楽しかった?日比谷野音のボーヤ体験

1973年8月、日比谷野音で開催された「ロックンロールカーニバル」でボーヤのバイトにありついた。
日当1,500円、弁当付きだったと記憶しています。
出演バンドは「キャロル」「1815ロックンロールバンド(内田祐也とクリエイション)」
「ファニー・カンパニー」「カルメン・マキとOZ」「ファーイースト・ファミリーバンド」
「ジプシー・ブラッド」その他名前は忘れましたが、10以上のバンドが出演しました。

当日は午前中に集合、赤いリボンをもらい、PAスピーカーの積み上げなんかの仕事をしたり
トラックに乗ってギンガムの倉庫(マンションの一室)に器材を取りに行ったり等の雑用係をこなし
バンドのリハの準備、片づけをやったりとか、正直な話、結構楽で楽しいバイトでした。

リハと言っても大物バンドはリハはやらず、アンプ類も備え付けを使用するので、また、
高校生の我々には重要なセッティングの仕事はまわってきませんので、ステージや楽屋等を
うろちょろする時間もけっこうありました。
あるバンドのリハをステージ横のイスに座ってうつらうつらしながら見ていたところ
なんだかいい香りに気付きフト隣を見るとカルメン・マキさんが隣に座っていました。美人でした。
「暑いわねー・・・」とつぶやいてどっかへ行ってしまいました。
突然、ジョ−・山中氏が現れ周りを見回してどこかへ消えていきました。矢沢永吉氏が
普段着で現れて、(たしか草履でした)楽屋へ消えていきます。

午後になり、開場・開演。キャロル目当ての女の子がステージ前を占拠します。
暑い日射しの中、色々なバンドが演奏を続けていきます。ビートルズのコピーバンド
ストーンズの物真似やら前半は知らないバンドの演奏を聴いていました。
そのビートルズのコピーバンドのギャラが5万円と聞きました。演奏の終わったバンドはギャラを
貰ってそそくさと帰っていきます。
コンサートも後半になると、楽屋の中は有名なミュージシャンが揃ってきます。
内田祐也氏の周りには色々な人たちがあつまっています。反対にキャロルの4人は
楽屋の隅っこでハーモニーの練習をしていました。心構えが他とはちょっと違います。
セッティングで大変だったのは、ファー・イースト・ファミリーバンドでした。
置き物なのか楽器なのかわからないものがあったり、譜面台、スモーク、小型ですが
自前の照明機具も持ち込んでいました。譜面をこっそり見ると、△とか×とかギザギザマーク
なんかが書いてあってさっぱり分かりませんでした。ボーカルの人は最近「睡眠コンサート?」
とかいうのをやっているらしいですね。いい仕事だと思います。
1815ロックン・ロールバンドの出番の時、我々バイト連中はステージと客席の間のスペース
に集められます。これはトリのキャロルに備えてのためです。
しかし、そのおかげでわたしはクリエイションの竹田和夫氏のギタープレイを1m50cm
の距離で堪能することができました。華麗なテクニックでしたね。
内田祐也氏がマウンテンとクリエイションが共演するこになったと下手な英語で
言っていました。そのコンサートも行きましたが、マウンテンよりクリエイションの方が
良かったです。
そして、いよいよキャロルです。キャロルの演奏の前、前にいる女の子たちに
ステージに上がらないでくれよなとお願いします。みんな「ハ−イ!」と良い返事。
わたしはステージに腰掛けて、不測の事態に備えます。周りもちょっとした緊張感に
包まれます。そこへキャロル登場。「キャー!」歓声が野音に溢れます。
わたしの位置から矢沢氏まで約1m50cm、つばが飛んできます。
さすがに、キャロルはカッコ良かったです。MCもほとんどなく、ロックンロール
していました。キャロルの演奏も終盤になったころ、わたしは異変に気付きました。
後で聞いたところ、わたしの周りにいたバイトの連中も気付いていたそうです。
それは、臭いです。おしっこの臭いです。失禁です。
やがてラストナンバー「ルイジアンナ」が始まります。その時、だれかがわたしの頭を
を叩いて、バケツを渡しました。中身は花とホオヅキでした。それを客席に投げろ
という指示です。投げました、やけくそで投げました。それがよけいに興奮をあおった
のかもしれません。「酔わせてぇーー」で「ルイジアンナ」が終わったとたん
一人の女の子が矢沢氏目掛けてステージに飛び上がってきました。その時、わたしは
異変の正体を目の当たりにしました。止めなければいけない・・しかし我が身は
硬直して動きません・・傍にいる他のバイト連中もそのすさまじい光景に呆然と
しています。と、その時、そのすさまじい光景の背後にいて、状況を理解していなかった
O君(岡田君・世田谷区在住)がラグビーのタックルよろしく女の子に飛び掛かり、見事に
ステージ上で制止しました。いつまでも抱き着いているO君を我々は引き離し、女の子を
客席へ連れ戻しました。「おい、お前達、ちゃんと見てなきゃダメじゃないか!」と
怒りながら両手をゴシゴシとジーパンで拭いているO君を我々は黙って見つめていました。

野音のライブレコードへ行く