在宅医療1年半経過して

                           隈診療所 宮崎秀人

はじめに)
 おかげさまで、1年半経過して、これまでに75名の患者さんを経験し、34名がなくなり、うち22名が自宅、6名が施設での看取りでした。現在35名の在宅の患者さん(悪性腫瘍8名)を診させていただいております。
 疾患としては悪性腫瘍が37%で最多であり、それ以外の脳卒中、心不全、老衰といった疾患が占めております。
 この1年半というもの、医療の現場でさまざまな経験をしました。また現在の在宅医療、いや医療全般にわたる矛盾も感じてきました。それをすこし話してみたいと思います。

1、悪性腫瘍の患者さんの治療について

 従来、悪性腫瘍は最後を病院でみとるケースが多くて、診療所では診断をすることはあっても、治療はもちろん、最後を看取ることもありませんでした。
その最後にかかわるという意味で、地域の医療として無力だった診療所に、いくらかでも役割があたえられたような気持ちがしてきました。
 夜中の往診などを通して、病んでいる人間の心がすこしでもわかるような気持ちがします。これは診療所にとって、とても大切なことだと思います。
すこし長い年月、外来診療をしていると、どうしても、リスクを抱えたくないと考える気持ちの中で、病院にすべてをまかせてきたのを、自分なりに恥ずかしく思える最近です。
そういう意味で、在宅医療が、医療本来の”命と向き合う瞬間”を作ってくれたことに感謝しております。

2、家庭というものの意味

 日田市内には一人暮らしの家庭が3000世帯あるそうです。つまり3000人が、一人で不安な夜を迎えているということです。
 さまざまな家庭の事情で、ひとり暮らしを余儀なくされているのだとは思いますが、その不安感や、さみしさは、どんなものでしょう。
もちろん、そんな数の人たちに、私ひとりでは何もできないことは、明白ですが、人として、自分の無力を嘆くだけです。

しかし、家庭があるからといって、それでよいともいえません。介護というものは、家族を疲れさせます。家庭内の緊張や不和を生むきっかけにさえなります。そんな現場をたくさん見て、なんともいえない気持ちがあることも事実です。

3、こころの病について

 さまざまな家庭や環境の中で、老人だけでなく、家族にもこころの病が訪れることがあります。在宅でなくとも、外来でも、そのような場面にたくさん遭遇します。
精神科でもない、内科の開業医は何ができるのか?
患者さんの広がりの中で、自問自答しながらすごしております。

4、地域の医療デザイン

 外来にきていた患者さんが、保険がなくなったから薬を一日おきに飲んでいるといった話もあります。保険の問題だけでなく、夜間の救急体制や、ドクターショッピングのような患者さんの複数医療機関受診も、患者さん側の意識を変えることによって、良い方向にいけるような気がします。
そろそろ地域の医師会も、医療の地域におけるデザインについて、行政と話し合うべきではないでしょうか?

5、開業医同士の連携

在宅では連携が大きな問題です。それ以外でも、個人企業としての業態は、病院とも異なる診療所なりの問題がたくさんあります。人材の問題もそうでしょう。
現状では、コンサルタントなどのサービスを利用するしかないでしょうが、それにも良し悪しがあるでしょう。
どうやったら診療所同士の連携がとれるのでしょうか?
やっぱり飲みニケーションしかないのでしょうか?

報告というよりも、愚痴になってしまったかもしれませんが、問題提起だとお考えください。

(H20.9.2)


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