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カトリシズムとプロテスタンティズム

第26回講演会 2004年6月2日(水)
カトリシズムとプロテスタンティズム――企業家精神から見たフランス・ドイツ比較
吉森 賢(放送大学大学院教授・横浜国立大学名誉教授)

 働いて富を得る、という行為の背後にある宗教意識や国民性の問題について改めて深く考えさせられる講演であった。1517年、ウィッテンベルクにおいてマルティン・ルターが95カ条の問題提起をしたことから説き起こし、カルヴィンの改革により形成されたプロテスタンティズムが宗教改革と同時にいかに職業観、企業家精神の形成に貢献したかを主としてマックス・ウェーバーの論に基づいて解説された。すなわち、神から与えられた使命としての職業−宗教的義務としての労働という考え方の形成である。「現世における職業生活についてのこの道徳的規定は宗教改革が最も大きな影響を及ぼした貢献の一つであり、とりわけルターに帰せられることは疑いを入れない。」(ウェーバー)これが主としてドイツにおける職業観であったとすれば、今なおカトリシズムの強く残るフランスにおいてはいささか事情が異なる。19世紀以来、反資本主義はフランス人において最も広く共有されている概念である、あるいは、フランスにおいて不労財産は尊敬されるが、働いて得た金は警戒される、と言われる。カトリシズムの労働観について、ベルンハルト・グロートホイゼンを引きながら、「我々はすべて罪人であるので、我々のすべては人類の祖先を労働、病い、死に定めた神の裁きに例外なく服さねばならない」「富裕であることは神の思し召しである、しかし富裕になろうとすることはわれわれの虚栄と貪欲の結果である」とし、従って、「このような風土の上では資本主義が必要とする個人と『天職』としての義務関係が発達できない」(マックス・ウェバー)ということが縷縷解説された。もっとも、1983年以降、ミッテラン政権により、事情は大きく変わり、フランスにおける企業家精神の伸展高揚は、今日よく知られるところとなっている。
 講師が実際に訪ねた由緒ある土地――ルターが問題提起をしたウィッテンベルク城内の教会や,聖書を翻訳した部屋のあるワルトブルク城の映像、そこで翻訳中にルターが投げつけたというインク瓶のエピソード、さらには問題提起のなかにある「我々の神は堅固な城塞」を含む歌詞にルター自身が作曲したという曲を流すなど、講師のこれまでの研究の足跡とともに研究を楽しむ人となりもうかがえて大変アトラクティヴな講演であった。
 日本において若い企業家の言動が物議をかもしたのは、この講演の半年後のことであったが、「富を得ること」をめぐっての500年に及ぶ歴史のうえでこれを見直すとなお興味深いし、その根源的な意味を考えるためにも、若い学生たちに聞かせたい講演であった。
 なお、吉森氏の著書に下記があり、今回の講演は、現代の企業経営論の基礎部分あたる歴史的背景をお話いただいたことがよく分かる。
吉森賢『日米欧の企業経営―企業統治と経営者―』放送大学教育振興会, 2001, 350p.

(波多野宏之)


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