<行政資料集 5−2−1>

阪神大震災から6年 「その時」への備えに地域差

「ボランティア」規定を持たぬ県庁所在市も

 災害に備える態勢づくりは、とこまで進められているのか。読売新聞が行った全国主要自治体の地域防災計画調査では、阪神大震災の教訓を生かした見直しが進む一方で、地域や自治体間の取り組みに温度差があることも浮き彫りになった。「大都市・広域防災」「ボランティアとの連携」「災害弱者への配慮」という三つの点に着目してまとめた。

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 ■帰宅困難者

 オフィス、繁華街、ターミナル。通勤・通学者、買い物客らで膨れ上がる大都市の防災で、昼間人口対策は避けて通れない。東京都は大地震による交通まひで371万人が帰宅困難になると想定。「徒歩などによる帰宅を支援する」(防災計画課)のが対の柱だ。甲州街道、環状8号線など16の幹線道路を帰宅支援道路とし、沿道の郵便局や都立学校に、水や食料、トイレなどを提供する「帰宅支援ステーション」を整備中。神奈川、千葉両県への海上輸送や多摩方面へのバス輸送も計画している。35万人の帰宅困難者が予想される新宿区では、来年度、新宿駅周辺の商店街などと対策を話し合う場を作る。横浜市は、鉄道5社が乗り入れ、1日200万人が乗降する横浜駅に帰宅困難者が集中すると予測。非常時には、みなとみらい21地区の会議場を一時宿泊場所として開放する計画だ。

 一方、大阪は府、大阪市ともに対策なしで、<無防備>ぶりが際立つ。昼間人口が住民数の1.5倍、381万人に膨らむ同市は、住民だけが市内にいる前提で地震被害を想定している。「防災の対象は住民が基本」(安全対策課)とし、検討課題にもなっていないという。

 ■広域対応

 埼玉県草加市は東京都足立区など隣接10市区と避難所を相互利用する協定を結んだ。被災地の兵痺県では、同様に、宝塚市が憐の川西市の学校を避難所に指定している。姫路市など4市21町は、非常食12万食や毛布などを共同で備蓄。遊休地を互いに融通し、がれきや資材の置き場に利用することにしている。

 ■人材確保

 阪神大震災の教訓が最も反映されたのが、ボランテアに関する規定。「ある」と回答した142自治体の大半が、ボランティアセンターや役所に登録窓口を設け、災害前に人材を確保する態勢を取っている。通常は介護や通訳、手話などの分野が中心で、災害時に衣替え―という形式が多い中、大分県は4年前、ボランティアセンター内に「災害ボランティア運営委員会」を常設した。社会福祉協議会や医師会、トラック協会などの代表で構成、登録人数は計約1,000人。年に2回の研修も実施している。ユニークなのはバイクチーム。車が役に立たなかった阪神の経験を生かし、オフロードバイクなどで、現場の情報を集める。一方、「ない」と答えた40の自治体の中には、秋田、山梨、新潟、広島、島根、福岡、熊本など10の県と、青森、長野、福井、京都、山口、高知、佐賀など11の県庁所在市が含まれている。

 ■弱者対策

 9割近い159自治体が「ある」と回答した災害弱者対策では、細かな配慮の施策が幾つか見られた。愛知県春日井市は、災害時に一人で避難できない独居高齢者、障害者の連絡網を作成した。昨年9月の東海水害では、連絡網を活用して高齢者7人、障害者3人を、職員が車で避難所へ送り届けた。視覚障害者向けに、声の防災ガイドを用意したのは徳島市。これまでに1,000本を無償配布した。ボタンを押すと消防局に緊急通報できるペンダントも導入し、高齢者や重度障害者ら500人以上に渡している。東京都荒川区は、区内に寮がある東京外大の留学生や日本語専門学校で学ぶ外国人を対象に、防災授業を実施する。震度7までの揺れを再現する「起震車」での体験や、防災センターの易学なども。同区防災課は「出身国によっては、地震を経験したことのない人もおり、熱心に聞いてくれる」と話していた。

"実動部隊"との連携カギ

 中央省庁の再編によって国の防災体制はどう変わったのか。国の防災の要だった国土庁防災局の機能が内閣府に移った。国土庁が各省庁の連絡役に徹していたのに対し、首相を補佐する同府は他省庁より一段格上とされており、関係機関への迅速、具体的な指示と情報収集を徹底する。災害対応の″実動部隊″となる警察や消防、自衛隊などと、スムーズな連携が取れるかが課題となる。阪神大震災では、国土庁が現地の情報を把握するのに手間取り、政府の対応が後手に回った。大規模地震などが発生した際、内閣府は防災担当とあらかじめ指名した職員計約100人を招集し、情報を把握する。同時に首相か同府の特命大臣の一人の防災担当相が関係閣僚の招集を指示。被害状況に応じて、緊急災害対策本部(本部長・首相)か非常災害対策本部(本部長・防災担当相)を設置する。並行して同府は関係省庁の課長クラスを招集し、政府としての具体的な対応策を協議する。阪神大震災後、内閣官房に内閣危機管理監が設けられたが、内閣官房と同府防災担当とを連動させるため月1回、連絡会議を開き、情報交換する。ただし、同府の防災担当は約50人。この人数で集中する指示や情報に対処することになる。

 

<行政資料集 5−2−2>

01.01.16 読売新聞 社説 大震災対策 住宅再建支援の議論を深めよ

 阪神大震災から17日で、6年が過ぎる。昨秋には、これと同じ規模の鳥取県西部地震が起き、数百人が家を失った。二つの大地震で悩みとなったのは、住宅再建をどうするかだった。個人資産の救済は行わない原則から、現在、公的な支援制度はない。ただし、個人の自助努力にも限度がある。例えば、倒壊した一戸建て住宅やマンションに住んでいた人たちは、残ったローンの返済と新たな建設費の二重の負担に苦しんでいる。そのために街の復興が遅れれば、地域の経済活動は停止同然となって活性が失われ、コミュニティーそのものが崩壊する恐れさえある。こうしたことから、旧国土庁の住宅再建支援検討委員会は昨年末の最終報告書で、被災者の住宅や生活再建が速やかに行われれば、「地域の経済活動が活性化し、その復興を促進するため、ある種の公共性を宿する」との見解を示した。公的救済には当然、一定の限度があるものの、国民共通のリスクに対処でさる共済制度を創設し、復興を促すのが現実的との考えからである。阪神大震災ではビル、住宅26万棟が倒壊した。兵庫県は約12万戸の復興住宅提供で急場をしのいだ。これはあくまで緊急の特例策でしかなかった。

 昨年10月の鳥取県西部地震では鳥取、島根両県中心に約400棟が倒壊した。鳥取県は全国で初めて、建て替え補助として300万円を支給したが、島根県は「私有財産の救済はできない。風水害など他の自然災害とのバランスを欠く」と同調しなかった。高齢低所得世帯に限り最高300万円を援助した。大災害のたびに被災自治体は苦慮が絶えない。住宅再建の支援は阪神大震災以来の懸案でもある。

 超党派の国会議員で作る自然災害議連が、再建資金の支給を柱とする基金創設法案の骨子をまとめ、昨秋発表した。住宅所有者から、年間最高2,500円の共済負担金を固定資産税の納付に合わせて徴収し、最高850万円の再建資金を支給するが、負担金の未払い者には原則支給しない、というものだった。ひとつの考え方ではある。だが、援助の財源は税か共済金か、対象となる災害の種類や中身をどう線引きするのか、地域差をどう加味するのか、そもそも自助努力を損なうことにならないのか、など検討すべき課題は多い。こうした問題を頭において議論を深める必要がある。日本はどこも被災地になりかねない地震国だ。他人事と考えず、総合的な対策を充実させたい。

 

<行政資料集 5−2−3>

地震で倒壊……我が家の再建 どうする公的支援

原則は自助努力

 約25万の住宅が倒壊・焼失し、45万世帯の人々が住まいを失ったり住宅に被害を受けた「阪神・淡路大震災」から、あす17日でまる6年。持ち家の再建について、国は「私有財産のための財政支援は行わない」との立場だが、高齢化が進む中、地域社会の基盤である住宅の再建を自助努力にゆだねるだけでよいのか―という議論が起きている。昨秋の鳥取県西部地震では、住宅再建に初めて公費が投入された。災害時の住宅保障に対する公的支援のあり方を考えてみたい。(猪熊 律子)

鳥取県西部地震 初の公費投入

 ◆鳥取県の決断

 「この土地を離れたくない。だから県や町の支援をありがたく思っています」昨年10月6日に震度6弱に見舞われた鳥取県西部の溝口町。農業安達一孝(73)、音子(74)さん夫婦は、全壊した自宅跡に建て始めた一軒家を前にそう話す。

 被災住宅の再建に対し、最高300万円まで補助するとした鳥取県の決断は、住宅への公費投入に初めて踏み切った例として注目された。財源の内訳は、県が200万円、市町村が100万円。溝口町ではこれに加えて、年収250万円以下の世帯に限り、さらに独自に100万円を上乗せしている。「このあたりでは小さな家なら500万円あれば建つが、高齢独居や老夫婦世帯が多く、自主再建はとても無理。だから、最初は500万円を全額町で出せないかと町の幹部会に提案した」と福祉保健課長の杉原良仁さん。しかし、「財源をどうするのか」「個人の財産に町税を出すのはいかがなものか」などの意見も。結局、県が補助策を打ち出したため、町が100万円上乗せすることで落ち着いた。町の財政を預かる立場から500万円の助成に反対した総務課長の佐蔵洵子さんも、「住宅は個人財産だが、再び家を建てて住んでもらえば、町の固定資産税にはね返ってくる分もある」と納得した。

建て替えを申請したのは現時点で8世帯。補修費も含め、住宅再建支援により町が新たに見込む負担は約4億5千万円。大部分は県からの借金だ。「財政的には厳しいが、町民の願いに手を差し伸べることこそ行政の役割」と住田圭成町長は言う。

 ◆国の支援求める声

 国は、「私有財産の再建は自己責任で」との原則を崩していないが、変化を感じさせる動きもある。その一つが国土庁(当時)の検討会が先月まとめた報告書だ。「住宅は単体としては個人資産だが、大量の住宅が広域にわたって倒壊した場合は地域社会の復興と深く結びついているため、ある種の公共性を宿する」として国に支援策の検討を求めた。超党派による国会議員の会が昨年10月にまとめた「被災者住宅再建支援法案」(仮称)の骨子では、全国の住宅所有者を対象にした共済制度を創設し、再建支援金の半額を国が負担することを提案している。公費支出について、会長を務める原田昇左右衆院議員は、「自己責任は当然だが、密集した市街地が壊滅した場合、個人で勝手に再建してくれといっても復興は難しいため」と説明する。

 被災住宅への公的支援のあり方は阪神大震災の時にも問題化した。がれきの処理への公費投入や、住宅ローンの利子補給などは行われたものの、鳥取県のような公費投入はなかった。同県を視察した「日本居住福祉学会」会長の早川和男・神戸大名誉教授は、「住宅は建物だけでなく、地縁や血縁もあるその人の人生そのもの。その基盤を突然奪われ、住み慣れた土地を離れなければならないとしたら、いくら福祉を充実させても元も子もない。西欧では住宅が社会資産になっている」と、公的支援の重要さを訴えた。

海外では支給例

 ◆難しい公助論議

 阪神大震災の反省を受けて、被災者の生活再建のために最高100万円を公費助成する「被災者生活再建支援法」が98年に制定されたが、これは住宅再建費用に使うことは対象外。しかし、被災者の問には「生活再建に何よりも必要なのは住まいだ」との思いが強い。

 国土庁の検討会の委員長を務めた広井脩・東大教授によれば、海外では政府が被災者に住宅再建にも使える現金を支給する例もある。アメリカでは、約100万円が限度だが、持ち家の再建にあてたり修理などに使ってもよい。同様の制度は台湾にもあり、広井教授は「仮設住宅にお金をかけるより、再建資金の一部にあてた方が合理的との考えからではないか」と見ている。一方、公費助成といっても国の財政が悪化している現状では難しく、「そもそも、土地や建物の個人所得や売買の自由を認めた私有財産制の原則を侵すべきではない」という主張もある。地震保険への加入や耐震住宅に住むような「自助」、地域で助け合い資金も出し合う「共助」、そして公的支援を行う「公助」の組み合わせが必要だとの指摘は多いが、私有財産制の下での公助のあり方をめぐっては、まだまだ検討の余地がありそうだ。

私有財産への支給あり得ぬ……経済学者・野口悠紀雄氏

 「持ち家は個人の資産そのもの。私有財産制を認める限り、個人の財産である住宅に国が直接的な現金支給をすることはあり得ない。家を持つことはリスクを伴うが、それによる利益も個人に帰属しており、マイナス面だけ国に面倒を見てくれというわけにはいかない。もし、住宅に公共性を認めるのなら、被災者やホームレスの人たちに、自宅の一部を使わせる義務も認めるべきだ。それが公共性というものだ。しかし、個人の住宅にそのような義務を認めることを、到底、一般の人々が望んでいるとは思えない。個人が持ち家のリスクをすベて負わなければならないのは合理的とは言えない。こうなるのは、日本で借地借家法の制約によって、借家の供給が限定されていることによる面が大きい。非常時への備えは非常に重要な課題だ。リスク軽減の方法として、規模の大きな保険や共済制度を作る方法もある。そうした制度に加入しやすくしたり、当面の生活支援をすることなど政府のすべきことはある。それらにもっと知恵をしぼるべきで、経済の原理原則、根幹制度を崩すべきではない」

「地域の再建」へ補助は必要……鳥取県知事・片山善博氏

 「今回、住宅再建に300万円の補助を決めた背景には、地域社会の再建という課題がある。被災翌日から現地を見て回ったが、被害がひどかったのは高齢化率が30%を超える山あいの地域。家を建て直すにはお金も気力もない、ローンを借りようにも借りられない。そうした住民は放っておくとその土地からいなくなってしまう。復興して道路は立派になったが、主人公である住民がいない、そうした事態は避けたかった。私有財産制の原則はわかるし、減失財産を補てんするつもりはない。だが財政の理屈を押し通したら地域社会が崩壊してしまう。背に腹はかえられなかった。300万円で家が再建できるわけではない。自助が基本でも自助だけでは不足な人もいる。そうした人たちが家を再建しやすくするための、いわば自助努力を後押しするための政策だ。300万円という額は、仮設住宅を1戸建てる費用に含わせた。政府は仮設に対しては手厚い支援をするが、今回は希望が非常に少なかったので、その分を回してもいいのではないかと考えた。今後は住宅再建のための基金制度の創設に尽くしたい」

 

<行政資料集 5−3>

(01.01.24 読売新聞)  大災害時の医療体制 情報伝達がカギ 広域支援も重要

 6,000人以上の犠牲者を出した阪神大震災から6年が過ぎた。大災害時の医療体制は、依然大きな不安を抱えている。<医療情報都 田中秀一、中部本社・社会部 安江清彦>

 大規模災害の被災地では、病院も救急車も機能を失う。極限状態で、どう負傷者を救うかが、阪神大震災の残した重い課題だった。

 神戸では、地震で市立病院が倒壊。他の多くの病院でも、電気や水道が止まり、高度な検査機器や手術室が使用不能になった。殺到する重傷患者に必要な手当てができず、ハイテク医療設備のもろさが浮き彫りになった。交通が遮断され、救急車の患者搬送も困難を極めた。被災を免れた地域では、大阪大病院などが通常の手術予定を取りやめ、被災地からの患者の受け入れ態勢を整えた。ところが、搬送された患者はわずかだった。

 神戸には、患者を運び出すためのヘリコプターが東京、名古屋などから集結した。だが、震災初日に運ばれたのは1人だけで、システムの始動が遅れた。周辺病院や搬送ヘリの待機情報が、被災地の病院に伝わらなかったことが原因だった。

 これまで、災害時の医療計画は都道府県単位で作られてきた。厚生労働省は、阪神大震災の教訓から、都道府県の境界を越えて被災地を支援する「広域災害救急医療情報システム」を1996年にスタートさせた。

 災害時に重傷患者の治療を行う拠点病院を県ごとに指定。各県の情報センターや、千葉県にある全国バックアップセンターのデータベースに、患者受け入れが可能な病院からの情報が入力される一方、被災した病院からは被害状況や患者の転送要請の「SOS」が送られる。山本保博・日本医大教授(救急医学)は「災害時は情報伝達がカギになる。このシステムは大きな前進」と評価する。

 東京都は、区部で直下型地震が起きた場合は死者7,000人、重傷者17,000人と想定。重傷者のうち、7,000人は都内60ヵ所の拠点病院で診療するが、10,000人は他の救急病院や他県への搬送が必要としている。拠点病院そのものが被災する可能性が大きいため、他県の支援は一層重要になる。

 だが、システムがインターネットを通じているため、電話回線の寸断や、通話の殺到でつながらない場合は使えない。16府県がまだ参加していない上、情報を被災地の個々の病院に伝える手段も確立していない。これでは阪神大震災と同じ混乱が繰り返される恐れがある。

 山本教授は「インターネットだけでなく、無線、衛星回線など二重三重の通信手段を整備することが必要」と指摘する。現地に日赤、自衛隊などの医療チームを速やかに送り込むことも欠かせない。国際緊急援助隊の待機部隊に当番指定されている陸上自衛隊第10師団(名古屋市)では、海外で大災害が起きた際に派遣する医師、看護婦ら医療スタッフを最大70人確保している。エアドーム型の診療テント4基、野外用エックス線撮影装置なども装備、1日600人を診療できる。国内の災害でも、各地の部隊から同様の医療団が派遣される。ただ、これは応急処置が主体だ。高度な治療は設備の整った病院に任せるしかない。広域的な医療体制の一層の整備が求められている。


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