春は、60年代エルヴィス

"LONG LONELY HIGHWAY, NASHVILLE 1960-1968"

"LONG LONELY HIGHWAY, NASHVILLE 1960-1968"
ロング・ロンリー・ハイウェイ、ナッシュビル1960-1968
 
#5 from the "Follow That Dream" label
  
(74321-76749-2) (Release Date; July 1, 2000)

TRACK LISTING
1. It's Now Or Never
(alternate take 1) Time: 3:22
2. A Mess Of Blues (alternate take 1) Time: 2:57
3. It Feels So Right (alternate take 2) Time: 2:09
4. I'm Yours (alternate take 2) Time: 2:42
5. Anything That's Part Of You
(alternate take 2) Time: 2:08
6. Just For Old Time Sake
(alternate take 1) Time: 2:10
7. You'll Be Gone (alternate take 4) Time: 2:30
8. I Feel That I've Known You Forever
(alternate take 3) Time: 2:03
9. Just Tell Her Jim Said Hello
(alternate take 5) Time: 1:47
10. She's Not You
(alternate take 2 & WP take 4) Time: 2:38
11. (You're The) Devil In Disguise
(alternate take 2 & 3) Time: 3:35
12. Never Ending (alternate take 1) Time: 1:58
13. Finders Keepers, Losers Weepers
(alternate take 1) Time: 2:00
14. (It's A) Long Lonely Highway
(alternate take 1. single master) Time: 2:50
15. Slowly But Surely (alternate take 1) Time: 2:17
16. By And By (alternate take 4) Time: 2:34
17. Fools Fall In Love( alternate take 4) Time: 2:09
18. Come What May (take 8. stereo master) Time: 2:00
19. Guitar Man (alternate take 10) Time: 2:54
20. Singing Tree (take 13. unused master) Time: 2:58
21. Too Much Monkey Business
(alternate take 9) Time: 2:41
22. Stay Away (slow version) Time: 3:18


 中山康樹著『ディランを聴け!!』(旬報社)という本が面白い。ボブ・ディランの全 513曲を一曲1ページ、アルファベット順で紹介している本だ。中山氏はこの大著を、すべてワン・テイクで書いたそうだ。
 「そうした理由のひとつにはスケジュール上の問題もあったが、ワン・テイクこそディランの精神や音楽を文章化するのにふさわしい方法ではないかと判断したことによる。」とのこと。
 不肖私も、これに倣い、今回のこのエルヴィスのCD、FTDレーベル第5弾『ロング・ロンリー・ハイウェイ』のレビューをワン・テイクで、今書いている。なぜならそれは、締め切り日が目の前だというスケジュール上の問題がかなり大きくあるからだが(笑)、それ以上に、ワン・テイクこそ「エルヴィス60年代の音楽」を文章化するのにふさわしい方法ではないかと判断したことによる。魔法(=エルヴィス60年代の音楽)はすぐに、消えてしまうから。
 では、さっそく、テイク1(ワン)、スタート。

 まず、このCD。ジャケットが、かっこいい。
 顔が、引き締まっている。
縦縞シャツの全身エルヴィス、その大胆ではない胸のはだけかた、ベルト付近にかけての、よじれ気味のシワのよりかた、くっきりとした袖のおりかたが、とても魅力的である。あれ、よーーく見るとエルヴィス君、シャツを前で結んでいるのかな?
 そして左腕にはめられた腕時計が、またかなり素敵だ。その先のいわゆるひとつの左手は開かれており、すなわちパー。目を反対の右手に転じると、な、なんと、あー驚いた、グー。エルヴィスひとりじゃんけんは、左手が優勝したようである。そういえば、一昨日、異星人ミスター率いるジャイアンツこと巨人が、日本シリーズで優勝しました。
 あー、さて、視線を下半身に移すと、左足をやや前方に位置させた、足の開き具合、そのディスタンスが、ナイスな距離をしている。ある寒い日のヤマアラシの距離的な、そんな絶妙な近すぎず遠すぎない場所に、各足が位置しているのである。
そんなエルヴィスが、中心の大エルヴィスを軸に中小エルヴィス合わせ計14名、
ゴールド・レコーズ第2集のジャケットを髣髴とさせるように、ちりばめられている。大乗仏教と、小乗仏教の核融合及びその反応を見るように、眩しい。眩しすぎるぞ、エルヴィス。
そんな表ジャケとは対照的な、中ジャケ裏ジャケの、どアップ・エルヴィスも迫力がある。いい顔だ。
白地に、さりげない赤枠という配色も、美しい。よいジャケである。
 そういえば、ロッド・スチュワートのアルバム
『ボディ・ウィッシーズ』(83年)のジャケも、ゴールド・レコーズ第2集のデザインであったことを思い出した。

 

 

 さて、CDの中身だが、1960年から1968年までに録音されたスタジオ・アウトテイクスが収録されている。
 同じく60年代のエルヴィスのアウト・テイクス集である
エッセンシャル・エルヴィスVol.6『サッチ・ア・ナイト』の、姉妹編といったところなのか。
 私は、アウトテイクスものが、大好物なので、こういうのがこうやってじゃんじゃん発売されるのは、正規盤であろうがFTDであろうがブートであろうがありがたい。ありがたや。ありがたや。(←手を合わす。)
 『サッチ・ア・ナイト』がどちらかというとメジャーな曲中心の化粧の濃い姉というならば、こちらの『ロング・ロンリー・ハイウェイ』は、渋めの選曲・薄化粧の妹といった趣か。
 いや、でもこの『ロング・ロンリー・ハイウェイ』の一発目は、あの強力な「イッツ・ナウ・オア・ネバー」だし、あの「悲しき悪魔」だって入っているし…うーむ、わかりませんえん。にせんえんさつ。sisterだけでは、姉か妹かは分からない。
 いずれにしても、美人姉妹であるという事実は、叶さん達も賛同してくれることであろう。
 この二枚のCDのうち、どちらかひとつだけ選んで無人島に行け、という強制的に究極的な命令を下されたならば、個人的には僅差で、この『ロング・ロンリー・ハイウェイ』の方に軍配を上げるかもしれない。その理由のひとつは、好きな曲の含有率が、若干こちらの方が上回っているような気がするためである。いや、ほんとうは、このレビューを書くために、聴いた回数が、こちらの方が上回っているからかもしれない。
 聴く度に、新しい発見があり、また、味わいも増し、まるで、噛めば噛むほど味の出るあたりめ(するめ)のようなアルバムである。
 音質も、奇跡のように、とてもよい。
 
 さて、率爾ながら、私は60年代のエルヴィスを、「エルヴィスという名の幸福」と名付けている。
 この頃のエルヴィスの歌声には、羽毛のような軽やかさがある。完璧な歌唱である。大好きだ。不幸というものがかけらも微塵もない。そういったものからは、もっとも遠いところに佇んでいるエルヴィスが存在する。ゆえに「エルヴィスという名の幸福」である。
 それと、大瀧詠一さんや、ロニー・タットさんじゃぁあーりませんが、バディー・ハーマンのドラムが、とてもいい。聴くと幸せ気分になれる。
そう、60年代のエルヴィスを聴くと、なんだかとってもウキウキな気分にさせてくれ、すべての俗世間的な悩み事をぶっとばしてくれるのだ。どんなにくさくさイライラしているときでも、60年代のエルヴィスを聴くと、それらをさっと洗い流してくれて、さわやかな気分にさせてくれる。すごい酵素パワーだ。洗浄力だ。
 あなたが、もし、ふと気付いたとき、「やさしさ」からもっとも遠く離れたところにいる自分を発見したなら。
 そんな時は、だまされたと思って、60年代のエルヴィスに耳を傾けてみるとよいでしょう。すぐにその距離を縮めることが出来ます。目の前に、やさしさが屹立するのだ。
 それはそれは、魔法のようなエルヴィスの歌声とバックの演奏なのである。

 枕草子の「清少納言」、いや、もとい、清少納言は、その著書「枕草子」で、「春はあけぼの」と言った。
 私は言う。「春は、60年代エルヴィス。」
 あなたにも、このCDを聴いて、「やうやう白くなりゆく」春の朝を、感じて欲しい。あなたの頬を春の暖かな南風がそっと撫で、目の前で桜の花があざやかに咲き始めるでしょう。

1. It's Now Or Never (alternate take 1) 1960年4月3日

 曲が始まる前のエルヴィスの咳払いと、ピーンと張りつめた緊張感が生々しい。
 テイク1ですからね。さすがのエルヴィスも、偉大なるナッシュビルのミュージシャン達も、緊張するのでしょう。新必殺仕事人における勇次(中条きよし)の、口から奇妙な音を立てて伸びていく三味線の糸のように張りつめた空気が漲っている。
 0:18で、ギターが途絶えるところ。息を呑みます。
 
 0:55の、2番に移る前のピアノの、だったら・だ・だという、音が浮き立つ部分が美しい。
 ABABAB…というふたつのパターンが交互に現れる曲であるが、そのB部分で聴かれる、スティックとスティック(?)を叩く、(ン)カカ(ン)カ(ン)カカ(ン)カという木のぶつけ合う音がよい。
 そして、それが終わってまたAに戻る前の、スネアのたららった、という音がよい。
 A部分では、バディー・ハーマンがスネアを叩いて、DJ・フォンタナが、(ン)カカ(ン)カをしているのかな。
 エルヴィスの歌は、A部分が強、B部分が弱、という使い分けをしており、その力強さと、スイートな甘さの線対称ぶりが見事な攻撃だ、タケルちゃんマン。くえっ、くえっ。(ブラック・デビルだぞー)

 3:10の、演奏が中断して、シンバル音に入る前の、少し長めの一瞬の緊張感も、またどきどきものである。どきどきしちゃうぜ、どきんちゃん。
 こなれた完成テイクでは聴くことのできない、緊張感が横溢している、テイク1であった。

2. A Mess Of Blues (alternate take 1) 1960年3月20日

 イントロのピアノとベース、いい音で、転がっている。
 DJ・フォンタナと、バディー・ハーマンの、強力なダブル・ドラムが、全編にわたって気持ちよく響く。ごくまれにずれるところがまたたまらなくよい。
 どどんどん、どどんどん、というところ(2:09)、めちゃんこ、よい。
 エルヴィスの、やぁー(1:52)。 よい。
 サビ部分の、ハンド・クラッピングと、そうでない部分のパチパチ指パッチンといった、究極の生楽器の使い方が、ハンドメイドでいい味だす。
 2:13の、エルヴィスの笑い声になだれ込み、ブレイクするのかと思いきや、持ち直すところ。
 それと、2:40 の、歌が一瞬 A MESS OF/ で途切れるところ。ここも、心地よい緊張感が漲っていて、息を呑む。ごっくん。

3. It Feels So Right (alternate take 2) 1960年3月20日

 イントロのドラム、たったたかたか、が、たまらない。素晴らしい音である。DJ・フォンタナ&バディー・ハーマンがここでもよい仕事をしている。有能なドラム職人だ。
 ナッシュビルの乾いた空気の中でしか出せないといわれるこのドラムの音に、脱帽脱サラ脱パンツだ。
 歌い出しのエルヴィスが、また、たまらなくセクシーでワイルドだ。名付けてセクシー&ワイルド・エルヴィス。
 そんなセクシーさ等とは無縁で正反対の、さわやか路線コーラスの突っ走りが、またいい。
 
 最後の、オー・イエー(2:04)が、いかす。

4. I'm Yours (alternate take 2) 1961年5月25日

 エルヴィスの震えるような美しい歌声と、オルガンの音、そしてベース及び子馬の散歩ピアノとの絶妙なコンビネイションが、いい。
 完成テイクは、エルヴィスの一人二重唱でしたね。また間奏に、こちょこちょ・えへっ・くすぐったいぞというセリフもありました。
 こちらのテイクは普通の一重唱=ソロのエルヴィスの歌であり、またあのセリフがない。これが、実に完成テイクを聞き慣れた耳に新鮮に響き、味わい深いのだ。セリフがないぶん、トゥー・シャイで恥ずかしがりやさんの私にはくすぐったくならないのが、よろしかった。

 DJ・フォンタナ&バディー・ハーマンは、指にたこができたのか、この曲と次とその次の曲はお休み。人間、たまには休息が必要だ。
 この辺の緩急の付け具合が、このCDの価値を大きく高めていると思う。

5. Anything That's Part Of You
         (alternate take 2) 1961年10月15日

 私は、このピアノのイントロを聴いただけで、天国に昇ったような気分になる。
 個人的には「あなたにそっくり」とともに、胸の中にしっかりとしまっておきたい、そんな大切な2曲である。
 表面上は、優しい笑顔なのであるが、心の中の瞳には涙がいっぱいたまっているこのような音楽は、他では、
内田光子が演奏する、モーツァルトのピアノソナタ第15番ハ長調 K.545の第二楽章ぐらいなものではないだろうか。見た目は優雅で穏やかに見える湖の上の水鳥ではあるが、水面下では一所懸命に水を掻いているのである。

 アコースティック・ギターのささやかなアルペジオ。綺麗な綺麗なコーラス。一瞬エルヴィスの歌だけになるところ。涙がこぼれそうになるくらいに優しい。
 また、たとえば展開部で、When I know you don't love me と高らかに歌いあげ、anymore と落とすところなど、宝石のように美しい熱唱だ。ほんとうに、歌のうまい歌手である。
 エンドのピアノとベースも、美しすぎて、また涙が出る。
 とにかく、美しい。

6. Just For Old Time Sake
         (alternate take 1) 1962年3月18日

 Just For…と、エルヴィスの歌のみで始まる出だし部分、ぐっとくる。
 そして、アコースティック・ギターが、いい。
 右の穏やかな、バンジョーのような楽器も、隠し味的に、良いものを持っている。
 エルヴィスの歌は、完璧すぎて、いうことがない。
 1:45、If you loved me の If you のところの、節回しがたまらない。

7. You'll Be Gone (alternate take 4) 1962年3月18日

 イメージ変わって、闘牛士っぽいというかフラメンコっぽいというか、そういう曲。
 こういう曲であっても、エルヴィスの歌は完璧だ。ほんとうに幅の広い、深い歌い手であるということを、改めて認識させられる。
 全編に渡るシンバルの音と、フラメンコ・ギター、そして 1:06-1:13 の間奏のギターが、すばらしい。
 エンディング。 決まったね。

8. I Feel That I've Known You Forever
         (alternate take 3) 1962年3月19日

 チーン、、、チーン、、、と響く、この楽器の使い方が、絶妙だ。いや、仏間にいるわけではないのだが。
 とても効果的なパーカッシブでかつ綺麗な音である。後光が差しているようだ。
 それと、コーラスと、ピアノが、美しい。
 最後のforever and ever and ever と歌いあげるエルヴィスが、超凄い。

9. Just Tell Her Jim Said Hello
         (alternate take 5) 1962年3月19日

 チン、チ、チン、、チン、チ、チン、、と響く、この楽器の使い方が、またまた絶妙だ!!!
 そのバックで、抑え気味のスネアの音も、うまい。
 歌と歌の間にはまる、たん、たん、た、、、たーたたん、という、ギターとシロフォン(?)のユニゾンもかわいい。
 オクターブ上がってタイトルを歌うエルヴィスの歌いまわしに( 0:56-1:07)、またまたパンツを、いや帽子を脱いでしまう私である。ほんとうに、すべてをさらけ出してしまいたくなるくらい、うまい歌だ。ヒカル。

10. She's Not You
       (alternate take 2 & WP take 4) 1962年3月19日

 エルヴィスの歌のみで始まる出だし部分。 背後で鳴るかすかなるサックス。 弾むベースとピアノ。 ナッシュビルの乾いたスネアの音。 出しゃばらないギター。エルヴィスのうまい歌。 はーうわ、という男性コーラス。 ハイトーンな女性コーラス。 低音男性ボイスのぼんぼ、ぼんぼ、ぼんぼ、ぼん。 1:11 からの間奏で、なだれ込むピアノと、エルヴィスのウッゥという声。
 すべてがすばらしい。

 あれ、なんか短いな。という感じでとりあえず終わってしまう。
 一度中断して、また、同じ曲がはじまるのだが、その中断部分における、うーーーーーぅーーーの練習及びエルヴィス「オッケー。ヒアゥィァゴーヒアゥィァゴー」のかけ声が、楽しい。
 
 最後の、うーーーーーぅーーー。
 決まったようである。

11. (You're The) Devil In Disguise
         (alternate take 2 & 3) 1963年5月26日

 イントロの突然の「動」な始まりに驚くと、すぐに静の部分に入り込んで行く。すごい曲だ。こんな凄い曲を書く人の顔を見てみたい。
 静と動の対比が、すばらしいのだ。特に、その両者のドラムの色彩感が凄い。ブラボーブラボー。ほんと、いいドラムだ。右のDJのドラムに、万才!

 途中ブレイクしてしまい、口笛により中断。
 新たにテイク・スリーが始まる。
 その新たなる挑戦の際の、1:30 部分、You… に突入する前の一瞬の間(ま)が、ベリー、スリリングだ。
 ベースの音が、面白い。
 後半現れるハンド・クラッピングが、やけのやんぱち風でこちらも面白い。ポチの尾も白い。
 邦題は「悲しき悪魔」。

12. Never Ending (alternate take 1) 1963年5月26日

 右チャンネルの、き、、、き、き…という木の音の楽器の音と、左チャンネルのアコースティックギターの音、そして真ん中のエルヴィスの甘い歌声が、なんとも綺麗で、いい。バックコーラスも、いい。
 最後のエルヴィスのおっけーおっけーの声も、いい。
 スネア・ドラム(ブラシ使用か?)の音がまた、いい。
(バディー・ハーマン。ナイス・バディーです。)
 さわやかなエンディングが、いい。

 いい。いい。を連発したが、私は、ショッカーではない。死ね死ね団でもない。ましてや人間もどきでもない。
 いいものはいい。わるいものはわるい。

13. Finders Keepers, Losers Weepers
         (alternate take 1) 1963年5月26日

 イントロのピアノ&サックスを聴いただけで、なんだか楽しくなってくる曲だ。
 左チャンネルの、Eギターの刻み方が、楽しい。右の抑え気味のサックスもまたユニークな味だ。ばばば・ばばばば、というところが、おもしろうて好きだ。うぱうぱコーラスも、それに輪をかけるように、また楽しい。
 しつこいようだが、DJ・フォンタナと、バディー・ハーマンの、ダブル・ドラムが、またまた気持ちよい。
 聴いていて、幸せ気分にしてくれる曲である。
 まるで、新緑の季節に自分を運んでくれるような曲だ。

14. (It's A) Long Lonely Highway
      (alternate take 1. single master) 1963年5月27日

 右チャンネルの、Eギターのせわしない刻み方が、素敵だ。
 「ぱっぱら、ぱっぱ。ぱっぱら、ぱっぱ」「わー、わー、わー、わー、わー」「きーぷおん、ごーいん」「うー、うー、うー」などの、コーラスが楽しい。
 展開部に突入する直前の(1:48)盛り上がるスネア・ドラム(ブラシ使用か?)の音が最高。
 1:50-2:05展開部の熱いピアノ。いい音で鳴っている。
 鉄は熱いうちに打て。
 Strike while the iron is hot!

15. Slowly But Surely
         (alternate take 1) 1963年5月27日

 イントロからチープっぽい音で左で唸りまくり暴れまくるエレキギターの音が、たまらない。まさに60年代の音である。昭和30年代後半に、タイムスリップしたかのようだ。あの頃は良かった。小林旭も浅丘ルリ子も若かった。
 このファズギター・イントロは、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」よりも早かった、と、大瀧詠一さんが書いていた。さすが、元祖エルヴィスである。また、さすが大瀧さんである。

 繰り返しになるが、またまたドラムの音がいい。どすどすしていて最高だ。
 オー・イエッヤの後の、ドン  というバス・ドラがいかす。
 また、ラストのドラムの音と、無理遣(むりやり)な感じもしないではない締め方が、最高だす。
 邦題は「がっちり行こうぜ」。

16. By And By (alternate take 4) 1966年5月26日

 前曲から、3年が経過した。
 おお!これは、凄い。個人的に、この曲がこのCDのハイライトである。
 歌に入る前の、スタジオ内でのやりとり、楽器の音、特にピアノのイントロ部分の練習など、おもしろい。
 で、何の曲なのかなー、などとぼんやりしていたら、いきなりイントロのあと、「Well, children」だもの。吃驚仰天だ。
 この、この曲で何カ所か節目で表れる歌い出し部分の「Well, children」のところのエルヴィスに、拍手喝采を贈りたい。ここのところに、個人的にすごく痺れるのだ。ビリビリ。
 ほんと、いい曲だ。心と体が弾む。
 もっともっと、もっとぉぉぉーーーーーー、と思っていたら、あっという間に終わってしまった。
 また、聴こーっと。

 ガスペルを歌うエルヴィスは、ナチュラルでいつも美しい。
 
17. Fools Fall In Love
         (alternate take 4) 1966年5月28日

 イントロのピアノそしてドラム、といった歌への入り方の流れがいい。全編を貫くピアノのリズムがこの曲を根底から支えている。
 突然2番から表れるホーンズが、素敵だ。完成テイクでは、たしか最初の1番からホーンズが顔を出していたような記憶があるが、これは2番からである。これが、すごくいい。この管楽器の音の重なり方が、こくのある味を作り出している。まるでこくまろカレーのようだ。私は、バーモントカレーの方が好きなのだが。
 いや、でも、このホーンズ、林檎と蜂蜜も入っているようなすてきな音だから、バーモントのような、という形容も出来るかもしれない。脱線した。許せ、椎名林檎。ハニー。

 間奏のユニークな音にエフェクトされたギターと、サックスとのバトルがおもしろい。
 後半部分の、爆裂気味なドラムスが、心を揺さぶってくれる。ゆさゆさ。
 エルヴィスの歌も勢いがあり、踊っている。
 最後の、イエー、最高。
 邦題は「恋の泡展望」。もとい、「恋のあわてん坊」。

18. Come What May
         (take 8. stereo master) 1966年5月28日

 この曲も前曲に引き続き、要所要所で吹かれるラッパの音が、いい。
 イントロから表れっぱなしの、右チャンネルの、のたうち回るギターが、グー。
 間奏のサックスと、手拍子のバトルもおもしろい。いや、これは、バトルとは、いわんか。
 ラスト。うんばば、んば、んば、かむほわっとめぇぇえい、と、かますエルヴィスが、最高だ。
 この曲のシングルレコード、欲しいだす。でもすんごい高いのよ。このFTD・CDでじっと我慢の子である大五郎であった。

19. Guitar Man (alternate take 10) 1967年9月10日

 ナイロン弦ギターと、しゃかしゃか鳴っている鈴の音のような楽器と、シンバルが、いい。
 エルヴィスが、うわい・えむ・しー・えーというところの「うわい」の部分が、とても好きだ。
 多くを語り、まくしたてるようなエルヴィスのヴォーカルが、私を煽りまくってくれる。その勢いで「ホワット・アイ・セイ」に突入するエルヴィスが素敵だ。
 最後の最後部分、途切れるスタジオの人の笑い声が、いい。とても、いい。
 中途半端なようなそうでないような終わり方が、余韻を残す。
 邦題は「ギター男」。ウソ・エイト・ハンドレッド。

20. Singing Tree
         (take 13. unused master) 1967年9月10日

 冒頭、かすかな女性の笑い声と、その後に続くエルヴィスの、えへへという微笑が、ミステリアスな誘惑の響きとして私の頭の中に残る。
 「エルヴィス!誰なの、この女は!」
 
 バイ・ザ・ウエイ。
 これ、いい曲ですね。再発見だわさ。
 聴いていて、なんか、落ち着く。不思議な憩いのある曲だ。完成テイクの一人二重唱よりこちらのソロ・テイクの方が腰が落ち着く感じがする。
 サビ後半部分で、「Maybe he…」等と歌った後、駆け上がるピアノが好き。

21. Too Much Monkey Business
         (alternate take 9) 1968年1月15日

 冒頭の、きゅいーんというギターの音がいい。エルヴィスも、そう思ったのか、オーケーと言っている。
 完成テイクは、ドラムなしだが、このテイクはあり。その簡素なドラムが、いかすロックだ。
 間奏のギターがしぶがき隊のように、しぶい。やっくんも、朝のテレビで岡江さんとがんばっている。ところで、母さん、あの少女隊はどこへ行ってしまったのでしょう。一心同体・少女隊。ママー・ドゥ・ユ・リメンバー……            
 話がそれた。ごめん。
 その間奏のギターの後ろで、んば・んばノっているエルヴィスが我々に兄貴的親近感を感じさせる。
 んば・んば・エルヴィスに免じて、脱線気味の今回の私を許して欲しい。底抜け脱線ゲーム。

 このテイクでは全体的にリラックスした感じが、聴く者に心地よさを与えてくれる。
 あのビートルズもカヴァーした・かのチャック・ベリーの名曲を・このエルヴィス達がうまくルーズに調理している。ちなみにこの曲は、旧成人の日に録音されている。関係ないか。
 誰だ。1:32のところで、○め○と聞こえると言っている奴は。

22. Stay Away (slow version) 1968年1月16日

 冒頭のエルヴィスの笑い声に、失神者続出か。
 たららららーーー。
 スローで始まり、スローで終わるこのヴァージョン。文字通り、ゆったりとしていて、いい。この曲にこのCDのラストを飾らせた選曲者に乾杯。
 エルヴィスの歌声に、60年代初期までにはなかった深みが表れ始めているのがわかる。
 タンバリンの音が、いいなー。
 それと、1:30から表れるバッキング・ピアノが、とてもいい。特に二カ所で出現する(2:04及び2:21)ぐるるるるんというところがワイルドで、凄くよい。
 また、しつこいが、ドラム、特にスネア・ドラムの乾いた音とバス・ドラムの音が、ほんとーに、よい。
 最後の部分にちらりと表れる、哀愁の口笛に、ほんの少し秋を感じる。舗道に光合成を止めた乾ききった葉が、たくさんの葉が、風に吹かれ舞い落ちている。今は秋。

(2000年10月末 記)

SPECIAL THANKS to "norimaki"さん


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