映画館がやってきた! 映画鑑賞記

運動靴と赤い金魚

■DATA (1999年/イラン)

Story

 妹の靴を無くしたお兄ちゃんが、何とかしようと健気な大奮闘をするお話。

 主人公はあまり裕福ではないイランの家庭の小学生の少年。
 病気で腰を痛めている 母のお使いで、妹の運動靴を修理して貰い靴屋から帰る途中、買い物をしている間に その靴を無くしてしまう。
 家に帰ると大家が「家賃を払え」とねじ込んでいる真っ最中で、靴を無くしたこ とはとても言えるような雰囲気ではない。
 「運動靴が無くては学校に行けない」と悲しむ妹のために、兄の運動靴を午前中は 妹に貸し、午後急いで戻ってきて履き替えて兄が学校に行くという苦肉の策をとりつ つ靴探しを続ける。(たぶん、男女別学、午前午後の二部授業)

 妹は朝礼の時間に、自分の靴を履いている少女を発見して、自宅まで後をつけて みるが、どうしても言い出せない。偶然妹が落としたボールペンを彼女が拾ったこ とでやっと話が出来たのだが、彼女の靴は新品になっている。テストの点が良かっ たのでおじいちゃんが新品を買ってくれて、古い靴は捨てられてしまったのだ。
 一家の生活は苦しかったが、お父さんの友人が「高級住宅街に行って庭師をやると いい稼ぎになる」と道具を貸してくれたので、主人公と共に出かけ、あちこちで 断られながらもついに一儲けに成功する。
 二人で自転車に乗った帰り道、お父さんは二人の子供に新しい靴を買ってあげよう と約束してくれるが、ブレーキの故障で溝にはまって大けがをしてしまう。
 なんとか擦り傷程度で済んだ主人公は、街の「少年マラソン大会」で三等の賞品が 運動靴なのを知って出場する。
 激戦の末ついにトップ集団に追いつくが、5,6人が横一線でゴールになだれ込み 気が付くと一位になってしまう。カメラマンに取り囲まれ、先生たちは大喜びする が、主人公は「一位では運動靴がもらえない」ので落ち込む。
 帰宅してマメだらけの足を中庭の池で冷やすと、水中には赤い金魚。
 しかし、そのころ怪我を治したお父さんは約束通り二人の子供の靴を買って 帰るところだった。

感想

[2001.1.13](BS) ★
 公開当初「運動靴を無くしただけで、あんなに大騒ぎになるなんてリアリティー を感じられない」という意見を耳にしたけれど、実際見てみるとイランの低所得者層 の暮らしぶりがそんなに想像を絶しているというわけではない。
 何にもない長屋暮らしで、家賃をためては大家に怒られるほど貧乏だけれど、 かといって無下に追い出されるほど不人情でもないという町。
 玄関に靴を脱ぎ捨てて、絨毯の上の裸足生活。机はないから床で勉強する というのは、どことなく戦前の日本のような光景にも思える。
 だけど、学校に通う子供たちを見ていると、ボロボロのサンダルで 登校している子もいれば、日本でもナマイキな子供が履いていそうな ブランド・スニーカーを履いている子供もあり、ランドセルの変わりに しゃれたナイロン地のバックパックを使う子供が多いけれど、主人公は どう見てもお父さんのお下がりの革鞄。という感じに、けっこう幅広い 貧富の列がずら〜っと並んで、イランの下町の暮らしが見えるような 面白さがある。
 ともあれ、妹の靴を何とかしようという小学生のお兄ちゃんの気持ちは 世界共通で伝わってくるものはある。地味な人情話というのは日本人、 大好きだし(^^)

 作品としては、ただ「靴がない」というだけではあるれど、次から次へ と怒濤のエピソードでだれる所がないし、しかし感情過多にならず品良く まとまっていて、いい話だな〜と思える。疲れない映画。

 邦題の『運動靴と赤い金魚』というのは、原題が分からない (画面には映っているようだがアラビア文字だし…)の で何とも言えないが、ラストの金魚が映るところを強調しすぎていて、 ちょっと「凝りすぎ」と感じる。さりげない人情に不似合いな、強い 表現意欲が出しゃばっている気がして、もっと何でもないタイトルの方が いいような…。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!