映画館がやってきた! 映画鑑賞記

宋家の三姉妹

■DATA (1997年/香港・日本/2時間25分) 原題:
キャスト:
監督/脚本:

Story

 物語は、1890年代、清朝末期の上海に始まる。
 宋家の三姉妹、長女・靄齢、次女・慶齢、三女・美齢は、 聖書の印刷で財を成したチャーリー宋の娘である。(史実では他に 三男が居て6人兄弟姉妹)
 チャーリーは、米国留学でキリスト教の牧師の資格を取っており、 娘たちも米国に留学させる。また、孫文の革命活動を支援しており、 二人は友人関係だった。
 1911年。辛亥革命。孫文は中華民国臨時大総統に選ばれた。
 帰国した長女・靄齢は孫文の秘書を勤めていたが、二女の慶齢に秘書の仕事を任せて 孔子の直系子孫で資産家の孔祥熙と結婚する。彼は靄齢の助言で中国初の本格的な 銀行経営をはじめる。
 孫文は、日々暗殺者に追われ就任44日目にしてその任を袁世凱に譲って 日本へ亡命する。だが、秘書の慶齢は後を追って日本を訪れ、秘書の仕事 を続ける。
 革命の準備を続けながら二人は愛を育むが、孫文は父の友人でもあり、 親子ほどに歳の離れた二人の結婚を父は許さない。
 やがて袁世凱が死去し、孫文は広東に革命政府を樹立する。
 宋一家は芝居を観に行ったところで、居合わせた孫文の軍事顧問の 青年士官・蒋介石が、末娘・美齢を見初める。
 同じ時、孫文は襲撃され夫婦とも命からがらの逃避行をする。
 孫文は革命のためには軍隊が必要であると、士官学校を設立し、 その校長に蒋介石を任命する。資金は孔祥熙が提供する。
 父・チャーリーの他界。そして孫文も続けて病で死に、妻の慶齢 が、国民党を受け継ぐ形で政治の世界に入っていく。
 その後美齢と蒋介石は結婚する。
 革命で清朝が倒れたのはよいが、内政は孫文の国民党と、共産党の 二派に分かれて混迷する。
 国民党政府は共産党員のサボタージュを強烈に取り締まり、警察力を 掌握していた蒋介石と、これに反対する二女慶齢の溝は深まり、彼女は 国民党を離脱する。
 内政のごたごたに乗じて、日本が日中戦争を仕掛けてくるが、蒋介石は 日本より国内の敵を制圧することを優先して、国政は更に混迷する。
 国民党離脱後ソ連に避難していた慶齢も、祖国の危機に帰国するが、 やがて蒋介石拉致事件が起こり、妻美齢は、直接敵地に交渉に乗り込み ついに国民党、共産党は一致して日本に当たることになる。
 つかの間の国内統一はしかし、第二次世界大戦の終結と共に破られ、蒋介石は 台湾に逃げることになる。

感想

[2001.7.22] VHS ★★
 1900年代前半、激動の中国で一人の銀行家と二人の革命家(孫文、蒋介石) に嫁いだ三姉妹の物語。

 97年、香港・日本合作2時間25分の作品であるが、香港返還の狭間に あって中国政府の厳しいチェックのために、革命に対する描写はかなり の検閲を受けているという。しかし、政治的には極力中立の立場で 作られているように見える。

 多少の脚色はあるのだろうが、こんな途轍もない三人の女の大河ドラマを 二時間半に収め、しかも当局のカットもありということで、決して映画その ものの出来は完璧な物ではないが、怒濤のように流れていく時代の荒々しさ と、これを乗り越え、あるいは立ち向かった女のドラマの重量感というのは 大変な物だ。
 米国留学から戻ったばかりのはつらつとした三姉妹の笑顔が、戦争と革命 に立ち向かううちに、険しく、悲しみを秘めた表情になっていくところに、 民族が争うことの悲劇を感じる。

 映画芸術として、非常に詩情溢れる映像になっていることはもちろんの ことだが、日中関係がこれほどまでに複雑に絡み合っていたのが近代の歴史 であったということを「年表を眺めるだけ」ではわからないような丁寧さで 描いているのも希有なことだ。
 戦争の時代を描くとき、たいていは視点は敵か味方かということになる ものだが、日清戦争で政府が倒れたからこそ、孫文は新政府を作れた(12年) のだし、孫文と日本の関係はかなり友好的な物だったが、後に日中戦争(37年) が起きたときには、当然日本は悪役であるが、それ故に国内は統一され、 しかし第二次世界大戦後、再び内戦に突入する(46年)という、時代の 大きな流れの中で幾度も、中国にとっての日本の意味が移り変わって いったことが、多角的に描かれている。
 この多角的な描写は、そもそも三姉妹がそれぞれの立場に引き裂かれ、 しかし家族の絆を守っていたというこの作品のテーマが導き出した 特別なスタンスから来ているように思う。

 資本家である孔祥熙と靄齢、国民党を開いた孫文と後に共産党に身を投じた慶齢、 軍人であり政治家であった蒋介石と美齢。
 中国にあるのは家族の絆だけで、国家とか企業とかのまとまりはないと 聞くが、本当にこの映画を見る限り政治、国家レベルでの混乱は酷い。 しかしこの混乱の中で三姉妹の家族愛が最悪のシナリオを少しでも 書き換えていったということは、西洋人だって何かを感じるだろう。

 ラストに「革命とは愛である、愛もまた革命である」という言葉が 出てくる。三姉妹の父の形見で蒋介石に渡された聖書に書き込まれた 一節である。
 蒋介石は孫文の国民党をファシスト集団に変えて、共産主義者に 弾圧を加えた大悪人のように描かれているし、事実もおそらくよほど過酷な ことが行われていたのだろう。
 しかし、この映画を見た後の印象の中に、100%の悪人は居ない。 蒋介石の方法は間違っていたのかも知れないが、中国統一のため、 彼もまた必死だったのだと思える。それは、最後の一言があるためだ。

●ビデオ化
 ところで、この映画は詩情溢れる映像でとても美しそうなのだが、 VHSはヘラルド独特のもやの掛かった黒と、VHSの低解像度のせいで 残念ながらすっきりしない。残念。内容は素晴らしいので、ワーナー価格なら 間違いなくDVDを買うところだが…。

●豆知識
・宋家の月見。「月餅」というお菓子は「中国の月見団子」らしい。 しかも、大きければ大きいほど偉い。だからお金持ちは一抱えもある ような巨大月餅をお求めになるようだ。映画の中のそれはなかなかの インパクトのある代物であった。
・映画館はおばさんでいっぱいだったらしい。
 戦争体験を持った60歳を過ぎた人には、びびっと来るのかも知れない。


■関連URL

[戻る | 目次]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!