映画館がやってきた! 映画鑑賞記

スプリガン

■DATA
総監修/構成 大友克洋, 脚本/監督 川崎博嗣
日本劇場(有楽町),SRD,1998.9.13

Story

 古代の超文明を封印することを目的とした調査機関&私設軍隊「アーカム」
 そのNo.1工作員である高校生、御神苗 優。
 そして、彼らを遺跡を守る妖精の意味である「スプリガン」と呼ぶ。

感想

 予告編が大変期待させる出来だったもので、事前に原作コミック(たかしげ宙) を読破した。これが面白い。壮大なスケールのミステリーと主人公の成長物語。
 古代文明をキーワードにした様々なアイテムが面白いし、主人公の成長物語は、 拳法マンガのそれであったりする。
 主人公が高校生なので、学園モノでもある。
 メカも登場するし、超自然現象も起こりまくる。
 まあ、ちょっとカルトだけれど、面白くなる要素てんこ盛りの原作だと言って いいでしょう。

 映画では、原作の「ノアの箱船」のエピソードを取り上げて居るのですが、 そのために、成長物語や、学園モノである面白さは入り込む余地がありませんで した。もっぱらアクションと、破壊のカタルシスで見せることになります。

 しかし、なんだか見終わって心の底からスカッとしない。
 たとえば、トルコの市街地での追いかけっこシーンがありますが、ルパン三世 だったら、走っているだけで楽しいのですが、そういうのが無い。スピード感は 有るのだけれど、爽快感が…

 アクションシーンなどはアニメの得意分野だと思うのですが、いまひとつ。
 なんか、画面がごちゃごちゃしていてよく分からない。一騎打ちなら、 最近では、もののけ姫のサンとえぼし御前の名シーンが思い浮かびますが、そういう緊張が ない。一枚絵である原作マンガの方がアクションを感じるのはどういうことだろうと思って しまいます。

 オリハルコンの繊維で作った強化服の威力とか、原作での重要なアイテムが、 主張していないのも、ツボを外された気分です。
 強化服を着ているために、30倍の力が出る。…と言葉では説明されていました が、映画の中では、簡単にぶっ飛ばされたり、めちゃくちゃ強かったり、首尾 一貫していない印象を感じました。
 超人的な戦士であるが故に、原作では戦いの中にも静けさのようなモノが感じ られるのですが、映画は単純な力と力に見えます。

 全体としては、なかなか楽しかったのですが、原作の面白みがどうも生きて おらず、アクションの速度だけで点数を稼ごうという感じでした。

 日本のSFアクション系アニメの中ではかなり高い水準をいっていると思います が、もっと監督/演出に力が欲しいところです。
 大友さんの監修ですが、随所に『アキラ』臭さが出ていたのは、大友ファン には良いのでしょうが、私も何度も繰り返し見ている作品だけに、奇妙な既視感 におそわれて、『スプリガンを見ている』という気分が削がれたという逆効果も 感じました。

●サウンドデザイン
 TVの特番でdts音声について触れられていましたが、アクションの緊迫感につ いて、音響が失敗していたせいもあると思います。
 ま、映画館の設備がしょぼいのも有りましょうが、始終ぐわ〜んと大音響で、 間がない。ひたすらうるさい。
 銃の手入れをする効果音などがTVで紹介されていましたが、1000人もはいる 映画館の音響ではブヨブヨよ拡大されて、まったくリアリティーが損なわれてお り、悪いところばかりが耳に付きました。
 ノアの崩壊シーンも然り。音響的に抜くところを作らないとうるさいだけなんですね。

●音楽
 なかなか良かったですね。
 エスニックな女性ボーカルの響きは『攻殻機動隊』でも使われていましたが、 今回は舞台が日本〜トルコでもあるし、しっくりきていました。


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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!