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第21回
2002年11月14日
森村悦子
パリ日本文化会館図書館の活動

 2002年11月の例会は、パリの日本文化会館図書室司書の森村悦子氏を講師に迎えて行なわれた。これまでの例会の中でも、聴衆がおそらくもっとも多く、非常な盛会だった。
 森村氏は、まず日本文化会館の設立の経緯から説き起こされ、図書室開室の準備、開室時の状況、そして現在の状態にいたるまで、多くの数字や具体的な例を挙げながら、綿密かつヴィヴィッドに語ってくださった。内容が豊富で、詳しく伝えることができないのが残念だが、以下がその簡単なレジュメである。
 パリの日本文化会館設立のアイディアは、1982年、当時のフランス大統領ミッテラン氏が来日して、日本の首相鈴木善幸氏と会談したときに遡るという。それ以来、いろいろな経緯があったが、フランス政府が土地を提供し、日本政府が建物を建てることで合意が成立し、建築プランのコンペが行なわれて1994年から実際の工事が始まった。場所は、エッフェル塔近く(メトロでは Bir Hakeim が最寄り駅)、セーヌ川に沿った快適な立地が選ばれた。会館が完成し落成の式が行われたのが、1997年の3月で、実際の事業が始まったのは同年の9月からだった。
 森村氏は、落成のちょうど1年前の96年3月から図書室開室の準備を任された。当時は、電話一本だけの事務室で、1年間で本や雑誌、ビデオ、CD−ROMなどを揃え、室内の調度品などまで準備するのは、たいへんな作業だったという。会館は、すべて情報化され、コンピュータで制御されているが、とくにフランス語の環境で日本語が自由に扱え、表示、印刷できるシステムを構築することは、きわめて困難で、日本とフランスの企業が協同してその作業に当たった。一方、蔵書の基礎を作る作業も、日本で一般の公共図書館を起ち上げる、というような場合には既成のメニューがあってそれに沿って行なえばいいが、日本文化会館の特殊なニーズを満たすには、すべて手作りで新たにリストを作るところから始めなければならず、困難をきわめた。基本的な方針としては、
[1]現代日本全般を知るために、フランスの大学修士課程程度のニーズに応えられる学術図書館の性格をもたせること、
[2]資料の60%を日本語の図書、残りの40%程度を欧文の図書で占めること、
[3]日本にかんするあらゆる種類の質問に答えられるようなインフォメーション・サービスができるようにすること、
[4]貸出し図書館であること、
[5]「メディアテーク」の性格ももたせ、「espace audiovisuel」を作ってビデオ、音楽CD、CD−ROMなどを利用できるようにする、
などの方針が決められた。また利用者としては、70%がフランス人(または欧米人)、30%が日本人となるだろう、という想定で作業が進められた。結果として、1年間で約一万5千冊の本を集め、また「espace audiovisuel」のためにビデオ1000本、CD−ROM100本、音楽CD100本が集められた。また、雑誌、新聞などの定期刊行物も、50種が集められた(現在では100種)。とくに新聞や雑誌などは、発行後直ちに納入できるようにしなければならないので、費用もかさみ、困難が大きかった。また、日本のCD−ROMをフランス語の環境で動かすには、大きな問題があり、とくに日本語を知らない利用者が利用することは、非常に難しいので、必ずしも成功とは言えなかった。一方、日本についての海外の研究は、日本に限定されているものは多くなく、雑誌などの大部分は、アジア、あるいは東アジアというような地域研究の枠組みで刊行されているので、そうした雑誌も多く収集している。
 図書室の事業は、会館全体の事業より数ヵ月遅れて、1997年の11月から開始された。現在では、蔵書は約2万冊になり、平均して1日に100人程度の利用者があるという。蔵書は、近い将来に3万冊に増やす予定。リファレンス・サービスは、単純なもので年間1500件、調査に時間が必要な複雑な問い合わせは300件ほどあるという。ただし、学校の宿題やクイズの答えを得るため、あるいは翻訳の依頼、美術品の鑑定、といった種類の問い合わせには、最初から答えない方針を明確にしてある。
 図書室は、完全に一般公開されており、資料もすべて開架の状態で手に取ることができる。ただし貸出しには会員になる必要がある。また、講演会やシンポジウムなどの催しも企画されており、これまでに大岡信氏の詩の朗読、川端康成や三島由紀夫についてのシンポジウム、『東海土中膝栗毛』の特集などが行なわれた。また、ニュースレターの発行も行なっている。司書は6人で、日々こうした作業に従事している、とのことだった。
 最後に、フロッピーに収められた写真がパソコン・プロジェクターを通じて映写され、また活発な質疑応答が行なわれて、会が終了した。

 感想を付け加えるなら、発展途上のパリの日本文化会館の図書館は非常な活況を呈しており、それに比して現在の日仏会館図書室は、とてもそのように「元気」な状態とはいえないように思われる。日仏間は、文化的には圧倒的に日本の「輸入超過」であるといわれて久しいが、こうした状況を比較するかぎり、それに「逆比例」した現象が起きているといわざるを得ない。この事実を知ったうえで、われわれ日仏会館図書室の利用者としては、今後の図書室を何とかもり立てていく方向に努力しなければならないと思う。そのためにも、今回の講演会は意義深いものだった。

(文責・彌永信美)


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