映画館がやってきた! 映画鑑賞記

ミッション・トゥ・マーズ

■DATA: MISSION TO MARS(2000/米)
 監督:ミッション・インポッシブルのブライアン・デ・パルマ
 主演:アポロ13のゲイリー・シニーズ

Story

 火星探検で発見された謎の発信源に向けてレーダーを照射した探検隊は、突然の大嵐に見舞われ 地球との交信を絶つ。中継船から送られた最後の画像には「謎の人面岩」が。
 数ヶ月後、救助に向かったチームは人面岩の謎に挑戦する。
 それは太古の世界から我々に向かって送られたメッセージなのか?

感想

[2000.6.8 VC市川 No.1]
★☆ 世間の風評は「期待はずれ」…とよろしくない。
 どうも宣伝は「アクション巨編」という線で打っているのに、中身はごく尋常な「2001年火星版」 という所が不評な原因ではないかと。しかも、こうしてストーリーを要約してみると、 目眩がするほどシンプルではある。

 ストーリーはとにかく、『2001年,2010年,コンタクト,アポロ13』のmixという感じで、 舞台が火星だというのが、SF的にレトロといえばレトロだが、真っ当なSF映画(=科学的良心の存在) であることは褒めても良いと思う。
 ただ、ホラー、アクションの要素はほとんど無いので、宣伝文句の雰囲気 に誘われてきた人は???かも。その辺は"うそ、おおげさ、紛らわしい"(笑)

 シンプルではあるが、要所の書き込みや、枝のエピソード、無重力の映像には手抜きがない。
 ワタクシ的には、アポロ13で月に行けなかった「ゲイリー・シニーズ」が冒頭バックアップチームとして 今回も地上に残る側に回っているのを見た途端に思わず応援したくなってしまった(^^;というのもあって、 気持が好意的な事はあるかも知れない。
 が、ともかく「火星の描写」はNASAの広報映像に忠実だし、 無重力シーンは、本物の無重力を使ったアポロ13のリアリティーには負ける所はあるものの、 2001年の延長で考えれば、実にうまくできていて、無重力でダンスをするなどというサービス シーンも盛り込んで「無重力を楽しめる」映画になっていると思う。
 CGも「無重力を漂うドクターペッパー」(^^;は若干CG臭かった気がするが、ほとんどの部分で うまく生きている。
 ストーリーの単純さ、意外性の欠如でマイナスされた評価も、無重力の描写に代表される 映像の面白さ、SFファンならなるほどと思う宇宙での各種トラブルに対する危機管理の妥当性 など、ドキュメンタリー的な真面目さが作品を品のある物にしている。刺激的というのでは ないが、古典の名作のエッセンスを借用して映像化したという感じ。
 音響デザインも好感だった

 宇宙物でも「アルマゲドン」になると、主役のキャラが立ちすぎて「宇宙のダイハード」に なってしまう。しかも細かいカット割と、どぎつい色使い、登場人物の突飛な発言で 理屈をなぎ倒しながらドラマティック優先で話が進むわけだが、 ゲイリー・シニーズが主役を張るとジャンルとして「NASA物」と でも言えるアカデミック雰囲気が出たんじゃないか。そんな気がする。 こてこて演出、どんでん返し連発のほうが、インパクトがあるのは当然だけれど…。
 本作の「サイエンスな雰囲気全開」という点を見れば、危険を省みず科学のために冒険する心は 「コンタクト」に通ずる所が多く、テーマは近いが「2001年」ほど秘密めいてはいない。答えを 見せてしまうから。
 もっと謎が残っていたら、重みが出たのかな?とは思うが、後味の軽さという点で 気楽に見ればいい映画じゃ無いかと思う。芸術めかした重い作品や「泣け〜」という作品 ばっかりじゃ疲れるし(笑)

スローでじっくり・DVDの感想

 映画館で見てとにかく無重力の浮遊感が良くできているな〜と思ったので レンタルでもう一度見てみようと思った作品。
 火星の赤一色と宇宙船のまぶしい白のコントラストが鮮やかで、一歩間 違うと「デジタル臭く」なりそうな人工臭さがあるものの、実写の前景と CGIの背景が浮くと言うこともない。言ってみればすべてが異世界的と いうことなんじゃないかな。

 コントラストの強い極端な画像が多いので、プロジェクターでの鑑賞には 向いた画だと思う。ただ、やはり出来るだけ大画面でないと、この人工的な 世界に入り込む感じにはならないところが、映画館向きとも言える。
 無重力シーンの中でも、DNA型に並べたマーブルチョコ、飛散する血液と ドクターペッパーなどの液体は「CGIだなぁ」と即座に見えてしまうので、 もうひとつ。ライティングやテクスチャが実物と馴染んでいないのもあるが、 マーブルチョコを無重力の船室に浮かべることがNASA的に 許可されるかどうかも謎だし、いくら無重力でも空気の流れはあるわけで、 たぶんあんなに沢山の粒をあれほど綺麗に並べるのは無理だろうと、 直感的にそう見えてしまうのも作り物臭く見える原因だろう。なんだか 美しすぎるわけだ。
 しかし、竜巻に襲われるシーンの生き物っぽい人工物っぽさはなかなか 良くできていると思った。このへんは技術の勝利か。
 火星人が見せてくれるCGは「CGっぽさ」を狙っているのだろうから あんなものかも知れない。
 全体に美しいのだけれど、美しいだけでは動じなくなって「観客が 慣れてしまった」と言うことかな。

 SFXで楽しいと思ったのは「無重力空間でダンス」のシーン。
 別に凝ったことは無くて、くるくる回っている足下が切れているので 仕掛けが映っていないというだけなんだけれど、 「無重力空間でダンスをしたら楽しそう」というシチュエーションに 説得力があって良い。その他、ドーナツ型の人工重力区画をぐるっと 歩いて回るなどはもう「古典」なんだけれど、モーションコントロール カメラで視点を漂わせるセンスが良くて、仕掛けの古くささを感じさせ ないのが良い。
 どうもCGIで何でも出来る時代だからこそ、実体のある映像の部分の もっともらしさが気になるようだ。

 ストーリーはびっくりするほど単純だから、二度目の発見というのは あまり無かった気がする。最近は、繰り返し見るときには、背景部分の 芝居や小道具の遊び、カメラワークの工夫などが気になって、埋め込まれた 丁寧な仕事を発見すると感動したりするのだけれど、この作品は登場人物も 少ないし、人間関係シンプルだし、セットもず〜っと狭い宇宙船の中で 代わり映えがないので、遊びの余地がない。
 なんとなく良いな〜と思ったのは、『アポロ13』と『オクトーバー・スカイ』 のテイストをミックスしたような冒頭のパーティーのシーンと、空気漏れ 事故を発見するために流したジュースがどうして「ドクターペッパー」 なんだろう?ということくらいかな。ペプシにしておけば、タイアップして もらえたかも(笑)

 科学的に気になった部分は、宇宙空間に漂ってしまった人を救出に向かう シーンで、宇宙空間には抵抗がないのだから本当は「距離」が問題なのでは なくて「加速度」が問題になるはず。
 ジェット噴射の燃料の残りが問題なら、力一杯船体を蹴って飛べばずいぶん 節約できるはずだし、相手に近づくことが出来る状態まで加速したら、あとは 燃料無しで近づくことが出来るはず。わざわざ制動をかけて相対速度ゼロの 状態で別れの涙を流すのは奇妙な話で、「見る見る遠ざかって為すすべもない」 というのが、あのシーンのリアルな描写だろう。
 もう一つ違和感を持ったのが、火星人の送ったシグナルを解読してDNAの 立体図だと分かったのはいいとして、主人公がこれを見るなり「人間のDNAだ」 と分かるところ。遺伝子の切れっ端を見て「あ、人間だ」って分かる人が 居たら、それはびっくりだ。暗記しているのか…? 必須アミノ酸のリスト 位だったら、専門家は暗記しているかも知れないけど(と、好意的解釈も…)
 人類の遺伝子が火星人とのつながりを開く鍵になっているというアイディアは なかなか美しいのだから、もう少し丁寧に描いても良かっただろうと思う。

 結局この作品は冒険よりは「地球人の起源を探るミステリー」だと思う。
 宇宙船の上で起きる事故なんかは、ただの繋ぎ。
 無重力の美しさを描くのも、CGIで何でもあり。
 だから謎解きの重要性が高まるのだと思うけれど、 「火星に人工物がある→DNAが鍵だった」という流れがちょっと淡泊ではな かったか?映画会社は「SFXアクション大作」を狙ったのだろうが、ストーリー の美味しい部分は実は「謎解き」で、ボタンを掛け違えたのだな…というのが 率直な感想だ。

ファーストコンタクト・ミステリーの最高峰とは…

 まったく謎のままに終わってしまう『2001年宇宙の旅』が、新しく発見すれば するほど深まる謎の連続の魅力で永遠の名作になっていることを思えば、 本作はいかにも素っ気ない。
 小説の方で「ファーストコンタクトものミステリー」の最高峰だと思って いるのはJ.P.ホーガンの巨人三部作。「月面でミイラ化した死体が発見されるが、 実は遠い昔に滅亡した別の文明を持った人間だと判明する」という発端から、 人類の起源に迫るハードな謎解きが繰り広げられる。
 けっこうビジュアル的な広がりもある話なので、誰か映画化して欲しいものだ。
 監督はやはりJ.キャメロンあたりで。ハードかつエンタテイメントに。

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!