。重厚で個性の強いスコットランドの地酒にとどまっていたウイスキーは、このブレンドの発見によって調和のとれた円やかさを獲得。飲みやすく親しみやすい世界的な名酒となり、今日、多くの人々の人気を集めているのです。

1994年には、盛大に「スコッチ・ウイスキー誕生500年記念式典」も開催されました。

ウイスキーの語源


 ウイスキー発祥の地とされているこのアイルランドの古語では、uisceは水、bethuは生命。このウシュク・ベーハ(uisgebeathe)がウスキー(usky)と簡略化され、やがてスコットランドやイギリス、カナダではwhisky、アイルランドやアメリカではwhiskeyと綴られるようになりました。つまり、蒸留技術を持った人々が、愛情を込めて生命の水と呼んだ大麦のスピリッツが、ウイスキーの語源だということになります。

モルトウイスキーのできるまで
製麦 ( malting )

 原料の二条大麦を2〜3日、水に浸した後、これを床に広げます。時々かき混ぜながら発芽をうながして8〜12日。発芽期間中、大麦の体内には糖化酵素 (ジアスターゼ )が生じ、デンプンを糖化する準備がととのいます。
 できた発芽大麦が、グリーン・モルトです。これをキルン(麦芽乾燥塔)で乾燥させ、発芽をとめます。スモーキー・フレーバーというウイスキー特有の香りはこのとき焚きしめるピート(peat、草炭 )の煙によるもの。乾燥麦芽をピーテッド・モルトといいます。

糖化 ( mashing )

 乾燥麦芽を粉砕機で砕き、お湯とともに糖化槽 ( mash tun ) に入れ、よくかきまぜます。麦芽のデンプンはお湯に溶け、酵素の働きで糖分に変わり、麦汁 (wort) が得られます。このとき使うお湯の水質で酵素の働きが左右されるため、蒸溜所は良い水が豊富に得られる場所に建設されてきました。麦汁は 濾過され、後に残った麦粕は家畜の飼料として利用されます。

発酵 ( fermentation )

 麦汁を、冷やして発酵槽に入れ、酵母の力で発酵させます。酵母は糖分を得てさかんに増殖しつつ、アルコール成分を分泌していきます。約48時間で発酵は終り、ウォッシュ ( wash 発酵終了モロミ ) ができます。アルコール分7〜8度のビールに似た酒です。

蒸溜 ( distillation)

 モルトウイスキーは、銅製の単式蒸溜器ポットスチル pot stillで2回蒸溜されます。1回めの蒸溜でウォッシュ中のアルコール分が気化し残存酵母などの非揮発成分が除かれます。気化したアルコール成分はポットスチルのスワンネックという首を通って冷却装置へと導かれ、再び凝縮して液体に変わります。
 これをローワイン low wineといいます。ローワインは再度、ポットスチルにかけられ、2回めの蒸溜が始まります。
 2回目の蒸溜では最初に出てくる蒸溜液はくせが強いためカットされ、まんなかの合格基準に達した蒸溜液だけがスピリッツ・レシーバーに集められます。これが、モルトウイスキーです。

 終りの部分もカットし、最初にカットした液とまとめて、次に出てくるローワインに加え、再蒸溜にまわします。
ポットスチルの形、大きさ、操作方法の違いによって、得られるモルトウイスキーの風味は千変万化。また、加熱方法にも直接、釜の底に炎をあてる直火蒸溜、あるいは釜のなかのパイプに蒸気を通す間接蒸溜があり、タイプの異なるモルトウイスキーが生まれます。

貯蔵熟成 ( maturation )

 蒸溜したてのウイスキーは、オーク(楢)材の樽に詰められて、貯蔵庫に入ります。オーク樽のなかで、モルトウイスキーは木肌を通してゆっくりと蒸発し、反対に空気を吸い込んでいます。よくない香りの成分が除かれ、また空気や樽材の影響を受けて、深い色、香り、味を身につけていくのです。
 琥珀色の芳醇なモルトウイスキーは、こうして長い間、樽で貯蔵した賜ものです。樽の大きさ、樽に詰めたときのアルコール度数、貯蔵庫の温度や湿度などによって熟成の効果は微妙に違ってきます。

モルトウイスキーのその後

 熟成の終ったモルトウイスキーは、通常はブレンドの会社に運ばれ、ここで各地の蒸溜所のモルトウイスキーと混ぜられます。ブレンダーは求めるウイスキー(ブレンデッド・スコッチ)の風味をつくり出すために、どこのモルトをどの位つかうか、品質を設計し、その処方せんに従って各蒸溜所の何年ものをどのくらい買うかを決定します。
 モルトウイスキー同士を混合することをヴァッティングといいます。ブレンディングというのは、ヴァッティングしたモルト原酒とグレーンウイスキー原酒を混合することで、これによって最終製品が姿を現します。

 倉庫内に置かれた場所や樽そのものの個性などによって、樽ごとのウイスキーの味は微妙に異なります。そこで、平均的な風味を保つために、熟成の終わったモルト・ウイスキーは、樽から出された後、いったんタンクに集められます。
タンクに集められたモルト・ウイスキーは、濁りの原因となる不純物を取り除くため低温濾過器(チリ・フィルター)に通されます。

 また、そのままではアルコール度数が70度〜55度とやや高いため、43度ほどになるまで水が加えられたあと、瓶詰めされることになります。
 ただし、現在、蒸留所内に独自の瓶詰設備を持っているのは、Glenfiddich(グレンフィディック)、Lochside(ロッホサイド)、Springbank(スプリングバンク)の三蒸留所だけです。

 さて、蒸留所からモルト・ウイスキーを仕入れ、自社で瓶詰めして販売する業者を、 merchant bottler(マーチャント・ボトラー)、またはindependent bottler(インディペンデント・ボトラー)と呼びます。
これらの中には、瓶詰めのときに加水しないもの(カスク・ストレングス)や、タンク に集められない樽出しのもの(シングル・カスク)、あるいはチリ・フィルターを通っ ていないものなどを販売している独立瓶詰業者もあります。
いずれも「何も足さず、何 も引かず、樽で眠っていたままのモルト・ウイスキーをそのまま呑みたい」というモル ト・ウイスキー愛好家のわがままな願いを聞き届けてくれる、ありがたい業者と言って もよいでしょう。


楽しいテイスティング

 香りや味を吟味することをテイスティングといいます。聞き酒のプロは、まず、ストレートでざっとテイスティングし、それから水を加えてじっくりと香味を聞き分けていきます。
最初に目で色あいや清澄度をチェック。それから鼻で香りをかぎます。最初に立ち上がってくる香りがトップノート。そのモルトウイスキーの香りの顔。なお、かいでゆくと、花のような香り、果物のような香り、煙のような香り、樽の木の香り……さまざまな香りが星のように明滅していることに気がつくことでしょう。

 つぎに口に含み舌の上にころがし、味蕾で味わいを感じとり、また鼻腔に抜ける香りを追いかけます。たくさんの種類をテイスティングするときは、ここで口にふくんだウイスキーを吐き出します。飲んでしまうと、正確な比較ができなくなるからです。口腔に残っている香り、味に注意します。これがアフターテイスト。良いウイスキーほど、快い香りや味が余韻となって響いています。もう一度、香りをかぎ…、何回か聞き返し、特徴を刻みこみます。口をすすいで、次のウイスキーに移ります。

「ウイスキーで一番美味しい飲み方」(トゥワイス・アップ)

 スコッチのブレンダーはモルトウイスキーを鑑定するとき、必ず水を加えます。もちろん、水はミネラルウォーターが良く、また、氷は入れません。
 水とウイスキーの理想的な割合は、アルコール度数40%ほどで1対1。等量の水で、ウイスキーの香り立ちがぐんと高まり、その特徴が最も良くわかるからです。いわば水は、ウイスキーの香味をくっきりと見せてくれるプリズム。タイプの異なったウイスキー同士で比較すると、それぞれの個性がいっそうわかります。


WHISKY FLOAT

 上に琥珀色のウイスキー。下に透明なミネラルウォーター。水とアルコールの比重の違いで、こんな楽しい飲物が出来ます。水の上に、シングルモルトがそっと浮かんだウイスキーフロート。
 グラスと水面の接点に、バースプーンやマドラーなどの先をつけ、ウイスキーを静かに伝い落としてつくります。初めはストレート、次がロック、やがて混ざって水割りが味わえそして最後がチェイサーと楽しい飲み方です。

麦茶のように

 スコットランド人とモルト・ウイスキーの関係は、日本人と麦茶の関係によく似ているのだそうです。たとえば、水にまでこだわる高価な麦茶もあれば、インスタントの麦茶もあります。されど麦茶なんですけれど、たかが麦茶でもあるのです。麦茶もモルト・ウイスキーも、特にありがたがって呑むことはありません。

 生活の一部なんですから。そして、そういうふうにモルトを呑み続けていきたいと思っています。高価で美味しいモルトはもとより、安価で美味しいモルトはより美味しく、残念ながらそうでないモルトも、それなりには呑みたいな、と。
 少なくても、他人が好んで呑んでいるお酒をこきおろすような、似非スノッブにだけはならないように。

もっと落ちついて


 オーダーしたモルト・ウイスキーが、ショット・グラスに注がれて、目の前のカウンターにトンと置かれたとき、ついいきなり口元へグラスを運んでしまいがちですが、長年の樽熟成と瓶内保管という眠りのために、スコットランドの美女たちは、つまりモルト・ウイスキーは、とても低血圧なのです。スコットランドの美女たちがここに来るまでには、それこそ何年もの時間が必要だったはずです。せっかくですから、しばらくグラスを置いておいたり、まわしてみたりして、もう少しゆっくりお目覚めを待ってみてください。

 たとえば、三分ほどはなにもしないことをお奨めします。
立ちのぼるというよりは、グラスに溜まるといった感じの、やや濃厚な香りに出逢えると思うのですけれど?

未練たらたら

 呑み干してしまったグラスも、すぐには片づけずに、しばらく手元へ置いたままにしておくことをお奨めします。底に残った香りは、呑みはじめのものとは変わっているもの、あるいはまだまだ十分に深いものなど、さまざまな個性を示してくれます。


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