<行政資料集 3> (00.12.15 産経新聞)

中高年の再就職はばむ不合理な壁 年齢差別撤廃を

公平な機会与えて欲しい 市民グループ「働き盛りの会」訴え

国も法整備へ腰上げ

 仕事を見つけたくても年齢を理由に門前払い−。中高年の再就職をめぐる年齢差別をなくそうと、求職者らでつくる市民グループが積極的に活動を続けている。労働省も中高年の雇用促進を目指して、求人の年齢制限廃止へ向けた法改正を次期通常国会に提出したい意向だ。意欲や能力があれば年齢に関係なく公平に働く機会を得られる、当たり前の社会に向けた取り組みが進んでいる。(中曽根聖子)

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 市民グループ「働き盛りの会」は、雇用の年齢差別を禁止するよう訴えている。代表の兼松信之さん(48)は旧新進党の職員だったが、3年前、突然の解党で失業した。雑誌編集の経験があったので、民間企業で働こうと公共職業安定所(ハローワーク)で仕事を探したが、求人のはとんどが35歳まで。「合理的な理由もなく、年齢だけで門戸を閉ざされる現実に憤りと疑問を抱いて」(兼松さん)、2年ほど前に「働き盛りの会」を旗揚げした。

 口コミなどで仲間を募った結果、メンバーには会の趣旨に賛同する中高年の求職者を中心に、過去に年齢差別を受けた人や海外在住経験者、学者ら約120人が参加している。これまでに街頭演説やチラシ配り、ホームページなどで−般への啓発活動を続けるとともに、政治家や労組、企業経営者、関係省庁などに年齢差別撤廃への理解と協力を訴えてきた。

 兼松さんは「今の日本では、中高年がリストラなどで一度離職したらやりなおしがきかない。理不尽な思いをしている人は数多く、だれもがいずれは直面する大きな社会問題だ」といい、雇用の年齢差別を禁止する法制定を求めている。

 米国では30年以上も前に「雇用における年齢差別禁止法」が制定され、現在は40歳以上の労働者に対する年齢差別が禁じられている。しかし、日本国内では企業の募集・採用時に年齢制限を設けることは"あたりまえ"に近い。

 労働省の外郭団体・日本労働研究機構が昨年11月に実施した調査では、企業の約9割が求人の条件に年齢上限を設定し、その平均は41.1歳。上限を設ける理由としては「年配者は体力的に対応できない」「賃金が高く、人件費がかかる」「社風になじまない」などを挙げる企業が多かった。こうした慣習を受けて、10月の有効求人倍率は全体で0.64倍だが、50〜54歳は0.32倍、55〜59歳は0.18倍と、中高年の求職はいっそう厳しい。

 ある50代の男性は、前の会社をやめてから失業手当が給付される10ヶ月間、職探しに奔走した。だが、頼みのハローワークの求人は、年齢制限40〜45歳がほとんどで、担当者には「自分で探してください」とあしらわれた。新聞や雑誌の求人広告を見て200通にも上る履歴書も送ったが、全滅。結局、正社員の道をあきらめ、派遣社員として働くことにした。年収は前職の4割程度に落ち込んだ。この男性は「今の日本では、普通のサラリーマンが40歳を超えて再就職するのは難しい。英語や特殊な資格、技能がなければだめでしょうね]と肩を落とす。

 深刻な雇用不安を受け、労働省はこれまでも、ハローワークや都道府県を通じて企業に年齢制限の緩和を要請したり、中高年を雇用する企業に助成金を支給するなどの施策を講じたが効果はいまひとつ。中小企業からは「年齢制限を緩和して、応募が殺到したら対応できない」「年功序列でなく、能力本位で評価できるならいいが、そういうシステムがない」といった"悲鳴"も上がる。

 このため労働省は、企業が募集・採用をする際に、年齢条件を入れないよう雇用対策法の改正作業を進めている。早ければ来年の通常国会にも法案を提出したい意向だ。ただ、年功序列型賃金や定年制を前提にした日本の雇用制度では、年齢制限を一気に禁止することは難しい。このため、罰則は設けず、努力義務にとどまる。さらに、年齢にとらわれず働き続けられる(エイジフリー)社会の実現に向けた有識者会議を今年度中にも立ち上げる予定だ。

 ようやく重い腰を上げた国の動きを、兼松さんは「半歩前進」と評価しながらも、この問題を検討する審議会などに「経営者や労組、学者だけでなく、職を求める当事者の意見を反映させてほしい」と訴えている。


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