松五郎の玉手箱
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【保管ファイルNo.57】

 11. 4.16 「原発は危険」指摘してきた。「安全」判決に改めて疑義

 大地震が起きたら、原子力発電所は危険ではないか――。周辺に住む住民は各地の訴訟で、国や電力会社と長く、激しく争ってきた。ほとんどの判決は「安全性に問題はない」と判断したが、東日本大震災では深刻な事故が起き、収束の見通しも立たない。「これで裁判所もわかったはず」住民側は、改めて原発全体の安全性に強い疑問を投げかける。(ソース:朝日新聞/11. 4.16)

 「恐れていたことが現実に起きてしまった。今回の地震で『想定外』という言葉をよく聞くが、胸が締め付けられる思いだ」。中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の運転差し止め訴訟で原告団の代表を務める白鳥良香さん(78)は語る。 
 同原発は東海地震で予測される震源域の中にあり、「想定を超す地震が起きるかどうか」が争点の一つだからだ。中部電力側は「考えられない」と繰り返してきた。
 地震の影響で、原発の非常用電源が起動しないことがあるのかどうかも争われている。福島第一原発では実際に動かなくなり、大事故へとつながったが、一審で中部電力側の証人として出廷した班目春樹・東京大教授(現・原子力安全委員長)はこうした可能性を「想定していない」と断言。「可能性があるものを全部組みあわせていったら、モノなんて造れない。どこかでは割り切るんです」と説明した。  2007年10月の静岡地裁判決は「耐震安全性は確保されており、原告らの生命、身体が侵害される具体的危険は認められない」と述べて、原告側の請求を棄却。控訴審は今も東京高裁で続く。
 今回の大震災を受けて、白鳥さんらは原発の運転を停止させる仮処分の申請を準備し始めた。中部電力も福島第一原発の状況を踏まえ、津波対策として高さ12メートル超の防波壁をつくることや、非常用電源を充実させるてことを決めた。白鳥さんは「電力会社、国、裁判所、世論…。これで考えが変わらないのなら、命を軽視することにほかならない」と語気を強めた。(長谷川潤、中井大助)

 危険認めた判決

 「電力会社の想定を超えた地震動によって事故が起こり、住民が被曝する具体的可能性がある」。2006年3月、金沢地裁の井戸謙一裁判長(当時、今年3月に退官)は、北陸電力の志賀原発2号機(石川県志賀町)の耐震性は不十分だとして、稼働中の原発の運転を差し止める全国唯一の判決を言い渡した。
 2号機は国が1978年に定めた耐震指針を踏まえマグニチュード6・5の直下地震を想定して設計された。しかし判決は、想定を超える地震が起きれば、外部電源や非常用電源の喪失▽緊急時に炉心を冷やす装置の故障▽炉心溶融(メルトダウン)――などが起きる可能性が高いと指摘した。
 一審判決後の06年9月に国は耐震指針を改定。北陸電力が再評価や補強工事をレたため、二審・名古屋高裁金沢支部は09年3月、住民側の請求を退ける逆転判決を言い渡し、最高裁も昨年に追認した。
 今回の震災では、金沢地裁判決が指摘した危機がまさに現実化した。住民側の弁護団長を務めた岩淵正明弁護士は「今回の事故は決して想定外ではない。原発を容認してきた裁判所にも責任の一端がある」と語る。(岡本玄)

 後で活断層発展

 74年以降に運転が始まった松江市の島根原発1・2号機では、98年になってから、約2.5キロ南に長さ8キロの活断層があることが判明した。「耐震設計上、考慮すべき活断層はない」と説明を受けてきた住民らが提訴。訴訟の過程で中国電力は活断層の長さを修正し、2008年の段階で「22キロ」とした。
 こうした訴訟で、裁判所はどのように結論を導くのか。最高裁は92年、四国電力伊方原発と福島第二原発をめぐる設置許可処分の取り消し訴訟で、「現在の科学水準に照らして、行政庁の判断に不合理な点はないかをチェックする」という立場を示した。
 島根原発をめぐる昨年5月の松江地裁判決は「活断層や原発の耐震安全性の調査は、最新の研究成果を反映した国の耐震指針などに基づいている」と述べたうえで、住民側の運転差し止め請求を退けている。
 今回の震災が起きたのは、3月4日に広島高裁松江支部で控訴蕃の第1回口頭弁論が開かれた直後だった。住民側弁護団長の妻波俊一郎弁護士は「今回の津波で、国側がよりどころにしてきた研究成果は崩れた。裁判所は、国や電力会社の言い分をうのみにせず、安全性を判断するべきだ」と訴える。
 青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設の事業許可取り消しを国に求める訴訟は、18年も青森地裁で審理が続く。近くに活断層が存在し、耐震性が争点となっている。原告団の浅石紘爾代表はこう話した。「これ.まで裁判官は『国の専門家が確認しているから』と軽くみていたのだろう。今回の事故で、国の安全事査がいかにずさんか裁判官も再認識したはずだ」  (平賀拓哉、西川迅)

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各地の訴訟 原告たちの主張 《過去の原発訴訟で裁判所が示した見解》

◆ 北海道電力泊原発<北海道>
 自分たちの子どもに何を残すのか。多方面から議論を尽くし、賢明な選択をしなければならない(99年2月、運転差し止め訴訟で札幌地裁。住民側の請求は退ける)
◆ 北陸電力志賀原発<石川県>
 原発が人類の「負の遺産」の部分を持つこと自体は否定できない(昨年9月、1号機の運転差し止め訴訟で名古屋高裁金沢支部。住民側の請求は退ける)
◆ 電力会社の想定を準えた地震動により原発事故が起きる具体的可能性がある
(06年3月、2号磯の運転差し止め訴訟で金沢地裁。差し止めを認める。高裁で住民が逆転敗訴、最高裁で確定)
◆ 高速増殖原型炉「もんじゅ」<福井県>
 国の安全基準は不十分(03年1月、名古屋高裁金沢支部。設置許可を無効と判断。最高裁で住民が逆転敗訴)
◆ 四国電力伊方原発<愛媛県>
 現在の科学水準に照らして、行政庁の判断に不合理な点があるかどうかという観点から判断するべきだ(92年10月、設置許可をめぐる訴訟で最高裁が司法審査のあり方について初判断。福島第二原発についても同様の判断。住民側の請求は退ける)


【保管ファイルNo.56】

 23. 4.10 放射能汚染を巡る日本人の誤解と政府の説明責任
  <チェルノブイリの惨状を知る被曝治療の権威ロバート・ゲイル博士に聞く>

 放射性物質が広範囲に拡散し、予断を許さない深刻な状況が続く福島第一原発。4月4日には、東京電力は国の基準値の約100倍に相当する濃度の「低レベル」汚染水約1万1500トンを海に放出する異例の措置に踏み切った。タービン建屋地下などに滞留するさらに高濃度の汚染水の回収先を確保するための応急措置であり、放出による人体への影響はないと東電・政府側は説明しているが、事態悪化を招いた両者への不信感は根強く、放射性物質の大気中への拡散や土壌汚染リスクがさかんに報じられるなかで、国民の不安は拭えない。はたして現状の放射線は本当に心配のないレベルなのか。陸海の多様な生物も汚染される中で、長期的に見た場合、放射線の累積量に本当に懸念はないのか。1986年のチェルノブイリ原発事故でソ連政府(当時)に依頼されて現地で救命活動に従事した放射線被曝治療の専門家、ロバート・ゲイル博士に話を聞いた。ちなみに、ゲイル博士は、福島原発事故後も日本を訪れ、事故対応について政府関係者らと意見交換をしている。同氏の結論を最初に伝えれば、現状の放射線量は心配のないレベルであり、そのことを説得力をもって国民に説明できる人間が政府内にいないことが問題だという。
(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)  (ソース:ダイヤモンドオンライン)

――今回の来日の目的は何か。

 福島第一原発で復旧作業にあたっている作業員を診る医師らと会い、作業員を隔離治療する決断をどのような時に下すのかといった点について話し合った。また、東電関係者と被曝のレベルや作業員の保全についても懇談した。消防士や自衛隊、作業員、医師らが待機する事故対応拠点も訪れ、意見交換を行った。さらに、首相官邸では福山哲郎官房副長官と面談し、放射線のリスク、またそれを国民にどうわかりやすい方法で伝えるかについて話し合った。

――福島第一原発における作業員の作業環境や、日本政府の対応をどう評価しているか。

 医学的な観点から見て、作業員の安全確保は基本的に適切に行われていると考える。被曝線量限度もかなり保守的な目安に従っている。体内被曝、外部被曝を測定する各種計測器をつけて被曝量の管理を適切に行っている限り、そして想定外の爆発事故が起こらない限り、短期的にも長期的にも健康に影響が及ぶことはない。
 その一方で、日本政府は非常に難しい立場に置かれている。損なわれた信頼を取り戻すため、頻繁に放射線データを発表し透明性を確保しようとしている様子がうかがえるが、政府内に放射線に詳しい専門家がいないため、かえって混乱を招くだけの結果になっている。国民が理解できるような方法でデータを噛み砕いて伝えることができていないのだ。

――どのように噛み砕くのがいいのか。

 たとえば、(日本政府は)現在、飲料水では放射性ヨウ素が1リットルあたり300ベクレルを超えると好ましくないというメッセージを国民に伝えている(乳児の規制値は100ベクレル)。しかし、この数値は何も目の前のコップに入った水を飲むと危険だということを示しているのではない。
 20杯飲んでも大丈夫なはずだ。その値以上の飲料水を5リットルほど毎日1年間飲み続けたら、ガンになる確率が1万分の1上がる可能性がわずかにある、ということだ。そういう説明を、自信を持ってできる人間が政府内にいないことが問題なのだ。

――放射性物質を含む大量の汚染水が海に放出されたことで、魚介類への影響も懸念されているが。

 それについても、同じことだ。
 もちろん、放射性物質を含む汚染水を海に放出せずに済めば良かった。だが放射線が最も危険なのは濃縮した状態だ。広い海に流せば、希薄化する。海への放出は、現状で考え得る最善の選択肢なのだ。
 また、魚介類に対する放射性物質濃度の基準も、他のものを食べず、その魚だけを一生食べ続けたら、ガンになるリスクがわずかに増えるという程度ものだ。そもそも海には以前から放射性物質が含まれている。1994年まで海底での核実験が行われていたし、原子力潜水艦や核弾頭なども海底に沈んでいるからだ。海水の放射能汚染は何も新しいことではない。
 むしろ今後の問題は、人々が怖れるあまり近海の魚が売れなくなり、経済的な打撃を受けることだろう。だが、それは無知に基づいた反応以外の何ものでもない。政府は、専門家による委員会を組織し、そうした説明を国民に向けて行うべきだろう。今からでも決して遅くない。

――福島第一原発の周辺地域および住民はこれからどうすればよいのか。

 おそらく最もあり得るシナリオは、こうだ。原発の状況は改善しているが、完全に制御できるようになるまであと数ヵ月かかる。1号機から4号機は廃炉が決定的となったが、その方法が石棺(コンクリートで固める)であれば2〜3年はその作業に必要だ。解体撤去には、さらに数十年単位の歳月が必要だ。
 現在避難している周辺住民は、環境を注意深く調査してからの話だが、場所によっては、1〜2年のうちに元の住まいに戻ることができるだろう。チェルノブイリでも、立ち入り禁止区域に指定されている30キロ圏内で現在生活している人たちもいる。

――住民が戻ったとして、長期的に見て健康に影響が出る可能性はないのか。

 住民が放射線量の高い雲の中をくぐるようならば話は別だが、それは今回現時点では起こっていない。では、一定期間が経って、保守的な被曝線量限度の目安を超えた場合はどうなのか。むろん、土壌の放射能汚染がどの程度かによって、外部被曝だけでなく体内被曝のリスクも継続的に検査する必要があるのはいうまでもないが、たとえば70歳の高齢者でこれまでタバコを吸い続けてきたような人ならば、現状のレベルの放射線によるガンのリスクは微々たるものに過ぎない。若年層には勧められないが、高齢者ならば、場所によっては住み続ける選択肢もあり得るだろう。
 繰り返しになるが、より深刻な事故を起こしたチェルノブイリの30キロ圏内にも、今では住める場所はある。問題は細やかな環境調査に基づいて「ここはいいが、あそこはダメだ」といった区分けが徹底できるかということと、食糧確保など生活のためのインフラが本当に確保できるかということだ。チェルノブイリの半径30キロが原則立ち入り禁止区域に指定されている背景には、そうした区分けやインフラ確保が難しいからという事情もある。

――土壌の放射能汚染についても、われわれは適切に理解していない可能性はあるか。

 放射性セシウム137の半減期(放射線量が半分になるまでの期間)は30年だが、これはいわば実験室のガラス瓶の中での話だ。現実の自然界では雨や浸食によって、もっと速く減っていく。ただし、水道管の中に入り込むと危険なので、厳しくモニターする必要がある。  放射能汚染が懸念されているホウレン草やミルクも、先ほど言ったようにその汚染されたものだけを一生飲食し続けた場合に危険だという値だ。現在、アメリカの各機関が、魚介類やコメへの影響についても計算しているところだ。

――チェルノブイリ事故直後の惨状を知る立場から、今回の状況をどう見ているか。

 チェルノブイリは、福島第一原発の現状とは比べものにならないくらいの大惨事だった。放射線量も多かったが、事故をさらに悲惨なものにしたのは他の要因にもよる。たとえば、事故直後現場に駆けつけた消防士らは、放射性物質が飛散していることをまったく知らされていなかった。防御服もなく生身で放射線にさらされながら、消火活動を行っていたわけだ。

 また、20年以上前のソ連では、住民に政府の情報を伝達するのは簡単なことではなかった。教育レベルも低く、政府の言うことに従おうという意識もあまりなかった。

 (チェルノブイリ事故の影響で)6000件の甲状腺ガンが報告されているが、これは子どもたちが放射性物質に汚染されたミルクを飲み続けていたからだ。周辺は農村地域で、当時は食糧の流通システムも発達しておらず、住民たちは地元農村で採れたものを口にしていた。こうしたことに加えて、(放射性物質が甲状腺に害を与えるのを防ぐ)ヨウ素剤も十分に行き渡らなかった。つまり、原発事故直後に本来取られるべき措置のすべてが取られなかったのだ。
 これに対して、福島原発事故では、日本政府の説明下手という問題はあるが、放射能汚染リスクへの対処はきちんと行われていると私は考えている。
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ロバート・P・ゲイル(Robert P. Gale)
 白血病および骨髄ガン治療を専門とする医師。分子生物学および免疫学からのアプローチで知られる。放射線生物学にも詳しい。 ニューヨーク大学バッファロー校で医学学士号、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で微生物学および免疫学の博士号取得。1973〜1993年までUCLA医学部で教壇に立ち、その間1986年にはチェルノブイリ原発事故後の被曝治療にあたる。薬品会社の研究所などを経て、2007年からセル ジーン社の血液学および腫瘍学の臨床実験担当エグゼクティブディレクター。


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