「冬」の創作 1925(大正14)年2月5日
   

「冬」の創作
1925(大正14)年2月5日




『春と修羅』第二集の中に「冬」と題された詩があります。

『春と修羅』第二集 四◯九 『冬』
がらにもない商略なんぞたてようとしたから   
そんな嫌人症にとっつかまったんだ       
  ……とんとん叩いてゐやがるな……     
なんだい あんな 二つぽつんと赤い火は    
  ……山地はしづかに収斂し         
    凍えてくらい月のあかりや雲……    
八時の電車がきれいなあかりをいっぱいのせて  
妨雪林のてまへの橋をわたってくる       
  ……あゝあ 風のなかへ消えてしまひたい……
蒼ざめた冬の層積雲が             
ひがしへひがしへ畳んでゆく          
  ……とんとん叩いてゐやがるな……     
世紀末風のぼんやり青い氷霧だの        
こんもり暗い松山だのか            
  ……ベルが鳴ってるよう……        
向日葵の花のかはりに             
電燈が三つ咲いてみたり            
灌漑水や肥料の不足な分で           
温泉町ができてみたりだ            
  ……ムーンディーアサンディーアだい……  
巨きな雲の欠刻                
  ……いっぱいにあかりを載せて電車がくる……

この詩では、時間が「八時の電車がきれいなあかりをいっぱいのせて」とありますから 20時の空をシミュレートしてみました。それから、ここに登場する電車とは、花巻電気軌道をさしているのでしょう。
さて、星空の方ですが、空には月齢11.9(20時)の月が輝いていました。しかし詩のなかでは 「凍えてくらい月あかりや雲……」とありますから、雲が多くその間から時々月あかりがもれる程度なのでしょう。
詩の最後ちかくに書かれた「……ムーンディーアサンディーアだい……」は天体との直接の 関連はなく、宮澤賢治語彙辞典の解説によると、インディアンの言い伝えを元に書かれた曲「ミネトンカの湖畔にて− インディアンの愛の歌」の冒頭の部分、"Moon deer, Sun deer"に由来するとの説明があります。


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