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スペシャルレポート

WORLD PC EXPO 96特集

−WORLD PCフォーラム96「基調講演」−
(WORLD PC EXPO 96併催)

 幕張メッセで1996年9月4日より開催されている、日経BP社主催の  WORLD PC EXPO 96と併催のWORLD PCフォーラム96・基調講演が、国際会議場2  階コンベンションホールで行なわれた。この基調講演は4日間行なわれるが、  そのうち初日の米ネットスケープ・コミュニケーションズ社・会長ジム・クラー  ク氏、および6日の米アップルコンピュータ社・上級副社長サニーブ・チャヒ  ル氏の講演について、その概要をお届けする。
  • ジム・クラーク氏(米ネットスケープ・コミュニケーションズ社)
  • サジーブ・チャヒル氏(米アップル・コンピュータ社)

     A−I「変わるインターネット」  米ネットスケープ・コミュニケーションズ社 会長 ジム・クラーク氏  1996年9月4日(水)10:00〜11:00  前回ジム・クラーク氏は、オープンシステムズエキスポ’96、ネットワーク  エキスポ’96(主催:日経BP社)と併催のオープンシステムネットワーク  フォーラム’96で、2月14日に基調講演「インターネット・ビジネスの展  望」を行なっており、この6カ月でどれだけ変化したのか期待を持って講演に  挑んだが、残念ながら期待はずれに終わった。  新しい話は、先日発表された「ナビオ・コミュニケーションズ社」に関連した  ことのみで、それ以外は今まで取り組んできたことの説明に過ぎず、エバンジョ  リストとしての意味あいが強い講演となった。  ジム・クラーク氏は、インターネットに対する彼自身の考えの変遷、および各  産業に対する影響(プロトコル、ディジタル通信のアベイラビリティなど)の  2点について話を進めた。  (1)インターネットに対する考えの変遷  同氏はSGI(シリコン・グラフィックス社)を1994年に辞める3〜4年  前から情報スーパー・ハイウェイについて考えていたが、コンピュータやTV  に大きな影響を与えるには高帯域の通信網が必要であり、まだ先のことと認識  していたようだ。  その後、イリノイ大学でWWWブラウザ「Mosaic」を開発したマーク・  アンドリーセンと知り合い、マークが「インターネットを情報スーパー・ハイ  ウェイと考えている人もいる」と言った時、当時2500万人の利用者を持つ  インターネットはビジネスになると考え、投資に踏みきるきっかけになったと  話した。Mosaicをベースに、約6カ月間・1200万ドルの投資でWWW  ブラウザ「ネットケープ・ナビゲータv1.0」(以後ナビゲータという)を  完成させ、1994年12月に世に送り出し、現在に至っていると続けた。  (現バージョンは3.0である)  同氏はインターネットビジネスには当初からジレンマがあり、現在もそれは変  わらないと述べた。これは、次に示すどちらのビジネス展開で進めるべきかと  いう問題である。   ・消費者向けツール   ・ビジネスユーザ向けツール  結局、当時はビジネス向けツールとしての展開が大きな収益を生むと判断し、  それが今のネットスケープ社の姿であり、収入源となっていると説明した。  世界の通信システムの進歩は、電話による音声通信システムが開発されてから、  非常にゆっくりと進んできたが、1960年代末から発展してきたインターネッ  ト(いわゆるデータ通信)は、あらゆる通信の標準と成りうる可能性を秘め、  現在大きな変化・進歩を起こしているとした。特に電気通信業界へ大きな影響  を及ぼし、世界の電話会社35社を顧客に持つことができたと述べた。  しかし、これらはビジネスユーザであり、一般ユーザ(消費者)は依然として  少ないので、ここに大きな需要が存在するという現在の考えを述べた。そして  そのためには、もっとシンプルに、もっと易しく、もっと安くする必要がある、  という同氏の今後の方向性がここで示された。  しかし、この潜在需要は誰が考えても当たり前のことであり、筆者から見れば  遅い取り組みといわざるを得ない。特にネットワーク・コンピュータ(NC)  の戦略が、余りにもビジネスユーザ(企業向け)に傾きすぎている問題と等価  であり、ここで需要を読み間違えるとNC陣営は大きな敗北をすることになる。  その意味では、情報家電向けソフト開発を進めるために8月26日に発表した  「ナビオ・コミュニケーションズ社」の設立は、遅い動きではあるが意義は大  きいと見ている。  同氏は、ナビオ・コミュニケーションズ社は一般ユーザ(消費者)のための会  社であると説明しており、インターネット・プロトコルをチップ化し、家電製  品や通信装置へ内蔵することで、ナビゲータのテクノロジーを家電製品へ採用  していくと述べた。  (2)各産業に対する影響  いまコンピュータ業界や家電業界、電気通信業界などのあらゆる業界がインター  ネットに収束しようとしており、産業界は大きな変革期をむかえているとした  上で、どのような分野へ影響を及ぼすかを、将来起こりうることとして説明し  始めた。  a.電 話  電話で実現されるコミュニケーションは、電子メールなどのより効率的で安価  なものに変わっていくだろう。インターネット・フォンのような、インターネッ  ト上の情報形態の1つに過ぎなくなるかもしれない。  b.一般サービス(金融、旅行、ヘルスなど)  株の取引や電子送金など既に実現されているものは多い。  c.ソフト分野  世界の産業の大部分はソフトウェアで動いているといってよく、多くのソフト  を生み出す会社は、ソフトの開発に多くの資金を費やし、次にそのソフトを販  売するための流通チャネルの確保に多くの投資をしてきた。  しかしネットスケープ社は、ソフトの販売(配布)にインターネットを利用し  てきたので、短期にしかも安く流通チャネルを確保することができた。  つまりインターネットを使えばソフトの配布がしやすくなる。例えば、Java  を使った場合を考えてみると、  ・オンライン・バンキング・サービス   計算に必要なスプレッドシートの特定のバージョン(通常は最新バージョン)   を、ユーザのWWWブラウザが持っているか否かをユーザが判断する必要は   なく、このようなソフト配布の管理もバンキング・サービスの1部となる。  ・工場の工程管理・FAなど   ブラウザがインターフェースとなって、ハードウェアとは切り離された、独   立したプラットホームで、共通のコミュニケーションとして動くようになる。  d.経 済  国の経済競争力と強い相関をもっている。日本やアメリカの音声通信システム  は非常に優れており、これらの高度化されたシステムにより、安定した経済成  長を維持できた。  現在、第3世界(途上国)ではこの遅れを取り戻そうと、高帯域のインターネッ  ト網を整備しつつあり、次世代のシステムで一気に先進国に追いつこうとして  いる。  日本の場合は、牛耳っているNTTがもっと積極的に通信システムの高度化・  低価格化を押し進めないと、経済成長が鈍化して将来大変なことになると同氏  は警告した。  e.教 育  必要な情報を得るのに、自分がもはや物理的に移動することはなく、知識デー  タベースと化するインターネットから、欲しい情報が得られるようになる。  f.メディア・ビジネス(出版、放送、宣伝広告など)  例えば新聞社の多くは既にWebページを出しており、現在は物理的な配信で  はなく、電気的な配信で収益を生む方法を模索している。  g.仕事のやり方  現在インターネット人口の3分の2以上は会社から接続しており、ネットスケー  プ社はこの部分で成長してきたと述べた。具体的には、特に会社の中での人材  分野(人事、マーケティング、製品情報など)に対して、物理的な情報配信シ  ステムの電子配信システムへの変換、いわゆるイントラネットの構築であり、  同氏は米企業のトップ100社のうち92社はネットスケープ社の管理システ  ムを使っていると説明した。同氏がここで特に協調したかったのは、WWWブ  ラウザのナビゲータは収益のほんの1部でしかなく、大部分は管理システム  (Webサーバ、ディレクトリサーバ、カタログサーバ、プロキシサーバ、メー  ルサーバなど)で食っているのだ、ということのようだ。そして、このような  生産性の向上は極めて重要であり、情報が豊富になるといった「環境の豊かさ」  を生み出すと力説した。  (3)その他  同氏は講演の終盤で「会場の皆さんが聞きたがっているのは、私がマイクロソ  フト社をどう見ているか、ですよね?」と自ら切り出して、会場の笑いをつく  りながら話し始めた。  同氏は、マイクロソフト社を安定した優良企業とし、同社はニーズを作ること  のできる会社であるとした上で、しかしそれは弱み(両刃の剣)でもあるとつ  け加えた。  よく聞かれることだが、マイクロソフトはWWWブラウザのインターネット・  エクスプローラ(以下IE)を無料で提供しているが、ネットスケープ社は打  撃を受けないのか、と言う問いに対して、そんなことはないと否定した。同氏  は、イントラネットのようなシステムとして考えた場合、マイクロソフトはIE  の無料分を他の管理ソフトで割り増ししており、トータルではネットスケープ  社のシステムの方が安くなると、多くの企業から理解されていることを指摘し  た。また同氏は、ナビゲータは同社の収入源の1部でしかないことを繰り返し  協調した。  このあたりは必ずしも正しいことばかり言っているわけではなく、同氏の「い  いわけ」的な部分が多い。システムとして捕らえることが重要なことは確かで  あるが、ブラウザは総てのユーザのフロントエンドであり、企業の顔であり、  ユーザはそれ以外の仕組みを知る必要はない。つまりネットスケープ社にとっ  て、ナビゲータは唯一のユーザとの接点なのである。だからこそ、ナビオ・コ  ミュニケーションズ社のような会社を作る必要もあったわけだ。(ちなみにマ  イクロソフト社はユーザとの接点になるソフトをいくつも製品化している)  アクティブX技術についても触れた。同氏はアクティブXはOLEそのもので  あるため、ウィンドウズのみという限られた環境の、決してオープンでない仕  組みであるとし、このため他の仕組みと効率的な通信ができないと指摘した。  (なおマイクロソフト社はアクティブXをMacOSにも移植するとしている)  これに対してJava、Javaスクリプトはインターネットのために作られた、  完全にオープンな仕組みであり、ユーザに無条件に利益をもたらすものである  と優位性を協調した。  このため、マイクロソフト社がアクティブXを普及させたいならば、総てのユー  ザが混乱なく利用できるように完全にオープンで、あらゆるプラットホームで  動くようにしなければならないと訴えた。  この点は筆者も同感である。マイクロソフト社の戦略の延長には、ウィンドウ  ズ一色の世界にするという企業論理が強く働いており、この考えが強すぎると、  インターネットの世界に大きな歪みをもたらすことになる。おそらくマイクロ  ソフト社のもくろみ通りには進まないだろう。  ただジム・クラーク氏が優れている点は、このような競争はユーザにとって有  益なものと信じ、今後も競争は必要であると考えていることである。もしこの  ような考えがなければ、かつてビル・ゲイツ氏に買収話を持ちかけられたとき、  おそらく断れなかっただろう。そして、現在のナビゲータ3.0やIE3.0  も勿論存在しなかっただろう。  ビル・ゲイツ氏は常に強迫観念と背中合わせであり、自分の身(=マイクロソ  フト社)を守りたいとするネガティブな考えに陥っている。マイクロソフト社  は今もなお成長を続けているが、既にネガティブ・スパイラルに入っていると  いわざるを得ない。  (以上/なかみつ)
     A−3「アップル、次の戦略」  米アップル・コンピュータ社 上級副社長 サジーブ・チャヒル氏  1996年9月6日(金)10:00〜11:00    掲載が遅れてご迷惑をおかけしておりますが、11月末までに、    講演のほぼ全内容を、最近のアップルの動向も含めてお届けする    予定ですので、もうしばらくお待ちください。

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